続・時代劇レヴュー㉗:八百八町夢日記(1989年~1992年)ほか日本テレビの時代劇

前回、「続・時代劇レヴュー㉘」で「長七郎江戸日記」を取り上げたので、話ついでに同じ日本テレビの往年の時代劇についても少し紹介したい。

過去に「長崎犯科帳」(1975年、萬屋錦之介主演)と「闇を斬る」(1993年、里見浩太朗主演)は紹介したことがあるので(ともに「時代劇レヴュー㉚」参照)、それ以外の中から、「八百八町夢日記」を中心に代表的作品を取り上げてみたい。

タイトル:八百八町夢日記

放送時期:1989年10月~1992年9月

放送局など:日本テレビ

主演(役名):里見浩太朗(榊原主計頭忠之)・風間杜夫(鼠小僧次郎吉)

脚本:小川英・胡桃哲・中野顕彰・名倉勲・佐藤五月・和久田正明ほか


日本テレビの時代劇で、里見浩太朗主演で好評を博した「長七郎江戸日記」に続いて放送された、同じく里見浩太朗主演時代劇が本作「八百八町夢日記」で、これは1989年から1992年まで休止をはさみながら二シリーズ製作された作品である(第一シリーズと第二シリーズの間に、「長七郎江戸日記」の第三シリーズが放送された)。

本作では、里見浩太朗の他に、もう一人の主人公として風間杜夫がキャスティングされているが、風間は過去に同じ日本テレビの「銭形平次」で主演を務めており、日本テレビの時代劇で主演を務めた両者のダブル主人公となった。

本作は江戸時代後期の天保初年を舞台にし、実在する北町奉行・榊原忠之と、やはり実在の人物である鼠小僧次郎吉の二人を主人公で、榊原を里見が、次郎吉を風間が演じている。

第一シリーズの序盤では「隠密奉行とねずみ小僧」と言う副題が付してあり、榊原忠之が処刑したことになっている鼠小僧次郎吉が実は榊原に助けられて生きており、榊原は次郎吉を見込んで片腕として用いてともに江戸の巨悪を取り締まっていくと言うストーリーである。

また榊原忠之が主人公であるために、史実で榊原が担当した相馬大作事件や仙石騒動など、実際の事件を題材にしたエピソードも作られている。

序盤は、まだ榊原を信頼しきっていない次郎吉と、榊原が徐々に信頼関係を築いていくのが見どころであり、また本作の特徴としては毎回榊原が「榊夢之介」と名乗って敵の懐に入り込んで事件の糸口を掴む点が挙げられ(たいていは浪人のスタイルだが、時に遊び人や商人になったりする)、最後に悪人の前で奉行と夢之介が同一人物であると正体を明かして悪事を裁くのは、「遠山の金さん」と共通する手法である。

もっとも、榊原奉行の場合は、たいてい事件の黒幕が幕府や諸藩の要人と言った武家身分であるせいか、お白洲で裁くのではなく、屋敷に直接乗り込んで首魁を斬り、その後で捕方が踏み込んで手下や商人などの「共犯者」を捕縛する(エピソードによっては、手下を斬って首魁を捕縛するものもある)と言う、ちょっと乱暴な解決の仕方をしている(第二シリーズでは捕方は登場せず、全員を榊原が斬り捨てる)。

里見浩太朗が榊原役で、次郎吉は風間杜夫が演じているが、それまでにも同局の「年末時代劇スペシャル」で度々共演している二人だけに息がぴったりの掛け合いは見ていて面白い。

「長七郎」ほどではないが、里見浩太朗主演の時代劇の中ではヒットし、また出来の良い部類に入るであろう。


風間は同じ日テレの他作品でも次郎吉役を演じているが、それが「八百八町」の直前の1988年8月に放送された「夢と承知で・鼠小僧大江戸青春絵図」である。

本作は「八百八町夢日記」のプレ作品とも言うべき内容で、まだ名が世に出る前の次郎吉が、若き日の遠山金四郎や、後に幕府に反逆する大塩平八郎らとともに将軍暗殺の陰謀に挑むと言ったストーリーで(遠山金四郎役は松村雄基)、作中で事件に巻き込まれて次郎吉の恋人が落命してしまうと言う点も「八百八町」と似た筋書きである(「八百八町」では、次郎吉の恋女房・お初が第二シリーズ第一話で落命している)。


