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マイ・フェイバリット・ソングス 第25回~ボストン

(2021年1月改訂版)

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『BOSTON』(1976年)

BOSTONはもちろんバンドではあるんだけど、実質的にはトム・ショルツのソロ・プロジェクトみたいなところがありますね。特にこのファーストは、トム・ショルツが自宅で多重録音したデモ・テープの完成度があまりに高かったため、そのままプロのスタジオで再現したという。しかもブラッド・デルプのボーカル以外、すべての楽器をトム・ショルツが演奏している。そういう完璧主義のコントロールフリークが作るものって難しい作品になりそうだけど、すごくポップでキャッチ―なんですよね。「アメリカン・プログレ・ハード」などと呼ばれる最先端の音楽でありながら、ルーツ・ロックへのリスペクトも込められています。ハードっぽい要素もあるけれど、アコースティック・ギターがすごく綺麗だったり。クレジットに「No Synthesizers Used」「No Computers Used」と書かれてあるのは、手作業でオーバーダビングを積みあげている証。このアルバムは「More Than a Feeling」から「Let Me Take You Home Tonight」に至るまで全曲素晴らしい。何度聴いても飽きないし、最初から最後まで退屈な瞬間が一秒もありません。ボストンの最高傑作だと思います。「Foreplay/Long Time」も「Rock and Roll Band」も「Smokin'」も「Hitch a Ride」も大好きだけど、一番好きなのは「Peace Of Mind」ですね。なんてカッコいい曲だろう。僕の中ではボストンのベストソングです。


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『DON’T LOOK BACK』(1978年)

基本的には前作の延長線上にあるサウンドで、全米1位を獲得した2nd. 楽曲群はファーストに軍配があがるかなあと思うけど、これもトム・ショルツの美意識が貫かれたサウンドで心地よいですね。ただ前作ほどワンマンなわけではなく、こちらはバンドメンバーとレコーディングしています。また「Party」と「Used To Bad News」ではブラッド・デルプも曲作りに参加していますね。このアルバムだとやはりなんといっても表題曲の「Don’t Look Back」が最高です。「Feelin' Satisfied」や「Party」といったストレートなロックンロールもカッコいい。バラードの「A Man I’ll Never Be」もいいですね。トム・ショルツのギターってつくづくカッコいいんだよなあ。ちなみにオフコースの「Save The Love」は「Don’t Look Back」の影響を、「愛を止めないで」は「A Man I’ll Never Be」の影響をかなり受けていると思われます。アレンジの面で。このアルバムが1978年で、「愛を止めないで」と「Save The Love」は1979年なので。


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『THIRD STAGE』(1986年)

2nd.の8年後に発表された3rd. 僕はこのアルバムでボストンを知りました。当時「Amanda」が大ヒットしていたので。契約上早く新作のリリースを望むエピック・レコードと、納得のいくものができるまでリリースはしないという完璧主義トム・ショルツの間で対立が起こり法廷闘争に発展。決着後MCAレコードへ移籍して発表されたのが本作です。そんな経緯もあって制作に6年を費やしたそう。(10000時間かけたとの話も)その甲斐あって素晴らしい完成度のアルバムですね。前2作に比べるとバラードやスローテンポの曲が多めです。宇宙旅行に恋物語を重ねながら展開していくコンセプトアルバム。まず不朽の名バラード「Amanda」で愛しい人への想いを打ち明け、「We’re Ready」で旅のスタンバイに入る。「The Launch」でカウントダウンから旅立ち、「Cool The Engines」でエンジンを抑え軌道に乗る。「My Destination」(「Amanda」のキーと歌詞を変えただけの曲)で〈僕のゴールは君だ〉と歌うも、やがて「Can’tcha Say(You Believe in Me)/Still in Love」で別れを迎え、最終的に新たな「Hollyann」という女性にたどりつく。根底にあるそのストーリーを読み取ると、より魅力が深まるアルバムになっています。壮大な宇宙と愛の物語。ボストンはここまでの初期三部作がとにかく素晴らしいです。


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『Walk On』(1994年)

さらに8年後にリリースされた4th.  ボーカルのブラッド・デルプが脱退し代わりにフラン・コスモが加入した点と、4~7曲目がメドレーになっているのが特徴。フラン・コスモも高音の伸びがあるいい声だけど、やはりボストンの曲はブラッド・デルプの声で聴きたいというのが正直なところです。ギターが前に出たハードな曲が多いですね。「We Can Make It」は87番目のバージョンが採用されたというから、依然としてトム・ショルツの完璧主義は貫かれています。僕は「Livin’ For You」が好きですね。(この曲で初めてシンセサイザーを使用しているため、このアルバムから「No Synthesizers Used」の表記は消えました)


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『Corporate America』(2002年)

これまた前作から8年後(なぜかずっと8年周期)にリリースされた5th. 初期ボーカリストのブラッド・デルプが復帰。しかし、前作から加入したフラン・コスモは残っていて、さらに女性ボーカリストのキンバリー・ダームが新加入しているので、ボーカリストが3人に。しかもトム・ショルツの作った曲が6曲しかないという・・・。(残りはフラン・コスモの息子とキンバリー・ダームが作曲) あれほどコントロールフリークだったトムがどうしちゃったんだろうって感じですよね。初期三部作のファンとしては残念な内容のアルバムということになってしまいます・・・。既に廃盤になっていて、サブスクでもリリースされていないようです。


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『Life, Love & Hope』(2013年)
 
前作から11年ぶりにリリースされた6th. 2007年にブラッド・デルプが亡くなっているため、このアルバムはキンバリー・ダーム、新加入のトミー・デカーロとデヴィッド・ヴィクター、そしてトム・ショルツ自身がボーカルをとっています。11年ぶりの新作というのに、前作『Corporate America』の曲を再編集して3曲も収録しているんですよね。ブラッド・デルプへの追悼の意味もあるのでしょうが、トム・ショルツが曲を作れなくなってきたということかもしれません。やはり初期3枚に比べるとかなり魅力を欠いたアルバムというのが正直なところですね。


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