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ガストロノミーツーリズムってなに?

旅行の醍醐味は数あれど、多くの人にとって欠かせないのが食事ではないだろうか。味わい楽しむのはもちろん、その国・地域の文化や歴史を知るきっかけにもなるし、旅先のレストランやカフェに行けば現地の人との交流も生まれる。しかし、withコロナの状況下では観光における食のあり方も変わるという。

外務省勤務時代に、100カ国以上もの国を訪れ、仕事をしてきた経験を持つ、ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタント 高橋政司が、今話題のインバウンド用語をピックアップし、世界目線で詳しく、やさしく解説する本連載。

第12回では『ガストロノミーツーリズム(Gastronomy Tourism)』について取りあげる。世界目線チームの若手筆頭、ヒナタが素朴な疑問をぶつけてみた。

ーーガストロノミーツーリズムとはなんでしょうか

「一言で言うと、食文化を体験するツーリズムです。美食と解釈されることも多いようですが、そうではありません。このGastronomyという言葉はギリシャ語に端を発し、ガストロス(消化器)ノモス(学問)の複合語です(注1)。文化観光の一種であり、旅をしながら食の文化的側面を知ろうというコンセプトです。

第11回のキーワード『マイクロツーリズム』は三密にならないようにしながら、近場のエリアを見直す旅でしたよね。そこで人間の最も大きな関心事項の一つである『食』に焦点を当てて、楽しく、美味しく、自分が住む地域とその周辺を再発見しようという意味で今後、注目度が高まるのではないかと私は考えています。

ここで大切なのは、マイクロツーリズムに包含される形でガストロノミーツーリズムが行われることです。何か美味しそうな食べ物があるからと、不用意に長距離移動をし、三密になってしまってはダメです。ここでも第1回『トラベルバブル』の『Stay in your bubble』を意識してください

(注1)「ガストロノミアって何?」ガストロノミア http://www.gastronomia.jp/2017/02/97/


ーー海外ではどのような事例があるのでしょうか

「イタリアで生活していた頃、ワインのメッカと見なされているトスカーナ州のピエンツァという村での滞在型ツアーに参加しました。ローマとフィレンツェの中間地点にあり、いずれの街からも車で2時間半ほどで行ける地の利のいい場所で、日帰りツアーとしても定番なんです。私の大好きな世界遺産の一つでもあります。

そこで、ワイン農家が営むペンションに滞在し、ワイン作りを手伝わせてもらうという経験をしたんです。実際に住んでいるので、農家の人と話す機会も多く、ワインの歴史や作り方についても多くの学びがありました。それらを知った上で味わうワインは格別なんです。これが私にとってのガストロノミーツーリズムの原体験だったと言えます。

同じように、南ドイツに住んでいた頃、年に数回さまざまな地ビールを飲み回るツアーに参加していました。これは半径100キロメートルほどのエリア内で、さまざまな村を宿泊しながら回り、各村のビールの歴史やその味が出来上がるまでの経緯について学ぶものです。もちろんそのビールに合う食事も楽しめます。ドイツでも私はガストロノミーツーリズムの素晴らしさを実感しました。

食べ物(飲み物)なので、味わうのはもちろん大切ですが、それが全てではないんです。こういったコンセプトのツアーはこれまでもさまざまな国で実践されていたのだと思いますが、特にヨーロッパではこのような『エリアガストロノミーツーリズム』が盛んに行われているように感じます」

ーーガストロノミーツーリズムのコンセプト自体は昔からあったということなんですね

「そうですね。ロンドンからローマまで行こうとするとやはりお金と時間がかかりますし、そう頻繁にいけるものではありません。それなら近場を旅して、食も楽しもう、という考え方が、特にヨーロッパにおいては根付いているのだと思います。

とはいえ、日本でも江戸時代から『四里四方に病なし』という言葉があり、これは四里(約16キロメートル)以内で採れるものを食べていれば病知らずで健康に過ごせるという意味です。

ヨーロッパのワインについても、例えばトスカーナのワインをトスカーナで飲むか、ベルリンで飲むかでも味が違ってくると言われています。それはワインは空気と一緒に楽しむものあり、生産地の空気を口に含みながら飲むのが一番の御馳走と見なされているからなんです。これはヨーロッパのワイン通であれば誰もが認める話です。

そういう意味でもガストロノミーツーリズムはとても魅力なんです。その土地の食べ物をその土地で味わう美味しさは格別ですから」


ーーガストロミーツーリズムの魅力、そしてwithコロナ時代における可能性、大変よく理解できました。日本で今後普及するためにはどういった取り組みが必要なのでしょうか

地元の食文化の魅力を伝える広報戦略が必要でしょう。人は基本的に地元に対して特別な魅力を感じにくいものです。前回説明したように、マイクロツーリズムでは既知を未知に変え、新鮮な体験を提供する必要があるので、おもしろおかしく、SNS上でシェアし拡散したくなるようなコンテンツを制作し、発信していくべきです。

また、今の時代はインフルエンサーなど、一般の人の発信力も大きな力になるので、実際に食べに行った人がその場で発信し、シェアしたくなるような特別な体験を提供することも大切だと思います」

高橋政司
ORIGINAL Inc. 執行役員 シニアコンサルタント1989年 外務省入省。日本大使館、総領事館において、主に日本を海外に紹介する文化・広報、日系企業支援などを担当。2009年以降、UNESCO業務を担当。「世界文化遺産」「世界自然遺産」「世界無形文化遺産」など様々な遺産の登録に携わる。2018年10月より現職。2019年、観光庁最先端観光コンテンツ インキュベーター事業専属有識者。2020年、宗像環境国際会議 実行委員会アドバイザー、伊勢TOKOWAKA協議会委員。

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