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なんにもとくべつじゃない

「関根さんは自分のことアーティストだと思ってないんですか?」

去年とある人に聞かれた。相手はちょっと怒っていたし、呆れというか、軽蔑のようなものも込めていたと思う。誇りとか、自負とか、ないんですか、と。その人の言うアーティストと、わたしの中のアーティストは明らかに違うものを指していたので「思っているし、思っていません」みたいなことをてきとうに口走っていた。その人は不満いっぱいの表情で、まったく腑に落ちません、と訴えていた。

そもそもアーティストという言葉に込める意味合いは人によって異なると思うので、そのすり合わせがなされないままにこういう質問を怒りや軽蔑などを込めてされたとき、双方にとって納得できるような結果を迎えることはむずかしい。だからわたしはもういいや、と思った。この人にわかってもらおうとは思わない。

わたしは、アーティストはなにか特別なアートの才能を持っている人のことをいうわけじゃないと思う。アートで生計を立てている人のことでもない。その人は、たぶんそう思っている人。アートに貢献している人、アートを行うことなしでは生きていけない人、アートのために心身を捧げている人。そういう意味のアーティストという言葉があってぜんぜんいいと思うけれど、わたしはちょっとちがうことを思う。

アートは、わたしにとっては、生きているすべての瞬間にある。つまり生きていて、食べたり、お茶を飲んだり、友人と話したり、うごいたり、さんぽしたり、しごとしたり、どうでもいいことをしたり、そういう人間の活動すべてに。そういう意味で、それをしているすべての人がわたしも含めてアーティストということに、わたしのなかではなっている。人間であるだけで。人間に限らず、生きているいのちすべてが。

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