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トラベルバブルってなに?

インバウンドに携わると、見慣れない言葉を目にすることが多い。その時々の世界情勢によって、新たなキーワードもトレンド入りしている。私たちはこれらの言葉一つ一つについて、どれだけ深く理解しているのだろうか。

外務省勤務時代に、100カ国以上もの国を訪れ、仕事をしてきた経験を持つ、ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタント 高橋政司が、今話題のインバウンド用語をピックアップし、世界目線で詳しく、やさしく解説する本連載。

第1回のキーワードは『トラベルバブル』。世界目線チームの若手筆頭、ヒナタが素朴な疑問をぶつけてみた。

――最近、ニュースなどで『トラベルバブル』という言葉を見かけるようになりました。どういう意味なのでしょうか。

ある特定の条件が満たされたバブルの中の人々だけが自由に行き来をすることを、『トラベルバブル』といいます。バブルは泡です。液体に包まれた気体のことです。この気体の部分が、家族だったり、国だったり、複数の国に跨る地域だったりする訳ですね。

それらがたくさん集まるとフォーム(foam)になります。ビールに例えると、下の方からフツフツと湧き上がるのがバブル、表面の白い泡の塊がフォームです。バブルがぶつかり合い、接触し、フォームとなります。

トラベルバブルで大切なポイントは、バブルがフォームになってはいけない、ということなんです」

――そもそも、この言葉はどこから出てきたのですか?

「この言葉が出てくる元となったのは、ニュージーランドのアーダーン首相ではないでしょうか。ニュージーランドがロックダウンに踏み切った際、アーダーン首相は国民に対しての説明の中で、”Stay in your bubble”(あなたの泡の中にいなさい)という表現を使いました。

”Stay home”(家にいなさい)だとどこか孤立感がありますが、バブルであれば、泡の中で家族や、その他の同居人たちと一緒に過ごしてくださいね、という意味が感じられます。一種の安全圏としての共同体ですね。

目的は”Isolation”(孤立)ですが、それだと部屋で一人過ごしているような印象を与えてしまいます。バブルという言葉を使うことで、その内側にいる人たち同士では自由に交流していいですよ、という意味になります

――分かりやすいですね。バブルにはどのような人たちが含まれるのでしょうか。

「アーダーン首相は、”You can only see a small group of people”(あなたは小さなグループの人々としか会えない)、そしてそのグループとは、 “the people you live with”(あなたと一緒に住む人たち)、もしくは“Your suppport workers” (あなたが必要とする支援者: 医療関係者など)だと説明しています」

――先ほど、バブルとフォームの話をされていました。バブルがフォームになってはいけないとは、どういうことでしょうか。

バブルとバブルは接触すると気体を包んでいる液体が弾けて他の気体と融合してしまうからです。そうなるとバブルを形成する意味がありません

ニュージーランドでも”You must keep 2 meters away from the poeple who are not in your bubble”(あなたのバブルの中にいない人からは2メートル距離を取ること)といわれています。

とても分かりやすい説明ですよね。これは、移民が占める割合が多い国ならではのことだと私は思います」

――世界で注目すべきトラベルバブルはありますか?

高橋「いい例が二つあります。一つはエストニア、ラトビア、リトアニアから成るバルト三国(*1)、もう一つは、オーストラリアとニュージーランドです。バルト三国はEUの加盟国であり、シェンゲン協定に入っています」

(*1)世界のさまざまな地域が、地域連携という形で、グループ分けされることがあります。例えば、”イタリア半島”というと、イタリアとサンマリノ、バチカンの三つの国が含まれます。スカンジナビアなどもそうです。バルト三国も、そのようなグループ分けされた地域です。

――バルト三国のトラベルバブルについて教えてください。

「シェンゲン協定とは、加盟国間(現在26カ国)において審査なしの出入国を可能にする協定です。しかし、コロナ禍で実質的には無効となっています。

そこで、コロナ禍の収束後の観光市場の再開に向けて、バルト三国をトラベルバブルとして、互いに自由に行き来できるようにしようという動きが起きたのです。

ポイントは、これら三国がコロナ禍以前から、入国の条件を統一していたということ。これはトラベルバブルを作る上でとても大事な条件の一つです。

オーストラリアとニュージーランドの間にも似たような地域間協定(*2)が存在しています。互いに人や物の行き来を自由にしようという考えが根付いている地域ではトラベルバブルが起こりやすい。こちらの二国間では現在、トランスタスマン・バブル構想というトラベルバブルが考案されています」

