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【書評】 恋愛編に続きこちらも素晴らしいキュレーションっぷりだ 『日本SFの臨界点[怪奇篇]』

ほぼ毎日読書をし、ほぼ毎日「読書ログ」を書いています。359冊目。

伴名練による日本SFアンソロジー。先日の[恋愛篇]に続き今回は[怪奇篇]です。昨日ご紹介したの恋愛篇もおもしろかったけど、今日の怪奇篇も緩急織り交ぜの素晴らしいチョイスで楽しませてもらいました。

私、(特に海外作品メインに)メジャー作品だけ押さえているようなカジュアルなSFファンなんだけど、今回のアンソロジー企画で2冊を読み、日本SFというジャンルの底知れない奥深さを感じました。いやぁ、よかった。

昨日の恋愛篇の読書感想はこちらからどうぞ。

二冊目は怪奇篇ということで、ホラーで不思議でスプラッタなチョイス。とはいえ、どぎつい感じは無し。今回も歩留まり率が高いですよ。

収録作品の感想は以下から。

『DECO-CHIN』(中島らも)

所謂フリークスもの。身体改造を行う若者に興味をしめすサブカル雑誌の副編集長が、あるインディーズバンドの取材をきっかけに自らのアイデンティティに目覚め驚く行動に出る。SFなのかな? 面白いから良いけど。

『怪奇フラクタル男』(山本弘)

もう、表題そのままの内容。面白いよ。ショートショート。そういえば牛から牛がフラクタルな感じで生えてくる気持ち悪いビデオあったよなと思い出し、探してみたけど、今見たらちょっと違った。

『大阪ヌル計画』(田中哲弥)

表題に大阪とあるだけでコミカルになる。これも表題そのままな内容だけど、面白いよ。これは怪奇なのか? まぁいいか。

『ぎゅうぎゅう』(岡崎弘明)

上で紹介した『大阪ヌル計画』に続く人類密集系。この世界の人類は、満員電車のような、座る事も出来ないほどの密集度で生活をしていた。食事は西の方から頭上を伝わり届けられ、自分たちが食べ終わると東の人達にわたす。トイレは東から頭上を伝わり届けられるので、そこに済ませてまた西の人達にわたす。まるで養鶏場の鶏のような境遇で人生を送る人々の生活を書ききった怪作。

『地球に磔にされた男』(中田永一)

時間跳躍機構という機械を手に入れた冴えない青年がたどる不思議な旅は意外な結末に。これ以上の内容で紹介しようとすると、ネタバレになってしまうから、紹介が難しい。終わり方がいいね。お気に入りの一つです。

『黄金珊瑚』(光波耀子)

とある高校の実験室で生まれた小さな金色の珊瑚がどんどんと成長し、人間の脳を乗っ取り思いのままに動かすようになる。なんとも古風な内容だし、作品から滲み出る雰囲気も古めかしいなと思ったら、なんと1961年に初出した作品でした。作者の光波耀子も全く知らなかった。

『ちまみれ家族』(津原泰水)

異様に高い血圧と驚異的な造血能力をもった一家による血まみれホラーコメディ。残念ながら、私は楽しめなかった。SFでもないような。

『笑う宇宙』(中原涼)

宇宙船に居る家族4人。僕と<妹>と<母>と<父>はそれぞれが閉塞された環境で少しづつ狂っている。家族4人の対話が進み、一体だれが正しくて、一体誰が狂っているのか。舞台はSFだが、話は狂気をテーマにしたサスペンス物か。結末でもやっとして、つい、読み返したくなる。

『A Boy Meets A Girl』(森岡浩之)

宇宙空間で生き、恒星風を使って恒星間を移動する生物のお話。ディテールの説明に最初は陳腐さを感じるのだけど、それにはちゃんと理由がありましたという。なかなか面白かった。

『貂の女伯爵、万年城を攻略す』(谷口裕貴)

よく出来たタワーディフェンスゲームで遊んでいるような読書だった。

『雪女』(石黒達昌)

昭和初期に北海道で確認された低体温症で診療所に担ぎ込まれた女性にまつわる記録。意識無く運び込まれた女性の体温は24度、脈拍は分あたり20回、呼吸も3回という状態であった。当直医師の処置の結果、女性は意識を取り戻すのだが、体温はやはり30度を超えず、脈拍も30回と低いままであった。過去の機密資料と当時看護師として従事していた女性の証言をベースに、医師が女性の記憶を手繰っていく記録を紐解いていく。現代版雪女なのだけど、これも随分と面白かったな。


面白い短編を読むと、話の隙間や端折れられたところに自分の妄想やアイディアがどんどんと入り込んでいき妄想が膨らみ続けるのだけど、このアンソロジーはそういった作品がとても多くて楽しい読書だった。

まだまだ紹介したい作品のストックが沢山有りそうなので、この調子でシリーズ化してくれないかしら。年に2冊づつとかで良いので。そうしたら[恋愛篇2]あたりが出るとしたらもっと幅広い選択が期待出来そう。

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