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音の行方

音とは、何か。
語りきれない世界がそこにある。
そして 
音の行方もまた果てしなく・・・
語りきれない世界がある。

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ふつふつと湧いてくる考えごとと、それに纏わる思うところ

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以前に読んだ「パリ左岸のピアノ工房」

プレイエルやベートーヴェンのピアノ・・
数々の歴史あるかつての名器たち。
ボロボロの古いピアノが、職人の手によって次々と再生され
再びピアノに命を宿すまでの物語と
それを取り巻く人々のピアノへの愛が書かれている。
ノンフィクションなのに、夢のようなお話。
そして、ピアノが生き生きと生まれ変わるには、
調律師の存在は大きい。

私の長年お世話になっていた今は亡き調律師さんは、
ピアノに向かうと「さて、いかがかな」と
アルペジオをポロリ〜ンと弾き、
まるで恋人に会ったみたいに丁寧な挨拶をして
「うん、いい、いいピアノだ、いい音だ」と微笑み、
それから私に「どうですか?」とピアノの状態を聞いていた。
そのポロリ〜ンの意味が分かったのは、随分あとになってから。
どんな音を好むのか、どんな音で練習しているのか、
どんな音楽を奏でているのか、
私に聞くより、そのポロリ〜ンが語っていた。

音を通しての信頼関係
言葉を語るより語る音

日々の練習は、誰にも見られることはないけれど、
楽器はすべてを記憶しているのかもしれない。

この本の中に「空間に合ったピアノ」という表現が
あったように記憶している。
放った音がどこへ行き、また音同士が混ざり合って
色彩豊かなハーモニーになるかどうか、反響した音の返り、など
空間と楽器の関係はとても大切に思う。
(弾く技術はもちろんのこと)

包容力ある音を持ったピアノでも、
空間が狭く、ピアノが本来の力量を発揮できなければ、
宝の持ち腐れになってしまう。
小さなピアノでも、空間にあっていれば、
想像を超える響きを味わうことができるかもしれない。

よい楽器とは?
よい空間とは?
よい響きとは?
よい演奏とは?

答えは一つではないところ、果てなき旅のようであり
一生かかっても語りきれない。

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