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多言語化では「誰に何を伝えたいのか」というターゲット設定が大事 (1/3)

インバウンドの高まりや外国人労働者の受け入れ拡大を受け、日本の企業や自治体は今、様々な分野で新たな対応に迫られている。その筆頭に挙げられるのが、情報やコンテンツの多言語化対応だ。

しかし現状は、日本語をそのまま直訳するケースが大半を占め、外国人利用者からは「わかりにくい」との声も聞かれる。多言語による適切な情報発信のためには、どのような視点が必要なのか。

外国人向けのシティガイド「タイムアウト東京」を発行し、インバウンドに特化した「世界目線コンサルティング」に取り組むORIGINAL Inc.の東谷彰子と高橋政司に、現状の課題と改善すべきポイントについて話を聞いた。

―― 近年、自治体や企業のウェブサイトや観光情報の多言語化ニーズはかつてないほど高まっていると言います。ORIGINAL Inc.にも、そのような依頼は増えているのでしょうか?

東谷 多言語化に関する相談は2015年ごろから寄せられ始め、年々増加しています。当社は英訳の案件が多いのですが、2018年は年間で200件程度の問い合わせがありました。

高橋 主に宿泊や小売、交通など観光関連企業の方々や、自治体からの相談が多いですね。

東谷 依頼内容は大きく2つのパターンがあり、サービスの魅力や情報を外国人に的確に伝えるためコンテンツを新たに多言語化したいというものと、既存の多言語サイトを外国人目線でレビューした上で再構築してほしいというものがあります。

高橋 自社メディアや企業サイトを多言語対応したものの、外国人ユーザーから「わかりにくい」と指摘を受け困っている、という声も増えています。

―― 具体的には、どのような点が「わかりにくい」と指摘されているのでしょうか?

東谷 「わかりにくい」と言われるのは、既存の和文テキストを自動翻訳したり、ワード・バイ・ワードで直訳しているケースに多いですね。

高橋 日本語は主語や代名詞が省かれることが多く、あいまいな表現が多い言語です。日本人にとっては自然な文章も、そのまま訳しただけでは、具体的な表現を好む英語を母語とする人々にとって非常にわかりにくい文章になってしまうんです。

東谷 例えば、観光地のパンフレットには「心のふるさと」という表現をよく見かけますよね。そのまま直訳すれば「your home city」ですが、外国人にとって縁もゆかりもない外国の都市を「心のふるさと」と説明されても、彼らには伝わりません。文脈やストーリーを正確に伝えるためには、翻訳対象となる言語の構造や文化的背景をそれぞれ考慮することが重要なんです。

高橋 ここが多言語化の難しいところで、「外国語」として一括りにルール化することができない。例えば「ソウルフード」についての文章を多言語化する場合を考えてみてください。日本人であれば、日常的に食べている「お味噌汁」や「おにぎり」などを思い浮かべるでしょう。ところがアメリカ人にとって、ソウルフードは「アフリカンアメリカンの伝統的な家庭料理」と考えるのが一般的です。一方、中国人であれば「クラシックコンフォートな料理」などと答えるでしょう。日本人が考えるソウルフードとは、それぞれ言葉の持つ意味が全く異なるんですね。

東谷 だから「お味噌汁は日本のソウルフードの一つ」という和文をそのまま訳してしまうと、意味が通じないばかりか、誤解を生む可能性も高い。

高橋 ソウルフードに限らず、各言語で意味が異なる言葉はたくさんあります。同じ英語でさえ、イギリス英語とアメリカ英語、オーストラリア英語でそれぞれニュアンスが異なるケースもあります。つまり、伝える相手によって、フレーズやセンテンスを繊細に変えていく必要があるんです。

東谷 そうですね。世界最大級の旅行サイト「トリップアドバイザー」の調査でも、日本の観光スポットの人気ランキングは英・米・豪でかなり違っていて驚いたことがあります。だからこそ、多言語化では「誰に何を伝えたいのか」というターゲット設定が重要なのです。


東谷彰子
ORIGINAL Inc. 取締役副社長
タイムアウト東京副代表、OPEN TOKYO編集長
幼少期はマニラで、中学高校はバンコクで過ごす。1996年に帰国し、早稲田大学教育学部英語英文学科に入学。卒業後はTOKYO FMに入社。1年間の秘書部勤務を経て、ディレクターとして多様なジャンルの番組制作を担当。2010年1月、ORIGINAL Inc.入社。タイムアウト東京コンテンツディレクターとして、取材、執筆、編集、企画営業、PRなど幅広い分野で活躍。国内外にアーティストから学者、スポーツ選手まで幅広いグローバルなネットワークを持つ。企業や省庁、自治体向けの高品質な多言語対応は高い評価を得ている。
高橋政司
ORIGINAL Inc. 執行役員 シニアコンサルタント
1989年 外務省入省。パプアニューギニア、ドイツ連邦共和国などの日本大使館、総領事館において、主に日本を海外に紹介する文化・広報、日系企業支援などを担当。2009年以降、定住外国人との協働政策や訪日観光客を含むインバウンド政策を担当し、訪日ビザの要件緩和、医療ツーリズムなど外国人観光客誘致に関する制度設計に携わる。2014年以降、UNESCO業務を担当。「世界文化遺産」「世界自然遺産」「世界無形文化遺産」など様々な遺産の登録に携わる。
テキスト:庄司里紗



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