里見浩太朗が主演を務めた作品としては、他にも1982年~1983に2シリーズが放送された「松平右近事件帳」(第二シリーズのタイトルは「新・松平右近」)があるが、これは「長七郎江戸日記」の亜種のような作品である(放送時期はこちらの方が早いが)。

主人公の松平右近は、十一代将軍家斉の弟で、幼少時代は市井で育ったことから大名暮らしを嫌って、普段は江戸城を離れて町医者・藪太郎と名乗って生活しているが、終盤の殺陣の場面になると三つ葉葵の紋所の着いた着物で登場して身分を明かし、悪人を成敗すると言う展開であり、基本的なコンセプトは「長七郎」とほぼ同じである(なお、本作のエピソードをベースにした郡順史によるノベライズ版が存在するが、そちらでは紀州藩主の弟と言う設定になっている)。

また、第二シリーズにレギュラー出演している野川由美子や火野正平、高品格は、番組終了後にそのまま「長七郎江戸日記」にスライドしたので、キャストも共通している(準レギュラーで家斉役の丹波哲郎も「長七郎」に出演)。

第一シリーズの好評によって直ちに二シリーズ目も製作されたのであるが、続編の方は不調で打ち切られてしまっている(基本的なストーリー展開は一緒なのであるが、確かに第一シリーズの方が面白く、第二シリーズの方はどう言うわけかクオリティが落ちる)。

ちなみに、作中の松平右近は架空の人物であるが、恐らくモデルは六代将軍家宣の弟である上州館林藩主の松平清武と思われる。

彼の通称も「右近将監」、すなわち「右近」であり、時代こそ違え将軍の弟である所、また彼も幼少時は家臣の子として育ち、家宣の弟として認知されたのは成人になってからなので、このあたりもドラマの「右近」と似ている(ただし、彼が「右近」に任官するのは家宣の死後)。


里見浩太朗と並んで日本テレビで時代劇の当たり役を演じた俳優と言えば、いま一人高橋英樹が思い浮かび、彼の代表作の一つである「桃太郎侍」も、日本テレビで1976年~1981年に放送された作品で、全部で二百五十八回が製作された(ちなみに、里見浩太朗も1960年の映画「桃太郎侍」で主演を務めている)。

山手樹一郎の同名小説が原作であるが、この高橋英樹版は原作と大きく設定が変わっており、原作では桃太郎は讃岐丸亀藩若木家と言う架空の大名家のご落胤になっているが、本作では若年寄・松平備前守の双子の弟(松平備前守は将軍家斉の子なので、桃太郎もすなわち将軍の落胤)と言う設定である(備前守は高橋英樹の二役)。

後年、テレビ朝日で1992年~1994年に、同じ高橋英樹主演でセルフリメイク的なスペシャル時代劇が三本放送されたが、そちらも松平備前守の弟と言う設定は日本テレビ版から引き継いでいる。

私はリメイク版はリアルタイムで見たことがあるものの、日本テレビ版は再放送で限られた話数しか見たことがないのであるが、その範囲で言えば、各話のエピソードは桃太郎、およびその周辺の人々と、その話に絡むゲスト人物との人情話やドタバタ劇がメインになっていて、悪人が悪事をめぐらせるのはついでみたいになってしまっているエピソードが多い印象がある。

黒幕が終盤になって唐突に登場するケースなどもあって、時代劇としては個人的にはいま一つなのであるが、高橋英樹の派手で迫力のある殺陣は毎回の見どころと言えよう。

1994年~1996年の日本テレビ時代劇の最末期に、再び高橋英樹が主演となって放送された「江戸の用心棒」は、計二シリーズが作られたものの、設定や内容などは「桃太郎侍」と重なる(と言うか、悪く言うと「桃太郎侍」の二番煎じ)所も多く、また時代劇の斜陽期に作られたせいもあってあまり言及されることがなく、放送時も度々プロ野球ナイター放送のために休止になることが多いこともあって影の薄い作品であるが、個人的にはこちらの方が「桃太郎侍」よりも好きである。

朝霞清三郎と言う元旗本の三男坊が主人公で、明確な時代設定は語られないものの、江戸時代後期の文化・文政期を思わせる描写や設定が登場している(歌舞伎役者の中村仲蔵や、東洲斎写楽が登場するエピソードがある)。


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