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ロシアの対独戦勝記念日を前に、日本でもよく考えられて欲しいこと

 明日5月9日は、ロシアが対独戦勝記念日として祝う日で、ソ連が第二次世界大戦においてナチスドイツに勝利した記念日だ。ソ連の継承国を自称するロシアは、「ソ連はファシズムの解放者」だと認識してきたし、現在でもそう考えるロシア人も少なくない。しかし、ソ連はヨーロッパの一部を占領して圧政を敷いたりソ連兵による性暴力を許したりしてきた。こうした経緯から「ソ連が解放者」であるという歴史観を受け入れられない人や政府が東欧には少なくないが、ロシアはそうした国の政府に「ナチス」や「ファシズム」のレッテルを貼ってきた。

ウクライナ侵攻において、ロシアがウクライナの「非ナチ化」を掲げてきたのは、このような経緯がある。

 元々、ソ連が掲げてきたマルクス=レーニン主義では、「帝国主義」を倒すためには他国を攻めることが正当化されている。ソ連と同じくマルクス=レーニン主義を掲げてきた中国が「チベットを帝国主義から解放する」とチベット侵攻を行ったのと理屈は同じである。現在のロシアは共産主義国ではないが、共産主義時代にそのイデオロギーに沿って生まれたロジックに基づいているので、ロシアによるウクライナ侵攻正当化の論理は当然マルクス=レーニン主義の論理と似てくる。

 ソ連による抑圧やそれを取り巻く歴史戦については日本人も他人事ではない。日本人の中にも太平洋戦争末期にソ連によってシベリア抑留されたり性暴力に遭ったりした人もいるからだ。一方で、ソ連やロシアは日本をドイツと同じ「ファシズム」陣営の一つとみなし、第二次世界大戦で彼らを破り、北方領土はその戦利品だと考えている。

 第二次世界大戦直後は、ソ連が連合国だったこともあり、米英仏などもソ連の「悪事」を大っぴらにしなかったが、ベルリンの壁崩壊及びソ連崩壊後にバルト三国などの東欧諸国がEUに加盟し始めるようになり、かつてソ連が何をしていたかについて西欧でも知られるようになっていった。次第にEUの欧州議会では、共産主義がファシズムと同様に批判されていくようになる。

 近年、日本では「マルクスを見直そう」「環境問題を解決するには資本主義を倒すしかない」といった言説がよく聞かれるようになってきているが、納得してしまっている人にはよく考えてほしい。日本でヨーロッパの多くの国と同様にナチスやファシズムが批判される一方、共産主義についてはあまり顧みられることがなかった原因の一つが、ヨーロッパの中でも東ヨーロッパに対してはあまり関心が向けられてこなかったことだろう。東欧が、西欧、北米、英語圏とは異なる文化や考え方、仕組み、歴史観を持っていることを知らないと、その社会情勢を理解することは難しい。ウクライナ侵攻を機に東欧がクローズアップされるようになってきているが、その歴史や社会情勢について思いを巡らし、日本や日本人が今後どう行動していくべきであるか多くの人が考えるきっかけになると嬉しい。

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