見出し画像

男女逆転大奥の設定について 「男子激減で逆ハーレム&女子相続が主流に」はあり得る?

*写真は、徳川家の「御三家」の一つ、尾張徳川家にゆかりのある名古屋城

男女逆転大奥の漫画がドラマ化されました。
江戸時代に男子ばかりが感染する病気が流行り、日本社会では将軍家含め女子相続が当たり前になるという話です。私も漫画で途中まで読んでみたのですが、非常に面白いストーリーです。

しかし、実際には、男子が減ることで「逆ハーレム」「女子が家督を継ぐように」、という流れは考えにくいのではないでしょうか?むしろ、男性一人当たりの妻の数が増え、男子が継承する傾向がよりに強固になるのではないでしょうか?

まずは歴史上の子供が多い為政者を考えてみましょう。オーストリアの「女帝」マリアテレジアは十数人出産しています。一方で、男性である嵯峨天皇や徳川家斉にはそれぞれ50人位子供がいたそうです。女性の初経から閉経までの年数は、だいたい30数年です。その間に女性一人当たりが産むことができる子供の数は、多くても30を下回るでしょう。しかし、男性は同時並行で様々な女性との間に子供を作ることができます。

今度は、文化人類学的な見地を元に考えてみます。人間社会の多くは、父から息子へと財産や家の中の地位が引き継がれる父系継承です。一方、まれに母から娘へと引き継がれる社会もあり、これを母系継承と呼びます。後者に含まれるヒマラヤ山脈辺りのチベット系の民族の中には、一妻多夫制を伝統的に行ってきた民族もありますが、それは少ない土地とお嫁さんを分け合うためだそうです。貧しい場所なので、子供を産みすぎないようにしているのです。

男子にせよ、女子にせよ、その片方が著しく減少するのであれば、産む子供の絶対数を増やす必要があります。そして、子供の数を増やすのであれば、一妻多夫と一夫多妻とでは、後者の方が子供を作る上で効率がはるかに良いのです。父系継承かつ一夫多妻であれば、男子の数が少なくても同時に沢山の子供を作ることができます。しかし、母系継承かつ一妻多夫では、ただですら少ない男性を集めて特定のただ一人の女性と子作りをするので、子孫を遺すにあたっては非常に非効率的であり、男子不足の解決策として選ばれにくいのではないでしょうか?生殖に人生設計の重きを置き、今よりも妊娠や出産が身近だった時代の人がそれに気づかなかったはずがないと思います。

最後に余談ですが、男子が継承する流れがより強くなる、と聞いて、そもそも当時は父系継承だったのでは、と思う人もいたかもしれません。しかし、実は日本では昔から母系継承自体は可能で、民間の中では伊能忠敬のように婿養子になる人も大勢いました。仮に男子への継承にこだわることになれば、婿養子が認められなくなりそうです。