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世界史のまとめ×SDGs 目標⑮陸の豊かさも守ろう:1979年~現在

 SDGsとは「世界のあらゆる人々のかかえる問題を解するために、国連で採択された目標」のことです。
 言い換えれば「2019年になっても、人類が解決することができていない問題」を、2030年までにどの程度まで解決するべきか定めた目標です。
 17の目標の詳細はこちら。
 SDGsの前身であるMDGs(ミレニアム開発目標)が、「発展途上国」の課題解決に重点を置いていたのに対し、SDGsでは「先進国を含めた世界中の国々」をターゲットに据えています。
 一見「発展途上国」の問題にみえても、世界のあらゆる問題は複雑に絡み合っているからです。
 しかも、「経済」の発展ばかりを重視しても、「環境」や「社会」にとって良い結果をもたらすとはいえません。
 「世界史のまとめ×SDGs」では、われわれ人間がこれまでにこの課題にどう直面し、どのように対処してきたのか、SDGsの目標と関連づけながら振り返っていこうと思います。



地球ですか…。

―…まあ今となってはアタリマエの写真なんだけれど、この写真は人類が初めて宇宙から地球を撮影した写真だ。


 宇宙からもたらされた情報によって、この時期には「アメリカ人」「日本人」という意識を超える「地球人」という新しい意識がしだいに共有されていくようになった。

環境問題は地球人に共通する問題ですよね。

―でも、みんなで一致団結して環境問題に取り組むのは難しい。

 すでに「発展した国」と「まだこれから発展する国」との間には歴然とした差があるからだ。

 ブラジルで開かれた国際会議(注:リオサミット)では、「この先ずっと地球で住み続けることができるように配慮しながら、開発を進めていくべきだ」(注:持続可能な開発)という原則が確認された。特に、森林、温室効果ガス、生態系を守るためのルールや取り組みが設定されたよ。


開発して豊かになりたいのに、地球環境のことを考えてセーブするっていうことになると、発展途上国からは不満の声もあがりそうですね。

―うん。そこで、「国によって事情はいろいろ」「レベルに応じて責任を持ち合おう」という原則(注:共通だが差異ある原則)が確認されたんだ。


開発しようとしたら環境が破壊されるなんて、難しい問題ですね。

―たしかに先進国はこれまでさんざん環境を犠牲にして経済を発展させてきた。でも選択肢はそれだけじゃないはずだ。

 発展するためには先進国のたどったコースをそのままなぞらなくちゃいけないというわけではない。

 たとえばこの時期、発展途上国では固定電話の普及をすっ飛ばして、携帯電話が爆発的に普及した。

 また、石油や石炭による発電所に代わって、再生可能エネルギーを普及させようとする動きも広まっている。


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この時期にはたとえばどんな環境破壊が起きているんですか?

―たとえばブラジルのアマゾン川流域。

 ブラジルでは前の時期(1964年)から軍事政権による支配が続いており、外資の導入による経済発展が実を結んでいた。
 しかし、第一次石油危機後には成長率がにぶりインフレが進行。先進国に対する債務も積み上がり(累積対外債務の問題)、国内における貧富の差の拡大も問題となっていた。
 また、軍事政権の成立以降アマゾンの乱開発がエスカレートし、熱帯雨林の大規模な伐採や沙漠化が進行していたんだ。
 1980年代後半には民主化の機運が高まり、1985年には21年ぶりに文民大統領が就任した(民政移管)。
 周辺諸国との関係の改善も図られ、1989年9月にはアマゾン川流域の諸国によってアマゾン条約が締結され、乱開発を抑制するための施策が決められた。


アマゾン川の生態系はとっても豊かなんですよね。

―生き物のレパートリーが本来あるべき水準の豊かさを保っているエリアの代表例だね(注:生物多様性の高い地域)。



 まだまだ未知の動植物がたくさんいるといわれ、生物由来の薬の材料を探す先進国の製薬会社も目を光らせている。
 アマゾンに暮らす狩猟採集民たちは、動植物が体のどんなところに聞くのか、よくわきまえ、言い伝えによって先祖代々守ってきた
 先住民の住処に外部の人間が立ち入ることで、そういった知恵の成り立つ基盤そのものが失われつつあることも問題視されている。


