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マイ・フェイバリット・ソングス 第34回~宇多田ヒカル

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『Precious』Cubic U(1998年)

Cubic U名義でリリースされたアルバム。全編英語詞でもともとは洋楽レーベルからリリースされているので、かなり海外向けのR&Bといった感じの楽曲群。カーペンターズのカバー「Close To You」以外のオリジナル曲では宇多田さんが曲作りにも関わっています。リリース日が15歳になったばかりの頃なので、レコーディングは14歳の頃と思われるけれど、とても中二くらいの女の子が歌っているとは思えないですね。ただそれよりも僕が驚くのは、これだけ洋楽R&B風のアルバムを作っていながら、わずか11カ月後には「Automatic」で日本を席巻することです。


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『First Love』(1999年)

日本のアルバムセールス歴代1位を誇るアルバム。当時の記録で765万枚。しかも2位に250万枚の差をつけているというので圧倒的な記録ですね。現在サブスク主流になっていることを考えるともう破られることはないでしょう。当時のことはよく覚えています。まずシングル「Automatic」と「Movin' On Without You」で火がついて、アルバムがリリースされ、そこからドラマの主題歌として「First Love」がシングルカットされた。このアルバムを聴いたときは本当に衝撃的でしたね。まず年齢に驚いたし、ソングライティングも歌声もなんて素晴らしいんだろうと。この頃はまだ編曲は他の人がやってますね。シングルは3曲とも好きです。アルバムの中の曲だと「In My Room」と映画『俺たちに明日はない』をモチーフにした「B&C」が好き。あと「Never Let Go」はスティングの「Shape Of My Heart」のギター・フレーズが使われててカッコいいですね。この頃爽健美茶のシール集めて応募し、「Natural Breeze Concert」(TLCとMONICAと宇多田ヒカル共演のライブ)のチケットをゲットすることができました。武道館で16歳の宇多田さんの歌を生で聴けたことはすごくラッキーだったと思います。宇多田さんの登場は30分ほどでしたが、その時のセットリストです。

1.Automatic
2.Time Will Tell
3.甘いワナ~Paint It Black~
4.In My Room
5.First Love
6.Movin' On Without You
7.B&C


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『Distance』(2001年)

先行シングルの「Addicted To You」「Wait & See~リスク~」「For You/タイム・リミット」「Can You Keep A Secret?」はどれも大ヒットしてましたよね。しかも「Addicted To You」と「Wait & See~リスク~」のプロデュース・アレンジはなんとジャム&ルイス(ジャネット・ジャクソンの「Control」「Rhythm Nation」などを手掛けたコンビ)という。やはりこの二曲のアレンジは今聴いてもカッコいいですね。そして宇多田ヒカルさんも「DISTANCE」や「蹴っ飛ばせ!」などで編曲に関わり始めます。僕はこのアルバムだと「DISTANCE」と「Parody」が特に好きです。


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『DEEP RIVER』(2002年)

初期作品の中で最も好きな二曲が入っています。ひとつはラストを飾る「光」。素晴らしいメロディで、詞は半年後に結婚する紀里谷和明さんのことを歌っているようにも感じられますね。極上のラブソング。もうひとつは冒頭の「SAKURAドロップス」。これも名曲ですね。アレンジも含めて初期の大傑作ではないでしょうか。(このアルバムでは全曲編曲:河野圭&宇多田ヒカルとなっています)ちなみに僕は紀里谷さんが監督した「SAKURAドロップス」のPVが、邦楽PVの中は最も好きです。あまりのカッコよさ、美しさに当時何度も繰り返し観ていましたね。他に「traveling」もカッコいいし、遠藤周作の「深い河」からインスピレーションを受けたという「Deep River」も美しくて好きですね。


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『EXODUS』Utada(2004年)

Utada名義の全米デビューアルバム。全曲英語詞で前衛的な楽曲群。アメリカ向けのアルバムを作るならR&Bアルバムになるかと思いきや、かなり最先端を攻めたダンスミュージック風アレンジの楽曲が多いですね。歌い方も特に高音パートについては日本盤とはかなり違う印象です。正直言うと僕はこのアルバムはあまり好きじゃありません。アレンジがトリッキーすぎるし、エレクトロニカ色が前面に出すぎてしまっていて・・・。当時アメリカのクラブ界隈ではこういう音楽が好まれていたってことなのかなあ。


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『ULTRA BLUE』(2006年)

「COLORS」の共同編曲を除いて全曲宇多田さんの単独編曲となりました。プログラミングも自身でやっているとのこと。これまでのアルバムに比べるとやや内省的で暗く、宇多田さんの苦悩や悲しみが吐露されているような歌詞もちらほら。僕はこのアルバムだと「Making Love」と「誰かの願いが叶うころ」が好きです。特に「誰かの願いが叶うころ」の歌詞は本当に素晴らしいと思います。宇多田さんの書いた詞では一番好きかも。それにしてもこのジャケットの宇多田さんカッコいいなあ。紀里谷さんの手によるジャケットですね。


