時代劇レヴュー㊹:樅ノ木は残った(1990年)

タイトル:樅ノ木は残った

放送時期:1990年1月2日

放送局など:日本テレビ

主演(役名):里見浩太朗(原田甲斐)

原作:山本周五郎

脚本:杉山義法


山本周五郎の代表作とも言える長編『樅ノ木は残った』は、江戸時代前期に仙台藩で起こった寛文事件、所謂「伊達騒動」を題材にしたもので、従来歌舞伎などでは悪玉として扱われていた原田甲斐を、実は伊達家を守るために苦悩しつつ幕府の謀略に立ち向かう忠臣として描き直し、現在に至るまで名作として読みつがれている。

名作であるゆえに、この小説を原作とした映像作品は現在までに多数作られており、その中でも著名なものは1970年のNHK大河ドラマである「樅ノ木は残った」であり、ここでは平幹二朗が原田甲斐を演じた。

本作は総集編が残るのみで、その全容は現在ではほとんどわからないのであるが(ただし、原田甲斐の居城である船岡のある宮城県柴田町の「しばたの郷土館」にはほぼ全話が録画・保管されていたことが近年明らかになり、同館で視聴も出来るようである)、一年の放送に堪え得るものにするために原作にかなり脚色を施し、原作ではまったく描かれていない甲斐の若き日のエピソードなどが追加されている。

それ以外にも、1983年にフジテレビで放送された仲代達矢主演版や、2010年にテレビ朝日で放送された田村正和主演版(現状では最も新しい映像化作品)があるが、いづれも二時間ほどの単発時代劇である(私はどちらも見たことがあるが、後述するようにかなり簡略化されていてレヴューを書くのに適さないためにここでは取り上げない)。

山本周五郎の原作は、一年放送の大河ドラマになった場合はやや足りないかも知れないが、それでもかなりの分量のある長編小説であるため、二時間ほどの作品ではどうしてもストーリーの大部分を簡略化しなければならず、原作の持つ独特の雰囲気をうまく伝えきれないきらいがある。

さて、前置きが長くなったが、今回取り上げる1990年に日本テレビで放送された里見浩太朗主演版の「樅ノ木は残った」は、そうした映像化の中でも比較的よく出来た作品である。

この作品は、1990年の1月2日に三時間半ほど(作品の正味放送時間三時間強)の枠で放送されたスペシャル時代劇であり、同局の年末の看板番組と言うべき「年末時代劇スペシャル」の姉妹編的な位置づけで、1990年と1991年の二年間放送された。

主演はどちらも里見浩太朗であり、VHS、およびDVDリリースの際には、「里見浩太朗時代劇スペシャル」のシリーズ名を冠している。

ちなみに、里見がこのシリーズに出演したため、「年末時代劇スペシャル」の中で同時期に放送された二作品(1989年末放送の「奇兵隊」と、1990年末放送の「勝海舟」)には里見は出演していない。

脚本も、長年「年末時代劇スペシャル」で里見とタッグを組んでいた杉山義法がスライドしているが、流石にヴェテランの杉山だけに原作の凝縮の仕方はうまい。

実の所、原作のエッセンスを取りこぼさずに映像化するにはこの三時間ほどがぎりぎりの時間だと思うが、杉山のうまく処理された脚本によってあまりだれることなく、丁度良い長さに仕上がっている(とは言え、原作を読んでしまうと細部では不満もあるが)。

もう一つ、非常にキャストがよく合っていて、個人的には同作の映像化作品の中では最も好きである。

とりわけ、高橋幸治演じる伊達兵部がかなりのはまり役で、魅力ある悪役を好演している。

伊達兵部は作中でも最重要人物の一人であるが、他の映像作品ではどう言うわけかミスキャストが多く、原作の兵部の魅力をうまく表現出来ておらず、その点でも高橋幸治の兵部は際立っている(俳優のせいではなくキャスティングの問題だと思うが、2010年の「樅ノ木は残った」で兵部を演じた笹野高史は原作とは似ても似つかぬイメージで、非常にがっかりした記憶がある)。

他にも、西郷輝彦(伊東七十郎役)、佐藤慶(伊達安芸役、1970年の大河ドラマ版では伊達兵部を演じた)、山田五十鈴(甲斐の生母・慶月院役)、中村嘉葎雄(久世大和守役)、若山富三郎(酒井忠清役)など、正月に相応しい豪華キャストを揃えている(完全に私の邪推であるが、本作と同時期に製作された「奇兵隊」が、同シリーズの先行する作品に比してややキャストが地味になっているのは、この「樅ノ木は残った」と予算を分割したせいなのだろうか)。

上記キャストでも名を挙げた慶月院と、甲斐の関係が原作以上にクローズアップされていて、それはそれで杉山のアレンジで良いと思うのであるが、ラストシーンの慶月院の自刃だけはやや唐突過ぎて(史実では絶食による餓死)、その前の甲斐の最期のシーンが良かっただけに少し残念である。

最後に余計な感想かも知れないが、「樅ノ木は残った」のような非常に重苦しい作風の時代劇を正月の2日に放送したあたり、やはり当時の日本テレビ(の時代劇製作部門)は、同時期の元日にひたすら「明るく」破茶滅茶時代劇を放送していたTBSとは好対照である(笑)。


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