自然とともに暮らしてきた狩猟採集民の暮らしにこそ、陸の豊かさを守る上でのヒントがあるかもしれませんね。

―だからこそ、これまで何千年以上もの間、そのライフスタイルを維持することができたわけだもんね。

アマゾンの焼き畑農業が森林伐採の原因だっていう話を聞いたことがありますが。

―伝統的な焼き畑農業は、森林が二度ともとに戻らないようなやり方でおこなわれることはないんだけどね。
 商品をたくさん生産してもうけようって話になっちゃうと、無計画に森林を伐採して、結局土が雨で流れちゃって農業もできなくなっちゃうっていう悪循環が生まれちゃう。それじゃあ元も子もない。

 ほんらい森林には土をがっちりキープしてくれる機能がある。

 その力を最大限に活かすため、木々の間で家畜を飼ったり農業をやったりする方法がある(注:アグロフォレストリー)。
 うまくいけば収益によって生活を改善させることにもつながる。


おー。

―こういう支援がマッチングできればいいけど、そうでなければ「辺境」とのレッテルを貼られた狩猟採集民や農耕民の状況は悲惨。都市化や資本主義経済の波には逆らえない。

 開発が進むに連れてそういった場所にも「商品」や「情報」が入り込み、「お金」という尺度によって豊かさが測られるようになれば、どうしたって辺境は「貧しい」地域となってしまう。

)そもそも、「ごはんをつくるための焚き木」「薬草」「食料」など生きるために必要不可欠なモノを供給してくれる森林がなくなってしまえば、お金を出して「焚き木」を買わざるをえないのは女性だ。こうしたモノを拾ってくる仕事を課されているのは女性だけれど、女性には土地を持つ権利が認められておらず、どうしたらいいのか決める決定権もないまま損失を被ることが少なくない。環境とジェンダーの問題も結びついているのだ(参考:UN WOMAN日本事務所SDGs×世界史のまとめ 目標⑤)。


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 そうなると、それまで共生してきた自然を「お金」を得るための対象にせざるをえないよね。


うーん…。

―たとえばアフリカ大陸は野生動物がたくさん生息していることで有名だよね。

 一方、植民地から独立した後、政治的に不安定な国が多く、資源目当てに先進国が首を突っ込み、この時期になっても内戦・戦争が絶えない状況にあった。

 冷戦の時代には、国内の主流派と反対派がそれぞれ、アメリカグループとソ連グループに分かれて争う構図だったけれども、冷戦が終わると、のきなみアメリカグループが政権をとることが増えた。

 そうなると、反対派はかつてソ連グループにより支給された大量のお手軽自動小銃(カラシニコフ)や兵器を武器に抵抗を続け、やがて思想的な支柱を国外の「国際テロ組織」に頼るようになっていった。

国境がヨーロッパ諸国によってテキトーに引かれたから、国内にはさまざまな民族が同居する状態っていうところが背景にあるんでしたよね。

―難しいところだよね。

 たとえばイギリスから独立したケニアは、前の時期の末(1978年)にキクユ人の出自である“独立の父”(注:その名もケニヤッタ)が亡くなると、第2代大統領に別の民族であるカレンジン人出身の副大統領(注:モイ)が昇格。キクユ人を排除して自らの出身であるカレンジン人を優遇して、アメリカ合衆国を初めとする西側諸国と軍部に接近した。そうすることによって援助の見返りを求めたんだ。

 こうして1982年以降、ケニア=アフリカ民族同盟(KANU)による一党国家の体制となったケニア。
 しかし、世界的な民主化の波が押し寄せ、1992年には複数政党制選挙が復活。しかし野党が分裂したため、結局カレンジン人の大統領はこの選挙と1997年の選挙で再選する。


モメそうですね。

―その後、21世紀に入ると(2002年)野党が結集し、大統領を選挙で倒すけど、その後の選挙(2007年)で野党のルオ人が「選挙の不正」を訴えて武力衝突に発展。初代大統領の出身民族をねらったテロも起き、大変な状況となった
 で、さらに2010年代に入ると、無政府状態」に陥った隣国ソマリアから過激派がケニア国内でテロ活動を行うようになる。ケニア政府はイスラーム教を掲げる過激派組織(注:アル=シャバブ)の掃討作戦もおこなっているけれど、根本的な解決には至っていない。


