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世界史のまとめ×SDGs 目標⑫つくる責任つかう責任:1979年~現在

 SDGsとは「世界のあらゆる人々のかかえる問題を解するために、国連で採択された目標」のことです。
 言い換えれば「2019年になっても、人類が解決することができていない問題」を、2030年までにどの程度まで解決するべきか定めた目標です。
 17の目標の詳細はこちら。
 SDGsの前身であるMDGs(ミレニアム開発目標)が、「発展途上国」の課題解決に重点を置いていたのに対し、SDGsでは「先進国を含めた世界中の国々」をターゲットに据えています。
 一見「発展途上国」の問題にみえても、世界のあらゆる問題は複雑に絡み合っているからです。
 しかも、「経済」の発展ばかりを重視しても、「環境」や「社会」にとって良い結果をもたらすとはいえません。
 「世界史のまとめ×SDGs」では、われわれ人間がこれまでにこの課題にどう直面し、どのように対処してきたのか、SDGsの目標と関連づけながら振り返っていこうと思います。

【1】「ものづくり」

ー「ものづくり」の歴史は長い。


ものをつくることは、人間にしかできないんですかね?

ー「ものづくり」の習性がある動物もいるけれど、人間は大きくなった大脳を働かせ、道具やもののつくりかたを不断に変え続け、その変化をコミュニケーションによって子や孫に伝えていった点で特別だ。


みんなで知恵を共有しているようなものですね。

ーそうだね。もちろんほかの動物も自然を利用し、それを作り変えながら生活している。だけど、技術よく生きうるための術)を発達させていった人間は、もっと積極的に自然を作り変えようとしていったわけだ。

 そのためにまず、「硬い物を変形させるための道具」が発達していった。

石器をつくる


銅をつくる


鉄をつくる


素材はどんどん硬くなっていったんですね。

ー技術の発達によって火力が上がると、とっても硬い鉄をつくることも可能になっていくんだ。

ベッセマー転炉

ーだけど、火力を上げるってことは、それだけ多くの燃料も必要だ。

燃料というと手っ取り早いのは木ですね。

ーそう。
 つまり技術を発達させ生活を豊かにするってことは、「木の伐採」という事態と隣り合わせにあるってことだ。

 『桃太郎』というお話に、「おじいさんはシバ刈りに、おばあさんは川へ洗濯に」っていうフレーズがあるでしょ。
 このシバ刈りっていうのは「芝生(しばふ)」のことじゃなくて、山に生えていた灌木のこと。

 人里にほど近い森は、ものづくりや生活のために山々の木の資源の枯渇がすすんでいくのが常だった(⇒目標⑮陸の豊かさも守ろう)。

 道具の素材には鉄以外の金属も利用された。
 20世紀にかけて生産が増えていったのは、軽量で劣化しにくい金属だ(注:飛行機とアルミニウム)。

アルミニウムづくり


軽くて丈夫な物が求められるようになっていったんですね。

ー家の中にあるものを見渡してごらん。

 「石器時代」→「青銅器時代」→「鉄器時代」と進み、人類はいよいよ「プラスチック時代」に突入したといってもよいほどの普及っぷりだ。


【2】プラスチックの惑星

ーこの時代(1979年~現在)、プラスチックのゴミはあっという間に世界を覆い尽くす(ナショナル・ジオグラフィック「WE MADE PLASTIC. WE DEPEND ON IT. NOW WE’RE DROWNING IN IT.」より)。


プラスチックって、環境に良くないですよね。

ー自然に還りにくいからねえ。海に流れ込んだプラスチックによる汚染が世界的に問題となっているよね(⇒目標⑭海の豊かさを守ろう)。

 自然に還りやすい素材の研究や、燃やさずに処理する方法も模索されているけど、プラスチックを使う側だけでなく「つくる側」にも責任を課そうとする動きも強くなっているね。


「お金もうけ」と「環境」のバランスを考えている会社を評価する仕組みってないんですか?

