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フランスの夫婦の姓の歴史

 先日、フランスでは一律夫婦別姓である一方、通称として夫や母、複合姓が使えるという話をしました。少なくともフランス革命後の18世紀末からフランスは夫婦別姓だったようです。↓参考

 しかし、これを聞いた当初、一瞬不思議に思ったことがありました。

 18世紀末以降、つまりフランス革命後のフランスを舞台にした作品には、夫婦同姓であるかのようなケースが登場するからです。

 例えば、19世紀のフランスを舞台にしたヴィクトル・ユゴーの小説で、ミュージカルや映画としても有名な「レ・ミゼラブル」の中で、少女コゼットをいじめる宿屋の夫婦は苗字をとって「テナルディエ夫妻」と表現されますし、夫が「テナルディエ」と呼ばれる一方、妻は「テナルディエ夫人(マダム・テナルディエとも)」と呼ばれています。

*参考までに、今年のミュージカル「レ・ミゼラブル」のキャストのリンクを添付します。↓余談ですが、森公美子さんのマダム・テナルディエは本当に当たり役だと思います。

小説「ボヴァリー夫人」の登場人物のボヴァリー夫人も、夫の姓を名乗っています。

 調べていくうちに、更に不思議なことが分かりました。「レ・ミゼラブル」の時代と同じ19世紀に、ジャンヌ・ドロワンという女性が、夫の姓を名乗ることを拒んだというのです(長谷川,2006)。えっ、この時代フランスではすでに夫婦別姓ではないの!?なぜ自分の姓が名乗れないの!?

 一番上の記事によると、

既婚女性はといえば、日常生活の中では「〇〇夫人」と夫の姓を名乗ることが多かったが、法的証書には「出生姓、〇〇の妻」という形式で書かれていた

前掲の記事より引用)とあるので、法的には夫婦別姓である一方(それでも夫の姓もある程度法的な効力を認められてそうですが)、日常生活では夫婦同姓で当たり前という認識だったということでしょう。

 実際には夫と同じ名前を名乗るという意味では、江戸時代の日本にも似たような状況があったことを思い出しました。↓

 テナルディエ夫人やボヴァリー夫人もきっと、公文書には生まれた時の姓を冠した本名を記載していたのでしょう。

参考文献

長谷川まゆ帆「第八章 女・男・子どもの関係史」(谷川稔/渡辺和行編著「近代フランスの歴史 ー国民国家形成の彼方にー」ミネルヴァ書房、2006年,pp.237-269)p.265