続・時代劇レヴュー②:壬生義士伝(2002年、2003年)
タイトル:①壬生義士伝~新選組でいちばん強かった男~
②壬生義士伝
放送(上映)時期:①2002年1月2日 ②2003年1月
放送局など:①テレビ東京 ②松竹
主演(役目):①渡辺謙(吉村貫一郎) ②中井貴一(吉村貫一郎)
原作:浅田次郎
脚本:①古田求、田村恵 ②中島丈博
今回紹介する二つの作品は、ともに浅田次郎の小説『壬生義士伝』を原作にしているが、描き方が異なるため、以下は区別せずに両者を比較しながら書いていく。
物語は幕末の京都を主要舞台とし、南部藩脱藩浪人で新選組隊士となった吉村貫一郎を主人公に、新選組の後半期の動向を描いており、両作品とも吉村死後はその息子・嘉一郎にスポットを当て、戊辰戦争の終結あたりまでを扱っている。
原作は、吉村貫一郎を知る複数の人間が彼のことを回想していく形式で進むため、作中で時間の流れが前後しているが、①の方はそれを時系列順に並べ替えて、吉村の次男が父親の脱藩から兄・嘉一郎の戦死までを語っていくと言う形式(ただし、語り手が吉村の息子であること言うことはラストシーンまで明かされない)を取っている(冒頭だけは鳥羽・伏見の戦いの直後に、満身創痍の吉村が南部藩の大坂蔵屋敷に現れるシーンから始まるが、これは原作の冒頭のシーンと同じである)。
②の方がやや原作に近い構成で、明治末年に偶然吉村の親友・大野次郎右衛門(南部藩の重臣で、戊辰戦争での南部藩の首謀者として処刑される。後述するが、この大野は架空の人物である)の子で、吉村の薫陶を受けた大野千秋と、新選組時代に吉村と因縁があった斎藤一(元新選組三番組長)が出会う所から始まり、千秋と斎藤がともに吉村のことを回想すると言う形で話が進むため、原作同様時間の流れが前後する部分もある。
構成の違いはあるが、双方ともに物語としてはよく出来ており、①で吉村役を務めた渡辺謙(余談であるが、本作は彼の長男の渡辺大のデビュー作でもあり、吉村の少年時代を演じた)も、②で吉村役を演じた中井貴一も、ともに役をものにしていてそれぞれ見ごたえがあった。
両者共通するシーンもあるが、①はテレビ東京の「新春ワイド時代劇」の中の一作で、十時間の長編であるために、特に新選組隊士の描写や細かい事件にも時間を割いており、吉村死後の物語にもかなり時間をかけて描いている。
キャストの個人的な印象を書くと、斎藤一役は①の竹中直人よりも、②の佐藤浩市の方が良かったように思い、大野次郎右衛門は①の内藤剛志が流石の演技力で、威厳のある藩の重役と、吉村の親友であるどこか泥臭い部分との塩梅を見事に表現していた(②の三宅裕司が悪かったわけではないのだが、内藤と比べるとやはり見劣りがする)。
さて、以下はまったくの余談であるが、本作は浅田次郎の代表作を原作としているだけに、一つの作品としてはよく出来た印象を受けるものの、歴史好きとしてはどうも素直に感動出来ないと言うか、ある面で白けてしまう所もある。
と言うのも、浅田次郎の描く吉村貫一郎は、かつて子母澤寛が『新選組始末記』の中で紹介した吉村像をベースにしているのであるが、現在、と言うかこのドラマや映画が公開された頃にはすでに史実の吉村貫一郎は全く別の年齢・経歴で、従来の吉村像は子母澤寛の創作であることが明らかになっている(現在判明している吉村貫一郎の経歴は、確かに南部藩の出身であるが高禄であり、年齢もずっと若く、また吉村貫一郎は変名で本名は「嘉村権太郎」と言う)。
そのため、史実を知ってしまうとどうしても感情移入出来ない部分があるのである。
もとより、あくまで原作は小説であり、両者ともに小説をベースにした創作作品であるから、史実に沿う必要は必ずしもないのであるが、例えば、吉川英治の『宮本武蔵』で描かれる吉川が創作した武蔵像(もちろん史実とは大きく異なる)が、今や『宮本武蔵』が歌舞伎の演目のような「古典」として昇華されてしまっているためあまり気にならないのに対し、何と言うか、書かれた年代が比較的に新しいだけに『壬生義士伝』はそう言った事例に比べると分が悪いような印象が個人的にはある(かつて宮城谷昌光がその著書『晏子』のあとがきで、「歴史小説とは感動を書くものだと思っている」と書いているが、私自身はこれを資料を読んで自分が感動した話を、小説と言う形で再構成して読者に届けると言う意味だと解釈していて、また私自身もそう言うものを求めて歴史小説を読んでいるので、作者にその意図があるかどうかは別にして、全くの創作をあたかも史実のように書く作品はどうも白けるのである)。
このあたりは、個人の好みと言うか感覚と言うか、人によってはイチャモンめいた感じに取られてしまうかも知れないが、上記のような理由で私はどうもこの作品が「苦手」である。
なお、余談ついでであるが、前述の大野次郎右衛門は吉村貫一郎とセットの関係であり、これもまた子母澤寛が創作したキャラクタで、実在上の人物ではないと見られている。
また、これは浅田次郎のミスであるが、①②ともに斎藤一が左利きであるために、刀を右の腰にさしていると言うと何ともおかしな格好で登場している(今日の剣道もそうであるように、利き腕がどちらであっても刀は左腰にさすのが普通であるし、そもそも刀は利き手がどちらであっても左手を軸にするものである)。
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