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東京ネロ戦記

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ローファンタジーSF。約3万字。完結済み。 (あらすじ) 律子はある日、自分のSNSのアカウントのプロフィール画像に異変を見つける。それはアイコンの画像が微妙にズレていると…
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#沖ノ鳥島

【短編小説】東京ネロ戦記① 律子

【短編小説】東京ネロ戦記① 律子


1998年6月。太平洋フィリピン海沖。
数週間前に港を出た台湾船籍の遠洋漁船、漁神号は見渡す限りの海と空の中を進んでいた。

昨夜の嵐をなんとかやり過ごし、船はつかの間の安息を得て、船員も各々甲板で煙草をふかしたり船室に戻り雑魚寝をしている。

そんな朝もやの中、船長の黃家豪はひとり悩んでいた。

この界隈を漁場に定めて2日間。全くと言っていいほど釣果が上がらない。

もう少し東側に移れば、ク

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東京ネロ戦記③  律子

東京ネロ戦記③ 律子

「日本の最南端に位置する島の名前を答えよ。」

小5のときの社会の授業で松浦先生がどや顔で質問してきた。南鳥島って言わせたい大人の狡猾さに辟易してた私は、肩肘をついて、沖ノ鳥島です。って返す刀で言い放ってやった。多分擬音でチッスって付いていたかも。

「お、さすがだな。黒瀬はよく本をよむからな。」と、松浦先生は嫌な顔をせず褒めてくれた。

今から考えると、先生の授業の段取りを無視した、我が物顔の嫌

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東京ネロ戦記⑦律子と倫太郎

東京ネロ戦記⑦律子と倫太郎

「あなたは一体誰なの?」
椅子に座りなおして腰を据える。よし、ジタバタせずに現実に向き合うか。

「僕はメロ社のエンジニアで、青野倫太郎という者です。僕はもしかしたらとんでもないことをしてしまったかもしれない。
そのことであなたの命が危ないかもしれないと思ってコンタクトをとった。

僕のせいであなたが殺されたらちょっと立ち直れそうにないし。」

「説明して」

「今は説明している時間はない、PCを

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東京ネロ戦記⑧タイコ

東京ネロ戦記⑧タイコ

タイコはそのマンションに入った時から違和感を拭えなかった。

雨が降っていること以外、先週の仕事と何ら変わらない。同じ日本人のリーダーとプエルトリコ人の髭男。今回の対象は女だ、むしろ先週のインド人より楽に違いなかった。

だが、日本人のリーダーが在宅を確認し、オートロックを開けて、エレベーターに乗り込んだ瞬間、タイコは明らかな異変を感じ、今自分がどこにいるのか一寸分からなくなった。

タイコはそ

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