続・時代劇レヴュー㊱:将軍家光忍び旅(1990年~1993年)

タイトル:将軍家光忍び旅

放送時期:1990年10月~1993年3月(全二シリーズ全四十四話)

放送局など:テレビ朝日

主演(役名):三田村邦彦(徳川家光)

脚本:小川英、胡桃哲ほか


1990年~1993年にかけてテレビ朝日で放送された時代劇で、タイトルの通り、三代将軍徳川家光が身分を隠し、浪人・徳山竹之進と名乗って旅をしながら、その道中で様々な事件を解決するロードムービー式の時代劇で、全部で二シリーズが製作された。

第一シリーズは、家光が上洛に際し、窮屈な行列を嫌って浪人に扮して東海道を西上し、その道すがら起こる事件を通じて庶民の生活を知っていくと言う展開で、第二シリーズはその「復路」で、今度は中山道を通って江戸に戻る道中の物語となっている。

家光をめぐるレギュラー登場人物の中には、大久保彦左衛門、松平信綱、春日局、一心太助、柳生十兵衛、また道中で家光と絡むゲスト登場人物にも、伊達政宗、徳川忠長、井伊直孝、保科正之、松平忠輝など、実在上の人物(太助は厳密には架空の人物であるが)が多く登場するのが本作の特徴であり、この手の娯楽時代劇で珍しいものである(もっとも、この手の時代劇でありがちな、架空の大名が登場するエピソードもある。例えば、第二シリーズの終盤の近江水口が舞台のエピソードでは、当時は幕府領であったはずの水口が宇山氏と言う架空の大名が治める藩になっている)。

そのため、本編では明確に語られていないが、舞台設定となっている時期がある程度特定出来、作中で秀忠がすでに死去していることや、家光が過去にも上洛したことがわかる台詞があること、伊達政宗が存命であることなどから、寛永十一年の家光三度目の上洛がモデルと思われる(ただし、史実では上洛前に切腹している家光の実弟・駿河大納言忠長が、作中では駿府城主として改易もされず存命であるから、あくまでも「モデル」であるが。なお、第二シリーズでは、家光が異母弟の保科正之に対し「ただ一人の弟」と言う、忠長がすでに死去していることを思わせる台詞があるため、微妙にシリーズ間の設定が噛み合わない部分もある)。

また、各シリーズを通じて登場する「レギュラー悪役」が登場するのも本作の特徴で、第一シリーズでは家光の異母兄・都築安房守兼次、第二シリーズでは元石田三成の隠密頭であった忍者の無幻斎が、家光の命を狙う悪玉として登場している。

第二シリーズには他に、石田三成の娘・清姫と言う架空のキャラクタが登場するが、家光と同年代、もしくはやや年下を思わせる設定であり、三成の没年からすると辻褄が合わず、また無幻斎は中年男性の風貌であるが、舞台が関ヶ原の戦いから三十年以上経っている時期であることからするに、もっと老人でないと設定的におかしいだろう。

なお、都築安房守はもちろん架空の人物であるが、生母が身分の低い女性であるため長らく秀忠に認知されず、その後も大名に取り立てられるも、わずが五万石の小藩であったために不満を抱いて家光から将軍の座を奪おうとする人物として描かれ、夭折した家光の庶兄・長丸が存命している世界線のような面白い設定である。

キャストでは、颯爽とした青年将軍・家光を演じる三田村邦彦が非常に役にはまっていて、ラストで悪人たちの前に姿を表す際の、ともすればギャグにもなってしまうような芝居がかった出で立ち(牛若丸を思わせる被衣のような布を被り、葵の紋の入った横笛を吹いて登場する)も、三田村のルックスによってそこまで違和感のないものになっている。

ただ、本作の家光は、将軍の際には月代を剃り、浪人に扮している時には総髪のスタイルで、それが瞬時に切り替わるから(総髪のかつらをつけているという設定?)、その点はフィクションと言うことを差し引いてもやや違和感がある。

余談ではあるが、私はテレビドラマで描かれる家光を見た最初の機会が本作であったので、三田村演じる家光の影響で、結構後年まで家光には「名君」と言うイメージを持っていた(笑 家光の描かれ方は、作品によっては悪辣だったり我儘だったりすることも多い)。

本作以前にも時代劇出演が多い三田村であるが、長いカットの殺陣の経験はさほどなかったのか、第1シリーズの序盤ではやや殺陣がぎこちないものの、終盤になるとかなり改善されている(リアルタイムで見ていた時は一週間ごとの視聴なのであまりわからなかったが、後年になって一度に見返した際には、その変化がよくわかった)。

なお、本作と同じ枠で放送されていた「暴れん坊将軍」もまた、本作同様将軍の徳川吉宗が主人公であるが、すでに将軍権力が確立している時期の将軍である吉宗が、殺陣の際には峰打ちで自らの刀を汚さず、悪の首魁は御庭番に「成敗」させるのに対し、本作の家光は、まだ戦国の余風を残す時期の将軍であるためか、自らの手で全員成敗しており(シリーズの序盤の数話は、「暴れん坊将軍」に倣ってか配下の忍者が首魁を「成敗」していた)、この将軍権力の性格の違いを踏まえたコンセプトは面白い。

他にも、大久保彦左衛門役の神山繁、松平信綱役の田村亮、柳生十兵衛役の勝野洋など、フィクションながら脇を固める面々にもはまっているキャストが多く、特にクレヴァーな印象の田村亮は、「知恵伊豆」の異名を持つ信綱役にぴったりであった。

また、前述の都築安房守役の中条きよしは、終盤まで存在感のある悪役を見事に演じ、物語の良いアクセントになっていたと思う。

本作の副主人公とも言うべき家光の影武者・新吉役には、当時モノマネ芸人として人気を博していたコロッケが抜擢され、毎回神山繁とのコミカルな掛け合いや、随所で台詞に入るモノマネ芸や得意の声帯模写なども、本作の見どころの一つと言える。

まだ時代劇が元気が良かった90年代前半らしい、痛快さと遊び心に富んだ秀作である。


なお、本作の後継的な作品としては、同じ枠で放送され、同じ三田村邦彦が主演を務めた「殿さま風来坊隠れ旅」(1994年放送)があるが、こちらは1958年~1960年に東映で製作された中村錦之助(後の萬屋錦之介)・中村賀津雄(現・嘉葎雄)主演の映画「殿さま弥次喜多」シリーズのリメイク的な物語である。

ただし、前者が紀州藩主徳川治貞と尾張藩主徳川宗睦と言う、実在する江戸中期の大名を主人公に設定しているのに対し(設定年齢やキャラクタはだいぶ史実とは異なるが)、後者は紀州藩主・尾張藩主と言う設定であっても、人名は架空のものである。


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