(*2)ANZCERTA(Australia, New Zealand closer exconomy realtions trade agreement)はEUと非常に似ています。SPARTECA(南太平洋地域貿易経済協力協定)もあります。

――もし、日本でトラベルバブルを実施するとしたら、どのような形があり得るのでしょうか。

「結論から言うと、日本がトラベルバブルを起こすのは難しいです。まず、パスポートなしで日本に入れる国がありません。加えて、入国における審査要件も国ごとに異なります。

例えば、中国パスポート保持者は観光目的の短期滞在であったとしてもビザを必要とします。その一方で、台湾パスポート保持者であれば、ビザは必要ありません。

トラベルバブルを起こすには(入国管理において)相思相愛でないといけないんです。日本がある国とトラベルバブルをやりたいと思っても、相手国が日本とやりたいと思ってくれる必要があります。さらには、互いの入国の条件を細かくすり合わせる必要があるでしょう」

――条件の調整は難しいのでしょうか。

「シェンゲン協定でみてみましょう。例えば、あなたがドイツに入国したとします。入国後は期限内であれば、協定内の国をパスコントロールなしで自由に動いていいんです。そして、最後に訪れた国で出国審査を受けます。

先ほどの『あなたのバブルの中にいなさい』という考え方と似ていますよね。

こういった土台があるヨーロッパはトラベルバブルが起こりやすいんです。しかし、日本の場合はそもそもそのような協定を結んでいる国がないので、トラベルバブルを作るのはなかなか難しいんです」

――例えば、台湾との間のトラベルバブルは考えられませんか。

「仮に日本と台湾でトラベルバブルを行うとすると、台湾から入ってくる台湾パスポート保持者たちが、台湾側のバブルの中にずっといたのかを確認する必要があります。

つい最近まで中国にいました、なんて人もいるかもしれませんよね。そういったことへの対応も考えなければなりません。それから、台湾に住む外国籍の人についても考える必要がありますね」

――今後、グローバルな地域間移動はどのように再開されていくのでしょうか。

状況を見ながら、段階的に人の行き来を再開させていくのが現実的でしょう。まずは海外に行かねばならない人。国家の経済に関わるビジネスパーソンや、あるいは高度専門職に従事する人などが、優先的に入国を許可されていくことになります。その次に留学生、そして最後が一般の観光客となるでしょう。

トラベルバブルは、コロナ禍以前から互いに入国の条件を整えて国境を越えた往来を積極的に行っていた国同士であれば、コロナ収束後の観光市場の再開に向けて、迅速かつ、効果的な打ち手になるに違いありません。

しかし、そういった背景のない国や地域が取り組むには時間と労力がかかるので、現実的には起こりにくいものだと思います」

高橋政司
ORIGINAL Inc. 執行役員 シニアコンサルタント1989年 外務省入省。外交官として、パプアニューギニア、ドイツ連邦共和国などの日本大使館、総領事館において、主に日本を海外に紹介する文化・広報、日系企業支援などを担当。2005年、アジア大洋州局にて経済連携や安全保障関連の二国間業務に従事。2009年、領事局にて定住外国人との協働政策や訪日観光客を含むインバウンド政策を担当し、訪日ビザの要件緩和、医療ツーリズムなど外国人観光客誘致に関する制度設計に携わる。2012年、自治体国際課協会(CLAIR)に出向し、多文化共生部長、JET事業部長を歴任。2014年以降、外務省国際文化協力室長としてUNESCO業務全般を担当。「世界文化遺産」「世界自然遺産」「世界無形文化遺産」など様々な遺産の登録に携わる。2018年10月より現職。2019年、観光庁最先端観光コンテンツ インキュベーター事業専属有識者。





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