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 背景にある要因のひとつは、もちろん「貧しさ」だ。

 貧しい人々を使って、高値で取引される野生動物を捕まえさせるグループも後を絶たない。

「また、犯罪組織がアフリカ各地の貧困に付け込んで、地域の人々に金を渡して密猟をさせたり、得られた利益が武力闘争で使われる銃器の購入に回され、他の国際犯罪と相乗するケースも生じています。」(WWFジャパン「香港で史上最大級7.2トンの密輸象牙を押収」より)


たとえばどんな動物がターゲットとなるんですか?

―ゾウだ。
 アフリカゾウの象牙の需要は、この時期に中国やタイが発展するのに従って世界的に伸びていてね。

 戦争というともちろんまず被害を受けるのは人間だけど、動物だってその煽りを喰らうのだ。


取り締まれないんですかね?

―取り締まろうとしても、政府の側が外国の密輸業者とつるんでいる例すらある。政府がしっかりしていない場合、その政府を誰がどうやって見張るのか?(注:グローバル・ガバナンス)ということを考える必要があるわけだ。


***


密輸に手を染めないように「貧困」を解消することも必要ですね。

―それが抜本的だね。
 SDGs目標⑮でも「地域コミュニティの能力向上を通じた持続的な生計機会の追求などにより、保護種の密猟および違法な取引を撲滅するための取り組みに対する世界的支援を強化する」(15-c)とうたわれているね。

 ただ、貧困を解決するためにインフラを近代化させようとして、かえって動植物を絶滅に追いやるケースも少なくない。


開発と環境のバランスですか。目標⑨でも問題となってましたよね。

―この時期に爆発的に経済発展した中国の例を見てみよう。

 この時期に「市場経済」の仕組みを部分的に取り入れ、沿岸部を中心に「まるで資本主義経済」のような発展をしていった中国。
 2000年代に入ると、西部の山地にも開発の波が及ぶようになった(注:西部大開発)

 そんな中、長江の中流に超巨大ダム(注:サンシャダム)が建設された。多数の住民の移住をともなう大規模なプロジェクトであるとともに、長江に生息したイルカの一種(注:ヨウスコウカワイルカ)の絶滅にも影響を与えたといわれている。


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海に比べて陸は「目で見やすい」わけですから、何が起きているのか実際に見てみるといいかもしれませんね。

―観光と自然体験を組み合わせたツアー(注:エコツーリズム)も良い機会のひとつだね。

 違法な森林伐採を衛星をつかって監視しようという仕組みもあるよ。

 また、違法伐採・狩猟された動植物を使った製品を買わないことも選択肢のひとつだろう(注:住友林業ウェブサイト)。


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でも、日本にいるとなかなかピンと来ないですねえ…。

―たしかによっぽど山間部にいない限り、そこまで自然を意識しないことが多いからね。

 日本は土壌が豊かな地域が多い(注:下の「日本土壌インベントリー」では、全国の土壌の分布データが可視化されている)から「農業ができてアタリマエ」っていう意識もあるけど、世界的にみたら砂漠化や塩害がすすんで大変なところも多いんだよ。


うーん、「陸の豊かさ」と聞いてもあんまり土について考えたことはなかったです。

―聞いたことあると思うけど、実は「土」を通して、陸の豊かさは海の豊かさともつながっているんだよ。
 最近では宮城県の気仙沼で、「海の漁師さんが山の森林保全に貢献する営み」が注目を集めた。
 森が維持する豊かな土壌に含まれる栄養分が海に流れ込むことで、海の生き物たちは恵みを受けていたんだ。
 こういう「すべてのことが一体となってつながっているんだ」っていう考え方は、SDGsの底流にもなっている考え方といえる。

 ただ、そんな日本も、森林資源を保全する後継者の不足など、今まさに大きな岐路に立たされている。
 しかし、ナラ林・ブナ林に育まれた日本列島の文化は、今なお食文化をはじめとするさまざまなところに息づくものだ。

 「陸の豊かさ」を未来永劫に続くものと思わず、身近なところにも目を配りたいところだ。


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