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国際文化観光ってなに?

観光は異なる文化や価値観に触れ、理解を促進する大きなきっかけとなる。そして今、観光の文化的な側面にスポットライトを当て、世界平和まで実現してしまおうという大きな動きが出てきているという。

外務省勤務時代に、100カ国以上もの国を訪れ、仕事をしてきた経験を持つ、ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタント 高橋政司が、今話題のインバウンド用語をピックアップし、世界目線で詳しく、やさしく解説する本連載。

第21回では『国際文化観光(Global Cultural Tourism)』について取りあげる。世界目線チームの若手筆頭、ヒナタが素朴な疑問をぶつけてみた。


ーー国際文化観光とは何でしょう?
「言葉としては、文化庁が提唱している『文化観光』に『国際』を付けたものですが、『文化観光』とは文化の振興と観光の振興を組み合わせて地域の活性化に繋げていこう、というものです。この文化観光を世界にも通じるものにというのが『国際文化観光』です。

ここでいう『国際』とは自国以外の国を指すInternationalではなく、自国も含めた地球全体を意味するGlobalの意味なんです。なので、英語に訳すのであれば、『Global Cultural Tourism』と言うのが正しいのではないでしょうか。

文化観光を通じて、地域が活性化することによって、経済効果が上がり、文化財の保護や振興に再投資できるような好循環を生み出すことができます。

日本は自国の有形・無形の文化、歴史的・文化的背景、ストーリー性などあらゆる文化資源をしっかりと活用していくべきです。積極的な情報発信、快適な交通アクセス、多言語対応やWi-Fi、キャッシュレス・キャッシャーレスの整備などが付随していくことによって、国際文化観光は地域活性化において重要な役割を果たすようになるはずです」

ーー地域で国際文化観光を行うためには何が必要なのでしょうか
「国際文化観光の拠点となるような施設を整備することが効果的です。世界遺産におけるガイダンスセンターをバージョンアップさせたようなものです。まずそこに立ち寄ってから、必要な情報や楽しみ方などの情報を収集して、その地域の有形・無形の文化資源に触れ、観光をしながら文化に親しむことができるようなプラットフォームを構築できるといいですよね。

令和2年、文化観光推進法(注1)が成立し、今年の5月1日から施行されています。この新法も国際文化観光を大きく後押しすることになると思います」

(注1)「文化の振興を,観光の振興と地域の活性化につなげ,これによる経済効果が文化の振興に再投資される好循環を創出することを目的とする」
「文化観光」文化庁
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/bunkakanko/index.html

ーー世界的にはどのような動きがありますか
「私たちが標榜する『世界目線』で国際文化観光を定義づけてみましょう。WTO(世界貿易機関)によると観光業は世界で3番目に大きな産業分野とされています。この巨大な産業をどう活用していくのかが、現在の国際社会における課題となっています。

今、国連をはじめとする国際機関が『新しい観光の形』を政策として打ち出しています。そこで国際文化観光は、多様な文化や歴史に対する人々の関心を掻き立て、『実際に訪れて体験してみたい』と思ってもらうために必要と考えられています。

国連が提唱し始めているのが『遺産観光 Heritage Tourism』です。これは観光の振興によって得た財源を、世界遺産をはじめとするさまざまな文化や自然の遺産の保護・保全に回していこうというものです。

そして国際文化観光や遺産観光の最終的な目標は平和の促進なのです」

ーーなぜでしょう
「今、世界の至るところでさまざまな軋轢が生じてます。例えば、中東、ロシアと隣国、インドとパキスタン、イスラエルとパレスチナなど国連で何十年も争っていたり、摩擦が生じていますよね。

これらの争い事を起こしている国や地域の人たちはお互いのことを理解しようとしない、あるいは理解する機会に恵まれないか、それを選択していません。政治に翻弄され、文化を通じた個人間の交流がしにくい状況に陥っています。

国際文化観光によって、特定の国や地域に対して持つステレオタイプなイメージを払拭し、人との出会いやローカルな体験を通じて情緒的な結びつきを強めることができます

ーー日本で国際文化観光はどこまで効果を発揮するのでしょうか
「日本の歴史・伝統といった文化的な側面への知的欲求を満たす観光はこれからよりいっそう増えていきます。この『知的欲求を満たす観光』は重要なキーワードとなります。『知的財産』とも言うように、ものを知り、経験し、体感することによって得られる財産がこれからの観光において非常に重要になってきます。

18世紀から19世紀にかけてのヨーロッパでは、富裕層や上流階級の人たちが教養を広げるために世界を旅していたのです。これを『グランドツアー』といい、国際文化観光の語源といえます。その時、Tourismという言葉が生まれたようです。ここには自己啓発や教養という意味も含まれていました」

ーー世界旅行は富裕層の特権だったんですね
「はい、しかし20世紀後半になると、マスツーリズムの時代が到来します。つまり旅行が大衆化し、多くの人間が世界中を飛び回るようになります。観光地に多くの人々が押し寄せ、環境破壊や文化のエンタメ化といった負の側面もありました。

しかし、コロナ禍によって、グリーンリカバリー(注2)やサステイナブルツーリズム(注3)が注目され、自然環境や文化財の価値を見直す動きに拍車がかかっています」

(注2)ポストコロナ時代の経済復興に加えて、これまで先送りになっていた環境問題も課題として盛り込み、一緒に解決してしまおうという取り組み

(注3)観光が持続可能であるためには、観光を作り上げている資源そのものが持続可能でなければならないという考え方

ーー世界遺産や、歴史・伝統と聞くと若干権威のようなものを感じてしまいますが、そうではないのですね
「以前、バルバドスに行きました。街中を車で走っていると、至る所でスティールドラムが鳴らされ、ラジオをつける必要がないほど音楽が溢れているのです。そのような状況の中で、ラム酒を飲みながら、トビウオのフライ(バルバドス料理)を食べるだけで特別な体験になります。

しかし、バルバドスの人たちは、普段通りの暮らしをしているだけなのです。それが観光客にとってはかけがえのない体験になる。これこそが国際文化観光を作る上で大切な基盤となるのだと思います。

国際文化観光は、有形・無形の文化、歴史、風習などを通じ、その地域を訪れる人々の心を豊かにします。それと同時に、その地域に住んでいる人々が地域の普遍的な価値とアイデンティティーを再認識する絶好の機会だと考えています」

高橋政司
ORIGINAL Inc. 執行役員 シニアコンサルタント1989年 外務省入省。日本大使館、総領事館において、主に日本を海外に紹介する文化・広報、日系企業支援などを担当。2009年以降、UNESCO業務を担当。「世界文化遺産」「世界自然遺産」「世界無形文化遺産」など様々な遺産の登録に携わる。2018年10月より現職。2019年、観光庁最先端観光コンテンツ インキュベーター事業専属有識者。2020年、宗像環境国際会議 実行委員会アドバイザー、伊勢TOKOWAKA協議会委員。

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