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書評#10)賃金とは何か-戦後日本の人事・賃金制度-

ご無沙汰しております。およそ4か月ぶりとなりますが、今回ご紹介する本はこちら。(本当は旧年内に投稿する予定でしたが時間の都合上できませんでした)

ひょんなことから読むに至った本ですが、非常に勉強になりましたし、本の構成もインタビュー形式になっており、非常に読みやすかったです。

以下は、あくまで、私の主観に基づき、気になったポイントのみを抜粋して紹介します。ですので、事実と異なる点やわかりにくい点など、あるかもしれませんが、ご了承ください。一個人の意見として、参考になれば嬉しいです。

■きっかけ

この本を読むに至ったきっかけは、自分の勤務先企業の人事OBにお話しを伺ったことからです。人事や経営に関する知識も豊富で、体系的に人事を語られていることに非常に感動したことを今でも覚えています。その時、ご紹介いただいた書籍が本書でした。

また、今、新型コロナウイルスの影響もあり、働き方や生き方が著しく変化する中、人事制度の見直しを迫られている企業も多くあると思っています。そんな状況下だからこそ、現状日本の多くの企業で取り入れている『職能資格制度』ってそもそも何なのか、生みの親でもある楠田丘さんから学んでみようと思いました。(楠田さんを知ったのもOBの話を聞いた時ということは内緒です。。。)

■労働力対価としての賃金(=人間基準の賃金)

楠田さんの賃金論に一貫して言えるのが、常に人間基準に立脚をしていることです。対して言われるのは、仕事基準の労働対価としての賃金であり、これが職務給

なぜ、そこまで人間基準にこだわるのか。楠田さんは、『日本の風土に合わない』といっていますが、要は、三種の神器(終身雇用、年功賃金、退職金制度)が浸透している日本では、外部労働市場がほぼ皆無であるため、です。採用についても、もちろん、欧米が仕事人採用であるのに対し、日本は社員採用。その時点で、一足飛びに職務給を導入することはできないのです。

そこで、楠田さんは人間基準で、人の能力を評価する「職能給」という考え方を提唱します。人の能力を正しく評価するステップとしては、職務調査を実施し、それぞれの仕事がどのレベルの仕事なのかを把握する、そして、その仕事をどのレベルで達成できたかどうか、によって評価するという流れになります。一見、仕事基準になっているようにも見えますが、能力を「透明性」「公平性」「納得性」社員満足の構成要素by楠田さん)をもって評価するためには必要なステップなのです。

また、人間基準にこだわるエピソードの一つに、インドでの経験も本書には書かれています。そのまとめとして、以下の文がとても象徴的だと思ったのでご紹介します。

なぜその人が動かないのかの原因を究明することの方が私は大切だと思います。なぜその人の能力が低いかを究明することの方が先決だと。能力が低いなら教えてあげればいいじゃないですか。それをいきなり教えもしないで、あんたは能力がないから賃金を下げるよ、クビを切るよでは、その人の人生はどうなるんですかというのが、私の賃金論です。


■「偽」職能資格制度

職能資格制度を導入しているにもかかわらず、正しい運用がされておらず、結局、年齢や勤続年数などで、評価や昇格が決まっている企業も多くあると楠田さんは指摘しています。

楠田さんが職能資格制度を構築するにあたった背景の一つに、差別の排除があります。明治時代までの身分資格やその後の大正・昭和半ばまでのホワイトカラー、ブルーカラー、労職差別、戦後すぐは学歴・性別差別があり、職能資格制度を導入し、正しく運用されれば、優秀な人であればだれでも上位資格まで上がれるという考えが根底にあるはずなのです。

にもかかわらず、前述の職務調査や職能要件の明確化を怠っている場合、「偽」職能資格制度になってしまうのです。

この内容を読んで改めて、「人事制度が年功序列的になっているからジョブ型や成果主義を導入すべき」というのが、いかに本質的ではない意見なのかを知ることができました。

■現場から学ぶ

本論からそれますが、楠田さんは、本書の中で度々、以下の趣旨のコメントを残されています。

講演、セミナーで私は教えるよりもむしろ教えられる方が多いです。質問によって、教えられるんです。ああ、現場では今こういうことが問題になっているのかとね。

専門家として賃金の研究をしている方にもかかわらず、このように現場で働くものから学び続けようという姿勢を貫かれていた点は、本当に尊敬に値すると感じましたので、参考としてご紹介させていただきました。

■まとめ

他にも、『日本型成果主義』など学びになった内容は多くありますが、この辺で締めようと思います。今回、本書を読んで、自社の人事制度に対する理解が改めて深まったような気がします。

変化の激しい時代においては、現行の制度を安易に否定してしまいがちですが、本質的に何が問題なのか、を特定するために過去や歴史を学ぶことは大事だと、思いましたし、それに加えて、当時と現在の社会状況の違いを踏まえたうえで自分たちがどのような対応をしていくべきか考えないといけないと、感じた本でした(例えば、楠田さんは日本の社員採用を与件にしていますが、VUCA時代においては、本当にそれは与件でいいか考えないといけないですね)。

以上、淡白な文章になってしまいましたが、とてもおすすめ本です!笑

最後に、個人的に印象に残った内容を引用しご紹介させていただきます。

個人は(中略)会社に入ったら三五歳までに実力をしっかり身に付けていく。実践的な能力を実際に身に付けていく。会社はどんなに替わってもいい。会社を替えるなら三五歳までにどんどん替われ。三五歳を過ぎたらまり会社は変わるな。三五歳を過ぎたらあとは自分の責任。 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!!ご意見ご感想などあればコメントいただけると嬉しいです。


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