好きな事をして生きてけるなんてうらやましい?ホントにそう思う?

 中学校を卒業してから僕はすぐに自活をしなければなりませんでした。アルバイト三昧の日々のスタート。寒い朝からビル風の吹きさらす高層階で窓ガラス拭きもやったし30度超えの炎天下でサウナの様な温度のぬいぐるみの中で朦朧としながら振り付けを踊ったりもしました。(バイトの話しはまたゆっくり書きます)そして17歳でアパートを借りて一人暮らしを開始。昼バイト夜学校。
 僕の時間はその頃から全て働いているか勉強というか読書や映画演劇鑑賞に費やされる様になりました。もちろん遊びましたがよく考えるとその遊びも何かを吸収できると確信できる事をしていて、例えば行った事のない場所に行き、した事のない事をして、出会った事のない人に会う、といった要するに経験値を増やす事に費やしていたのであって何時間もひたすらパチンコをしていた、なんて事はほとんどないのです。(後年約半年ほどスロットマシンやった事はある)
 そのうち僕は自分の好きな事、つまり音楽でご飯を食べていける様になりました。ガラス拭きやぬいぐるみショーは僕がやりたい事ではなく単に生活していくために仕方なくしていた仕事だったので辛かった。でも音楽はやりたい事、しかもそれでお金がもらえる、これは夢の様なことでした。
 もちろんどんなに好きな事でも仕事になれば責任が伴います。演奏したらそれに対価を払ってくれる人を喜ばせなければならない。自己満足じゃ誰も金を払わない、そのプロの精神を僕は20代の時嫌というほどプロデューサーに叩き込まれました。何度も強く叱られて泣いた事もあります。でもおかげで僕は、表現するからにはそれには受け手が必ずいてその受け手をガッカリさせたらその人は簡単に去って行く、というパフォーマーとオーディエンスの関係を教え込まれました。
 
 好きな事を仕事にするという事は、もし結果がでなければそれで終わり。お前の好きは受け入れられなかった、つまりお前は好きな事をしてちゃ生きていけないんだよという烙印を押された、という事なんだよ、とプロデューサーに習ったのです。プロデューサーには今でも感謝と尊敬の念を持っています。

 しかしそう習いながらもいつしかその公式を忘れてお客さんは離れて行きました。つまりまたもや好きでもない事をしながら生きていかなければならなくなった僕。アホです。

 ある夜。気づくと側で誰かが言うのです。
"アレ、面白いね、なに描いてんの?"
 僕は多分店の壁にぶら下がっていた、一言どうぞ、というノートにいつも持っているサインペンかマッキーで絵を描いていました。
"え、何って別に何でもないです、空想上の怪物です"
 するとそのひとが言ったのです。
"それ欲しいなぁ、ちぎっちゃダメかな"
 僕はページをちがって、
"そうですか、あげますよ"
 すると
"何言ってんの、もらうのはダメだよ"

 酔っ払ってたんで、この駅構内にある酒場でのやり取りは本当の事だったか単なる幻聴だったか、はよく覚えていません。だけど確かに僕は何倍か余計にエーデルピルス(そういう名前のビール)を飲み帰りの電車賃もちゃんとポケットに残っていました。

 直後に死にかけ笑
 そして色々変わりました。

 ライブでミスをすると死にたくなります。だって自己否定に繋がる、って事はこの記事を読めた方ならわかってもらえるはず。
 絵を無償で描いたりしない。だって死ぬ気で描いてるから。ライブに来て、昔はただで描いてくれたじゃない?って人がいる。
うん、そうだよ、でも今は違うんだ。

 僕は起きている時間、いや眠っても夢の中で働いているのかも。でも辛くないよ。だって好きな事やってるんだから。
 命がけで好きな事をやっています。それはつまり、日々の生活も、嫁の幸せも、親族のメンツ、この肉体も精神も、そういった何もかも全てを賭けて生きてる、って事です。

 だから好きな事をして生きる、というのはとても勇気のいる事なんです。好きな事して楽しんで働きたいならビビってたらだめなんだなぁ、わかってくれるかなぁ…


 ちなみに、崖っぷちを歩き続けるのが得意な方には音楽はオススメの職業ですよ。


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