時代劇レヴュー⑯:関ヶ原(1981年)

タイトル:関ヶ原

放送時期:1981年1月2日、3日、4日

放送局など:TBS

主演(役名):加藤剛(石田三成)・森繁久彌(徳川家康)

原作:司馬遼太郎

脚本:早坂暁


昨今は正月番組と言うと、どの局もバラエティ番組が主流で、どうもドラマはあまり元気が良くない印象がある。

もちろん、作品数自体はそれなりに多いが、所謂「ゴールデンタイム」にドラマが放送されることは稀であるし、そう考えると「ゴールデンタイム」に時代劇がひしめいていた1980年代、90年代と言うのは今では想像もつかない状況だったと言えよう。

そんなテレビ時代劇黄金期を象徴するような大型時代劇が、1981年の正月にTBSで三日連続で放送された「関ヶ原」であり、これは東京放送創立30周年記念番組として制作された。

そのため、かなり気合の入った作りであり、現在に至るまで時代劇ファンの間ではテレビ時代劇史上最高傑作の呼び声が高く、実際にスケールやキャスティングを見ても空前にして絶後と言う表現が全く誇張でないと思うほどの豪華な作品である。

原作は司馬遼太郎の同名小説で、石田三成を演じる加藤剛と、徳川家康を演じる森繁久彌がダブル主演(本編の配役クレジットでは森繁久彌の方がトップになっているが、作品を通して見ると実質的な主人公として扱われているのは三成の方である)を務めている。

その他のキャストも、三船敏郎(演じるのは島左近、以下括弧内はいづれも役名)、三國連太郎(本多正信)、高橋幸治(大谷刑部)、宇野重吉(豊臣秀吉)、辰巳柳太郎(前田利家)、杉村春子(北政所)、沢村貞子(芳春院)、大友柳太朗(島津義弘)、三田佳子(淀殿)など大物・重鎮の俳優ばかりが並ぶ。

内容的にも司馬遼太郎の原作の雰囲気をよく伝える良質な作品で、今見ても色褪せない面白さで、民放の時代劇としてはトップクラスの出来と言える。

早坂暁の脚本もよく出来ていて、大谷刑部が死を覚悟で三成の挙兵の呼びかけに応じるシーン(第二部のクライマックス)などは感動の名シーンである(ちなみに、このエピソード自体は史実ではない)。

もちろん史実とは異なる所や原作とも違う描写もあって、そこを欠点と捉える声もあるようであるが、とは言え、それは瑕疵と言うものであって個人的にはドラマの出来栄えがそれを補ってあまりあるように思う。

また、原作では重要人物である藤堂高虎と黒田如水が出てこない(高虎は台詞のみで登場)ことを不満とする意見もあるようだが、ドラマの時間が限られている中で、特に如水のように関ヶ原本戦に参加しなかった人物まで取り上げると切りがないので、如水を切り捨てると言うのも一つの選択であろう。

むしろ私としては、全六時間に及ぶ大作なれど、それでも前半はやや駆け足のように感じたので、もう少し登場人物を減らした方が良かったのではないかとさえ思う。

例えば、原作には登場しないエピソードに尺を割くなら、その分メインの話をじっくり描けばよかったように思うし(ドラマ版では、三成と愛妾の初芽のエピソードがやや冗長)、関ヶ原合戦が終わった後の話が全体の割合を考えると長過ぎる感じもしたので、それならば合戦の描写をもう少し丁寧に描いた方が良かったのではないかとも思った(もっとも、終盤にある与次郎太夫の話は、本編のテーマの一つである三成の「義」を考える上で必要な描写だったのだろうが)。

とは言え、私がここで挙げた点もないものねだりの感があり、トータルで見るとやはり世評通りテレビ時代劇屈指の名作と言うに相応しい作品である。

おそらく、もうこれほどの規模のドラマは作れないのではないだろうか。

なお、この作品は放送後にVHSがリリースされ、その後DVD、およびBD版もリリースされており、視聴は容易になっている。


・追記(2023年4月21日)

本作と同じ小説を原作とする映像作品としては、2017年夏に公開された映画「関ヶ原」(原田眞人監督・岡田准一主演)がある。

この作品を見た時は、「わざわざ司馬遼を使う必要あったか?」と言うくらい原作と違うことがまず最初に浮かんだ感想であった。

これだけ脚色するのだったら、全くのオリジナル作品で良かったのではないだろうか。

本編は二時間二十分しか時間がないのに、原作のエピソードもオリジナルエピソードもをふんだんに入れているので、一つ一つのシークエンスが唐突で雑と言う印象もあった。

後、台詞量が多いのに録音のせいか、聞き取れない台詞が多いのももったいない(原作を読んでいれば、聞き取れなくても想像はついたが)。

甲冑の再現が忠実なのは個人的には好印象であり、福島正則と黒田長政が兜を交換する、原作にはないマニアックなエピソードも追加されていた。

キャストはそれなりに合っていて、岡田准一の三成も、結構原作のイメージにはまっていたし、平岳大の島左近も良かったように思う。

一方で、役所広司の徳川家康は少しイメージが違うような(笑)。


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