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【書評】 個人的2019年ベストは伴名練によるSF短編集 『なめらかな世界と、その敵』

ほぼ毎日読書をし、ほぼ毎日「読書ログ」を書いています。81冊目。

『なめらかな世界と、その敵』(伴名練)

お恥ずかしい事に、伴名練という名前を聞いたことが無かったのです。Wikipediaを見ると、2010年に角川ホラー文庫から『少女禁区』でデビューし、本作が二冊目とありました。前作も知らなんだ。

商業誌よりも同人誌で活躍されていたようで、そこから作品をあつめたのが本作という位置づけ。SFマガジンを読んじゃうような、生粋のSFファンにはかなり知られた存在だったようだ。

収録は下記6作
なめらかな世界と、その敵
ゼロ年代の臨界点
美亜羽へ贈る拳銃
ホーリーアイアンメイデン 
シンギュラリティ・ソヴィエト
ひかりより速く、ゆるやかに

びっくりすることに、すべてが面白い。レベルが高い。あ、私なんぞがレベルとか言っちゃってすみません。とにかく面白い。何が面白いか選べと言われたら、全部面白い。しいて言うなら全部だ。つまり、読んでほしい。

大きく区分すると本作はSFの棚に置かれる本だが、読み手にSF的な素養や事前知識は求めない。今年のベストだと思っていた『三体』は、それなりにSFを読んでいないと楽しみ切れない可能性があるけど。こちらは、フィクションが好きで、ちょっとサイエンスが好きで、男の子が好きで、女の子が好きなら6本中6本は気に入る。

個人的なベストを選べと言われると、まずは表題作の『なめらかな世界と、その敵』だ。並行世界を自由に行き来することが出来る世界、という難しいアイディアを、しっかりと読ませる物語に落とし込んでおり、ラストもくねくねする。細かいことを気にしだしたらきりがないのだが、文章の上手さとラストに向かうスピード感に押されて最後までフガフガ言いながら読んでしまう。

次に『ゼロ年代の臨界点』を推したい。上手いなぁ、楽しんでるなぁと感心しながら読んでしまえる。ユーモアに溢れており、むせかえるようなSF愛にフガフガ息を詰まらせながら読んでしまう。これは是非、漫画でも読んでみたいなと思う。

そして『美亜羽へ贈る拳銃』だ。これは伊藤計劃の『ハーモニー』へのトリビュート。夭折後の伊藤計劃商法には何とも言えない気持ちがあるのだけど、この作品は伊藤計劃への愛が抜群に溢れている。恋愛小説だ。これなら誰も文句なんて言わないだろうなとフガフガしてしまう。

あとは、もう一つあげるなら『ホーリーアイアンメイデン』だ。生前の妹から時間を空け、数通の手紙が届く。特異な能力を持つ姉への愛情と憎しみがギンギンに伝わってきてフガフガする。

そして注目は『シンギュラリティ・ソヴィエト』だ。アメリカがアポロ計画を進める1960年代に、ソ連がシンギュラリティを迎えてしまい…… という物語。シンギュラリティとは、ざっくりいうとAIが人間の知性を超える時点のことで、このシンギュラリティを境に機械による人間支配がはじまるのだ! という話によく使われる。現時点では2045年に訪れるのではないかな? といわれている。「党員現実」にニヤニヤしてフガフガする。

そして忘れてならないのは傑作『ひかりより速く、ゆるやかに』だ。ほかの5本も傑作なのだが、これも傑作なのでベストの一つに推したい。修学旅行中の「のぞみ」が、突如「低速化」という現象に遭遇する。新幹線のみ時間の流れが2600万分の1になってしまう。いますぐ角川に映画化をしてもらいたい。映画館でフガフガしたい。

全部面白いぞ! すごいぞ!

ということで、SFが好きな方は本作を買いましょう。印税はすべて京都アニメーションに寄付されるそうです。私もアフィリエイトの収益を寄付します。

表紙の絵は『かぐや様は告らせたい』の赤坂アカ。カバー無しで読むおじさんにはちょっと勇気が居る。

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