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『HEART STATION』(2008年)

「人間活動」に入る前までを宇多田ヒカル<第一章>と捉えるならば、<第一章>の到達点と呼ぶにふさわしいアルバムですね。非常に充実した楽曲群。「ぼくはくま」「Flavor Of Life」「Beautiful World/Kiss & Cry」「HEART STATION/Stay Gold」「Prisoner Of Love」とシングルヒット曲が半分以上を占めています。比較的シンプルなアレンジで聴きやすい曲が多いですね。このアルバムは僕も好きな曲が多くて、「Beautiful World」「Stay Gold」「Celebrate」「テイク5」が特にお気に入りです。「Flavor Of Life」は本編にバラードver.が、ボーナストラックにオリジナルver.が入っていますが、僕はバラードver.の方が好きです。


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『This Is The One』Utada(2009年)

Utada名義のセカンド。僕は『EXODUS』よりこちらの方がずっと好きです。アレンジも前作みたいに凝りすぎてないし、聴きやすい。僕は「This One(Crying Like A Child)」と「Come Back To Me」が大好きで、この二曲ばかり繰り返し聴いている時期がありました。「Come Back To Me」美しいですよねえ。Utada名義ではこれが最高傑作ではないかと思います。坂本龍一さんの「Merry Christmas,Mr. Lawrence」をサンプリングした曲も収録されていますね。


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『Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.2』(2010年)

これは二枚組シングル集ですが、DISC2に新曲5曲が収められています。「嵐の女神」「Show Me Love(Not A Dream)」「Goodbye Happiness」「Hymne a l’amour~愛のアンセム~」「Can’t Wait ‘Til Christmas」。母親のことを歌った「嵐の女神」の詞は切ないですね。「Hymne a l’amour~愛のアンセム~」はエディット・ピアフ「愛の賛歌」のカヴァーだけど、かなりボサノヴァ風にアレンジされています。これのリリース後に宇多田さんは「人間活動」と称して長期の活動休止に入ります。


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『Fantome』(2016年)

活動休止中に母の死、再婚、出産などを経験し、宇多田ヒカル名義としては約8年半ぶりとなったオリジナル。長いブランクがどう影響するか気がかりだったけれど、蓋を開けてみればこれまでのどのアルバムよりも素晴らしい完成度で圧倒されました。僕は活動休止後の宇多田さんの方がより好きですね。歌声・メロディ・詞・アレンジはさらに深みを増して進化しているし、ストリングスやホーンセクションの取り入れ方も素晴らしいです。自ら吹き込むコーラスから吐息の音の使い方まで完璧。一曲ずつ語りだすとキリがなくなってしまいますが、僕は「道」も「俺の彼女」も「花束を君に」も「二時間だけのバカンス」も「人魚」も「真夏の通り雨」も「桜流し」も大好きです。「花束を君に」と「真夏の通り雨」は母・藤圭子さんへの思いを歌った美しい名曲。「道」もお母さんのことを歌っているので、このアルバムはお母さんに捧げられているのではないかと思います。「二時間だけのバカンス」は椎名林檎さんとのデュエット。「俺の彼女」は一人でデュエットしてるみたいな斬新な曲ですね。完全復活どころか、さらにとんでもない才能が注ぎ込まれた華々しい<第二章>の幕開けです。聴くたびに新たな発見がある底なし沼のような傑作。

※宇多田さんがTBS「クリスマスの約束」とNHK「SONGS」に出演したときに、小田和正さんがこのアルバムの楽曲について語っているんですが、たいへん印象深いことを言っていたので引用してみます。

「クリスマスの約束2016」より

(アルバム「Fantome」について)
「素晴らしいアルバムですね。ひえー、こんなとこいくんかい。こんなとこに道があったんかいというような自由で迷いのない展開」
「いい映画のサウンドトラックを聴いているよう」

「SONGSスペシャル 宇多田ヒカル」より

(「道」について)
「It’s a lonely フッフッフッフッ ってところがあって、“フッフッ”とか歌うと普通はなんだかふわっとしちゃったり軽くなったりするんですけども、彼女の歌い方のせいかその“フッフッ”にどんどん引っ張られていくという。心地よく引っ張られていくという印象がありまして、僕はこの“フッフッ”が大好きです」

(「真夏の通り雨」について)
「ああこんな曲も書くんだと思いました。見事に思いを重ねていって最後にそのすべてを象徴するように突然止まない真夏の通り雨と歌います。息をのむようでした。そうか通り雨なのに止まないのか。何度聴いてもそう思いました。彼女はあの頃のみずみずしさをまったく失うことなく、感性は圧倒的にその深さを増しています」


