時代劇レヴュー㊾:大忠臣蔵(1994年)

タイトル:大忠臣蔵

放送時期:1994年1月1日

放送局など:TBS

主演(役名):松方弘樹(大石内蔵助)

脚本:塙五郎

TBSがかつて毎年元日に放送していた「新春大型時代劇」の第八弾で、タイトルが示すように元禄赤穂事件を題材にした所謂「忠臣蔵」の映像化作品で、松の廊下事件から討入りまでを描いている。

本作から、それまでシリーズでメインライターを務めた高田宏治に代わって塙五郎が脚本を担当し、塙は本作を含めて計2作品の脚本を務めた。

1982年の大河ドラマ「峠の群像」を始め、1980年代くらいから従来とは異なった角度で赤穂事件を描く作品がテレビドラマでも増え始めたが、本作はそうした作品とは異なり、かなりオーソドックスなストーリーで、討入り後の幕府の裁定などにはふれることなく、赤穂浪士達が吉良邸から泉岳寺に向かう所で物語は終わっており、ストーリー展開も一般的な「忠臣蔵」の物語通りに進んでいる。

一方で、本作独自の設定もいくつか見られる。

本作は放送時間の割に、登場する浪士や取り上げられるエピソードが多く、不破数右衛門が結核持ちだったり、原惣右衛門が子沢山だったり、高田郡兵衛が生活苦で妻を救うために脱盟したり、萱野三平が吉良襲撃に失敗して殺されたり、他の作品にないような設定が随所で見られた(後、堀部安兵衛はともかく、片岡源五右衛門が他の作品に比べて浪士の中でかなり目立った存在になっていたり、瑤泉院が「南部坂雪の別れ」のシーンでほとんど内蔵助を罵倒しないのも珍しい点であろうか)。

浪士以外でもクローズアップされる人物のチョイスが珍しく、例えば上杉家の人々があまり登場しない(上杉綱憲は吉良邸に救援に行こうとするのを止められる場面で初めて登場し、それが唯一の登場シーンであるし、江戸家老の色部又四郎ですら二シーンしか登場しない。そのせいか、本作では吉良上野介自身が浪士たちの結束を崩そうと画策したりしている)一方で、梶川与惣兵衛が刃傷事件以降に登場するシーンがあるのも、他にほとんど例を見ないものである(しかも、梶川はかなり「いい人」に描かれている)。

また、基本的に講談としての「忠臣蔵」路線なのであるが、大石内蔵助が討入りに際して陣太鼓を叩かなかったり、討入りの際に雪が降っていなかったり、江戸城に天守閣がなかったりと、妙な所で史実に沿った描写もある(その割に、宝井其角と山田宗徧を「合体」させていたり、変な部分もある)。

さて、本作は全体的には目新しい所のないオーソドックスな「忠臣蔵」物語であるが、全体的には非常にバランスが取れていて出来の良い作品である。

ストーリーもさることながら、キャスティングもよく出来ていて、西村晃の吉良上野介や役所広司の堀部安兵衛などは個人的に数ある忠臣蔵の中でも好きなキャストである(後、浪士中で内蔵助の腹心として描かれる菅谷半之丞を、時代劇では悪役専門の立川三貴が好演しているのも面白い)。

特に、西村晃の吉良は高家肝煎としての高貴な雰囲気と、悪玉としての「クソジジイ」の塩梅が絶妙で、歴代吉良の中でも最もはまっていたように思う。

また、正月の出し物に相応しく、脇坂淡路守役に萬屋錦之介、立花左近(作品によっては垣見五郎兵衛)役に里見浩太朗、土屋主税役に渡瀬恒彦など、ほんの少ししか登場シーンのない人物にも大御所的俳優を当てており、その点も「忠臣蔵」セオリーに則ったものであるし、この部分に関して言えば、歴代の忠臣蔵作品の中でも屈指の豪華キャストと言える顔ぶれであった。

本作で最も惜しいと思うのが放送後の展開で、本作は同シリーズ合計十作品の中でいまだソフト化されていない数少ない作品であるだけなく(シリーズ中でソフト化されていないのは、本作とその翌年の1995年に放送された「愛と野望の独眼竜・伊達政宗」の二作のみである)、再放送などの機会もほとんどない。

あるいは、何かTBSや東映、一部の出演俳優に事情があって放送もソフト化も出来ないのかも知れないが、作品の質からしても出演者の顔ぶれからしても、早いソフト化が待たれる作品である。


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