ーちゃんとした取り組みをしている企業が、資金を手に入れやすくするための仕組みづくりも進んでいるよ(注:ESG投資)。

例えばどんなことをチェックするんですか?

ー例えば、環境に有害な物質を工場の外に垂れ流していないかということ。
この時期にはインドの化学工場から猛毒ガスが放出され、スラムに住む人々を中心に数千人以上が犠牲となっている。

 インドの事故も、親会社はアメリカ合衆国の会社だった。いろんな国に展開する会社の場合、工場を置いている国に住む人たちの事情をおろそかにしていないかというチェックも必要だ(注:グローバル・ガバナンス)。


もちろん、つかう側にも知識や意識が必要ですよね。

ーそうそう。知識がなければ「プラスチックは自然に還る」と思い込んでしまうのも無理はない。人口が過密で急速に経済が発展している地域では、ゴミの不法投棄が問題となりがちだ(⇒目標⑪)。


環境のことを考える教育(⇒目標④)ってとても大切ですね。

ーそうだね。プラスチック製品を買うのをやめるっていう意識の問題。


【3】つくりなおす、つかいなおす、みんなで使う

ー一度使ったものを捨てちゃうのではなく、その素材を再利用して「つくりなおす」取り組みも見直されている。
 かつては日本でも「屑物が建場に集まり、選分され、問屋を通して工場に送られるという伝統的な資源回収システム」が機能していた。
 それが、ゴミが一括回収される「ステーション方式」へと変わったのは例えば日本では東京オリンピック(1964年)以降のことだ。


まだ使える部品や素材があれば、再利用できますもんね。

ー廃品の回収を徹底すれば、資源の無駄遣いは防げる。

 最近では電子機器の中に使用されている「貴重な金属」(注:レアメタル)の再利用も進められているよね。


やっぱりリサイクルって大切ですね。

ーリサイクルすること自体が目的になっては意味がないけどね。再利用する過程で温暖化に影響するガスが排出されたり、利権が絡むだけで回収されたものの十分にリサイクルされていなかったりする製品があることも指摘されている。


古くなったものを、誰か欲しいひとにあげるっていうこともできますよね。

ーリユース(再使用)だね。まだ使えるものを人に譲るという選択肢もあるよね。
 たいてい物が有り余っているのは豊かな先進国で、足りないのは途上国だ。


ということは先進国の物が、途上国に流れるルートがありそうです。

ーその通り。 

 例えば(上の動画(BBC))では、アフリカのウガンダや、アジアのパキスタンにある衣服のマーケットが紹介されている。ここにはアメリカ、イギリス、韓国などから幅広い中古服が流れ込んでいるんだ。


先進国の「おさがり」が途上国に流れ込んでいるっていうわけですか。

ーそうだね。
 最近ではアパレルショップに「途上国に寄付しませんか?」っていうボックスがあったりするでしょ。


やってことあります。

ーでもね、実はそれが逆に途上国を苦しめている恐れもあるんだ。

資源を無駄にしないんだから、良いことなんじゃないですか?


ー先進国ではファストファッションといって、信じられないくらい安い値段で衣服を買うことができるようになったよね。この時代に入って「自由なビジネス」が国を超えて広がり(注:グローバリゼーション)、国をまたいで作業が効率的に分担されるようになった結果だ。

 「自由な経済」を背景に、衣類はいっぱい余った国から足りない国へと運ばれ、そこでさらに仕分けられ、古くても買い手のつく貧しい国へと運ばれることになる。
 われわれ先進国に住んでいると実感はないけど、アフリカに行くと実にたくさんの人たちがアジアや欧米で生産されたTシャツを着ている。

世界で最も多くの古着が最終的にたどり着くのがアフリカ大陸だ。なかでもケニアは最大級の市場。モンバサ港に着いた古着のベールは、陸路でこのギコンバ市場に運ばれ、卸売りや仲買を通して、ナイロビのビジネス街から地方の村まで、血液が毛細血管を流れるように隅々に行き渡る。米国際開発庁の調査では、ケニアでは67%の人が古着を買ったことがあるといい、低所得層だけでなく、幅広い層に愛用されているのだ。