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『初恋』(2018年)

僕はこのアルバムが一番好きです。宇多田ヒカルさんの最高傑作じゃないかと思います。何度聴いても圧倒されているうちに聴き終わってしまうので、まだ自分の中でも消化しきれてません。ロンドンのスタジオで、世界一流のセッション・ミュージシャンと共にレコーディングしているんですが、特にジャズ・ドラマーのクリス・デイヴの演奏は素晴らしいですね。活動休止後は比較的生楽器とストリングスを重視したアレンジになっていますが、このアルバムのバンド体制は特にいいですね。宇多田さんの歌声(特にファルセット)にも益々磨きがかかっています。「あなた」や「初恋」や「Good Night」の歌い方凄すぎますよね。このアルバムは全曲好きですが、あえてお気に入りを挙げるとすれば「誓い」と「夕凪」。「誓い」は最初聴いたとき、まったくリズムが取れませんでした。今でもちゃんと理解できていませんが、8分の6拍子なのか4分の4拍子なのかよく分からない不思議なリズムがどんどん癖になるんですよね。そして美しい歌詞とメロディ、切ない歌い方。僕はこの曲を聴くたびに涙がこぼれます。それは曲の美しさ以上に宇多田ヒカルさんの才能に対しての感動です。「ああ、この人は音楽の神に選ばれた人なんだ・・・」という感慨に包まれるんですよね。現時点では僕の中のベスト・ソングです。僕は宇多田さんの音楽は彼女自身の孤独感と悲しみに裏打ちされていると思っているのですが、その傾向はアルバムを追うごとに深まっていきます。これほど自分の内面と向き合っているアーティストは稀有だと思いますし、だからこそ多くの人々の胸を打つのでしょう。


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『BADモード』(2022年)

『初恋』以来3年8ヶ月ぶりのオリジナル。先行配信曲「Face My Fears」「Time」「誰にも言わない」「One Last Kiss」「PINK BLOOD」「君に夢中」を含む10曲(+ボーナストラック4曲)。先行曲をリアルタイムで聴いていた僕としては、初めて聴く曲が4曲しかないというのはちょと残念でしたが、1枚のアルバムとしてこれらの楽曲群を聴くと近未来のようなものを感じますね。時代を先取りしているというか、まだJ-Popが到達したことのない域にいっている気がする。特徴的なのは前二作が生楽器に比重を置いていたのに対して、本作はエレクトリックなサウンドを多用している点。『EXODUS』をより進化させた感じと言ったらいいでしょうか。プログラミングの曲が多く、コロナ禍の影響もあってか一人作業に時間を費やしたような印象です。(通常版のジャケ写もステイホームの雰囲気だし、『BADモード』というタイトルも時世を反映させているのかもしれません)もう一つは日本語詞の曲と英語詞の曲がひとつのアルバムに共存している点。「宇多田ヒカル」と「UTADA」が一つになったような。全体的に「邦楽」と「洋楽」、「日本語詞」と「英語詞」、「生楽器」と「プログラミング」、「男性」と「女性」(リリース前に宇多田さんはノンバイナリー宣言をしている)がミックスされたアルバムと言えるかもしれません。ラストの「Somewhere Near Marseilles-マルセイユ辺り」が約12分に及ぶ長大さになっているのも新たな試みですね。CDのリリースより一ヶ月も前にサブスクで全曲配信していたのにも驚きました。これも隅々まで好きだけど、特にお気に入りは「君に夢中」「Time」「Find Love」。「君に夢中」の編曲素晴らしいですよね。特にピアノ(キーボード)の美しいリフレインは何度聴いても惚れ惚れとします。尚、初回限定盤付属ブルーレイにはスタジオライブとそのメイキング及びMV集が収録されています。これだけプログラミングが重視された楽曲群をバンドで再現したスタジオライブは圧巻です。


『SCIENCE FICTION』(2024年)

デビュー25周年記念でリリースされた初のオールタイムベスト2枚組。直前にリリースされたシングル「何色でもない花」と新曲「Electricity」を含む25曲(+ボーナストラック1曲)という構成で、「Addicted To You」と「光」と「traveling」は新録、比較的昔の曲は最新Mixを施されています。Re-Mixは全体的に低音に厚みがあって最高の音質になっていますね。収録曲のほとんどを知っている人でも聴く価値のあるベストです。アルバムタイトルは「あなたの音楽のジャンルは?」「この曲は実話?」とよく聞かれてきた宇多田さんがある日「『サイエンスフィクション』と答えるのが一番ハマるかもしれない」と思い立ったころからつけられたそうです。


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