マガジンのカバー画像

140字小説 すぐ読めるお話集

57
運営しているクリエイター

#小説

笑い顔のピエロ

「このお話はとても楽しいよ。時には悲しいこともある。時には苦しいこともある。でも主人公はそんなことを乗り越えて、大きく成長していくんだ。主人公だって、人間らしい一面もある。そう、君達と同じなんだ。さあ、楽しい楽しい物語の世界へようこそ!」本当に楽しいのか? そう呟いて書き上げる。

心も体も浮ついて

あの女子はクラスでも浮いていた。女子同士の会話にうまく馴染めない。とは言え男子と仲良く出来るような子でもない。だから浮いていた。
物理的にも。
集団で浮いてるほど、物理的に浮いてしまうのだ。
そんな女子に声をかける。
「同じ委員、これからよろしく」
俺の足は地に着いていなかった。

枯れて折れたこころ

私は世間から「絶対に失敗しない」と言われている。幼い頃から試験は全て満点、トラブルも一切起こさない。初めての業界でも必ず成功する。なぜなら私は時間を巻き戻せるから。肉体は24歳だが、もうその数百倍は生きた。もういいかげん疲れた。だから私は時間を巻き戻して私が生まれなかったことにした

執着心

地味で辛い稽古を繰り返す。痛い、苦しいと脳が叫びまわって気が遠くなる。それでも続ける。負けたくないから。周りの奴らは俺を笑い、憐れむ。そんな思いをして何の役に立つのだと。理屈で考えればそうなんだろう。だけれどこの思いはもっと根っこのものだから。俺は誰よりも、俺に負けたくないんだ。

視野狭窄

俺がいないと部下達は何にも決められない。幹部連中も駄目だ。今の社会のニーズをわかってない。現場の連中もやる気がなくて怠けてばかり。もっとお客様につくせ。そんなんだからクレームが減らないんだ。
そんなことを家での夕食時にこぼした。
息子が口を開いた。
「お父さん、友達いなさそう」

淘汰圧

「その言葉はお前に向けたものではありません。その言葉を受けとるに相応しい人に向けたのです。お前のような底辺を這いつくばる人に向けたものではありません。社会を照らし私を幸せにしてくれる人に向けたものなのです」
「そんな言葉を見るととても悲しい気持ちになるよ」
「お前の意見は暴行です」

不幸自慢

私は人間を好きになったことがない。
親は虐待する。姉妹は蹴り飛ばす。友達だと思ってた奴は裏切る。教師はいじめに加担する。不良は危害を加える。通行人は見て見ぬフリをする。子供は我が儘を言う。老人は説教をする。男は腕力に訴える。女は精神を壊す。
だからこそ私は人間を好きになってみたい。

震える残暑

停電して真っ暗な部屋。膝を抱えてベッドでうずくまる。スマホを開く。何度目かわからない。部屋がぼんやりと明るくなる。台風が過ぎるのは明日の昼頃らしい。風の圧力で窓が軋む。雨が聞いたことも無いような激しい音を立てて落下する。停電復旧目処経たず、の文字。残暑のはずなのに震える。ただ独り

美人の条件

「美人は三日で飽きるって言葉、聞いたことあるか」
旦那が聞いてきた。もちろんと返す。
「あれはな、美人とか色男ってのは、顔のパーツが平均になってるからなんだ。特徴がねえんだよ」
何が言いたいのだ。
「つまりこうやってお前と長くいられるのも、お前が」
そこで私は台拭きを投げ付けた。

相思相愛その相違

「君のことを愛している」
「貴方のことを愛しているわ」
「嬉しいよ」
「私も」
「じゃあ、結婚しよう」
「ええ、心中しましょう」
「え」
「え」
「僕たちこれからじゃないか」
「私たちはこれまでよ」
「どんな困難でも二人なら越えられるじゃないか」
「ええ死すら私たちを分かつことは叶わない」

ものの見方

「私綺麗?」
顔を覆う大きなマスクをした女が男に尋ねる。
「美しさなんて所詮頭に植え付けられた価値観の上で揺蕩う幻覚だ」
「じゃあ私は?」
マスクを取ると口が裂けていた。
「浅ましい」
女が刃物を取り出す。
「他人に評価を委ねるその姿勢のことだ。俺と来い。お前の美しさを見出してやる」

共依存

私は生まれで負けた。両親は離婚寸前、仕方なく一緒に暮らす家庭は最悪だった。私は容姿で負けた。学校では容姿を理由にいじめられた。私は進学で負けた。本命の入試当日事故に遭い、滑り止めに入学した。私は就職で負けた。勤めた先がブラック企業だった。だから私は、この人の気持ちに寄り添える。

煽り死に

「お前のせいだ」
「うるせえてめえがグチグチ言ってっから逃げ遅れたんだ」
「考え無しのお前が悪い」
「いつまでもうるせえ。いいから黙れよ」
「言われなくても……もう、口が動かない……」
「あ?クソ。死んじまいやがった。まあ……俺も、そろそろだ。最後は惨めな言葉がいい。クソッタレ、だ」

妖怪の間に挟まる子供達

「見越し入道だ!見上げると大きくなって殺されるぞ!」
「反対にもなんかいる!」
「八尺様だ!240cmある女の妖怪だ!僕たちのような子供を連れ去る!」
「見越し入道が大きくなったり小さくなったりしてる!」
「そうか!僕たちが見上げて八尺様が見下ろしてるから見越し入道は混乱しているんだ!」