でも、安く手に入るんであれば、アフリカの人にとっても良いことなんじゃないですかね…。

ーそうも言ってられない。地元の衣類の産業が大打撃を受けるからだ。

 もともとケニアを始めアフリカ諸国は、繊維・縫製産業に力を入れていた。しかし、1980年代から90年代初頭にかけ、国際通貨基金や世界銀行主導の経済構造改革で貿易の自由化が進んだ。その結果、先進国発の古着が大量に流入し、中国などからの安価な新品の輸入も相まって、地元の産業は衰退していった。(上図とともにAsahi Shimbun Globe+より)


なんだか、19世紀のインドの状況と似てますね。

ーよくピンと来たね。イギリスの工場で生産された綿織物が、インドの伝統的な手織り綿布(注:キャラコ)の生産に打撃を与えたということがあったよね(⇒1760年~1815年の世界史のまとめ×SDGs)。

この先もこの状況が続くんですか?

ーアフリカ諸国は激安Tシャツの流入をストップさせたいところだけど、これに待ったを書けたのがアメリカの古着業界だ。
 古着の輸入をしないのであれば経済的な補助(注:アフリカ成長機会法(AGOA))を打ち切るとして、ひとつの国を除いてあきらめた。


ひとつの国って?

ールワンダという国だ。
 この時期に壊滅的な内戦(注:ルワンダ内戦)を経験した後、大統領の強いリーダーシップによって経済回復を成し遂げたところだ。


リサイクルや寄付のように「善意で」おこなっていることが、実は悪影響を生みかねないっていうのは、ちょっと残念ですね。

ーでしょ。一部分を解決すれば、全体も解決するってことにはならないんだよね。
 まあ、そもそも物を必要以上買わないっていうのも選択肢だよね。


えっ、それはイヤです(笑)

ー意識の問題では難しいから、ゴミの投棄に税をかける取り組みをしているところもあるね。全国に広がったゴミ袋有料化やレジ袋有料化も、ある意味ゴミの量をおさえる仕組みといえそうだ。

 また、買って自分のものにするのはやめて、他の人とシェアしたりレンタルで済ませればいいやっていう人も増えているね。

まあ、確かに人とシェアできるなら、できたほうが楽なものもありますよね。


【4】物との関わりの未来

ーこれは一般的な話だけど、お金で買える物が有り余るほど豊かになった社会(注:ポスト消費社会、成熟社会)では、モノを買うことで自分をアピールしようとする人が減ると言われている。

 別にお店で並んでいる物はお金を出せば手が届くわけだからね。で、それに代わり、物ではなく体験を通して充実感を得ようとする人が増えると言われている(注:モノ消費からコト消費へ)。


そういうふうに社会が変わっていけば、物を過剰につくるってこともなくなるんですかね?

ーそれはわからないなあ(笑)ただ言えるのは、元来人間は、「過剰」なことが大好きな動物じゃないかってことだ。

 例えば大事なお客さんが遠くから遊びに来たら、なるべくたくさん料理を用意して、テーブルの上をいつもより華やかににぎやかにしようとするでしょ。

 一見意味がないと思えるような物であっても、イベントや節目にパーッとお金を使うことも多い。
 そんなときにパーッとお金をはたいてみんなに気前よくふるまってくれる人には、古今東西、人望があつまるよね。


おごってくれる人は、素敵です(笑)

ー物にこだわらない気前の良さが評価されるのは、かつて物が豊富ではなかった時代、家族や仲間で物をシェアしていた頃の名残かもしれないね。

 そうやって普段貯め込んだ富を放出することには、社会の中に生まれた偏りをリセットする効果があったんじゃないかと考える人もいるよ(注:バタイユの「蕩尽」(とうじん)という概念)。

* * *

 さて、今回は人間と物との関わりについて、この時期の動向を少しだけ絡めながら見ていった。
 最近では「断捨離ブーム」のように「ものがいらない」生活をしようというライフスタイルも人気だ。

 ただそんなふうな暮らしも、物を所有していなくてもなんとかやっていける「便利な社会のインフラ」があってこそ成り立つもの。

 全体としては、人類史上もっとも豊かな社会のひとつとなった現代の日本社会だけど、日本だけで自己完結しているわけじゃない。
 輸入された電化製品をつくるため、輸入肉を生産するために外国で大量の水が使われ(⇒目標⑥)、安いアパレルをつくるためにどこぞの国の人々の労働力が使われている現実がある

歪みのある仕組みが長続きすることはないでしょうね

ーどこかで「たくさんつくってたくさんつくる」仕組みを見直すことが必要だ。

あらかじめ計画して、使う分だけ作るっていうのはダメですか?

ー計画経済だね。かつて「そもそもそんな計算できるのか?」っていう論争もあってね。もちろん大雑把に計画するわけではなく、けっこう緻密に計算するわけなんだけど(注:産業連関表)。

 結局この時期、ソ連型の計画経済(中央の政府がトップダウンで生産量を決めるしくみ)は破綻してしまう。

 でも仮にもしロスが出ないようなカンペキな計算方法がこの世に存在するとすれば、それに基づき生産すればいいんじゃないかっていう主張もなくはない。


可能なんですか?

ー現時点ではなんとも。


 そもそも人間は「必要」「不必要」だけで、物を手に入れたいと思うわけじゃないよね。
 単なる物なんだけどもそこに思いを募らせるのが人間だ(注:フェティッシュ)。思い出の詰まったぬいぐるみを捨てるのだって、辛くなるわけだ。


日本では「もったいない」っていって、物を大事にする文化がありますね。

ーケニアの女性運動家(注:ワンガリ・マータイ⇒目標⑤)が取り入れたことで世界にも知られるようになったよね。


 また、その物がどこからやって来て、どんなふうにつくられたのか、注目する人も増えているよね。

 自分のところにたどり着いた物が、道徳的に正しくない方法で作られたものであってほしくないという思い。それを持つことが、誰かの幸せを奪うことによって成り立つ経済の仕組みに歯止めをかけることにつながるかもしれない(注:エシカル消費)。


そんな動機でみんながみんな物を買うとは思えませんが…。

ーたしかに「○○のためになるから買ってください」って言われても、ほんとうにその物が「素敵」であることは、訴求する上で大事な条件だよね。

 リサイクルという言い方のほかにアップサイクルっていう言葉があるんだけど知ってる?

上げる?

ーそう。上げるわけ。
 ただ単に再利用するわけじゃなくて、さらに品質や機能をアップさせて、次につなげていこうっていう「一歩うわて」のリサイクルだ。


たしかに「フェアトレード」って書いてあっても、美味しくなければ「また買おう」ってなるとは限りませんからね。そういう努力は当然必要ですよね。

ーアイデア勝負というところも大きいね。


物がどうやってつくられたのかちゃんと情報がわかるようになれば、相手のことはどうなってもいい(どうでもいい)っていう物の売り買いが”時代遅れ”となる時代が、やって来るかもしれませんね。

ーデータが改ざんされないように、その物がお店までたどってきたルートをたどる仕組みも導入されつつある(注:ブロックチェーンとトレーサビリティ)。


おお~。

ーそうやって、今ある経済の仕組みを少しずつ調整しようとする試みが盛んに行われているんだ。


今ある経済の仕組みが歴史的に”つくり上げられたもの”だってことを、これまでも学んできましたね。


ー歴史的に”つくられた”ものであっても、しばらくすると”前からずっとそうだった”って錯覚してしまいがちだ。


 だけど、われわれの目に見えるところだけでなく見えないところ、社会の内側だけでなく外側の世界にも注目してみれば、その仕組みの来歴が浮かび上がってくるもの。


そういう意味でも世界史を勉強することは役に立ちそうです。

ーどうしてそうなったのか理解した上で、自分のとる「物を買う」という行動の”影響”を自覚することにつながっていければいいね(注:エいきょうを シっかりと カんがえル)。


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