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A confession and new threat ②

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 屋敷の前に車が停まった。久しぶりの来客であった。車から降りてきた男と女を迎えようとロビンは作業を止めた。彼はちょうど納屋の馬に餌をやっていたのだった。ここに来て彼の新たな楽しみとなったのが、馬達の世話だった。彼らは美しく、人間の持つ悪意、敵意というものを持っていなかった。それが数ヶ月前の戦いで疲弊した彼を慰めた。ロビンは分かっていた。いずれまた新たな敵が街に現れるであろうと。街は新たに有能で正義感にあふれた男、ハービー・デントを検事長として迎えていた。彼は他の街で犯罪の撲滅に大きな成果をあげ、ゴッサムシティに新たな秩序をもたらすと期待されていた。光の時代だ。正義が全ての人を守り、悪に鉄槌を下す。就任式での彼の演説は戦いで傷ついた街の人々に希望を与えた。街は安全になるだろう。しばらくの間は。しかしやはりまた覆面のヒーローが必要になる。ロビンはブルースと一緒に活動する内に理解するようななった。悪は消えず、平和が訪れ、それが間延びしてきた時に姿を表すと。彼もまたブルースと一緒に戦い、悪の顔を見た。ペンギン、スケアクロウ、リドラー。彼らと対峙した時、ロビンは初めて恐怖を感じた。彼らはかつてない敵で容赦無く人々を殺し、街を混沌に陥らせた。そうあの絶望感。もしバットマンがいなければどうなっていただろうか。そしてもしまた彼らのような悪が現れた時は。彼はブルースをずっと見てきた。そしてある考えが彼の頭の中に現れ始めた。もし次の戦いがあるとしても、もうブルースは戦えないだろうと。それは肉体的なものだけでなく精神的なせいでもある。あの戦いの最中ブルース/バットマンは何か大きな目に見えない傷を覆った。今までいくつもの戦いを彼と経験してきたが、あの時のような状態のブルースを彼は見たことがなかった。それは羽を毟り取られた蝙蝠が、昼の灯の中に引っ張り出された様子を思い起こさせた。まるで生まれてすぐ死に向かうような赤子のようなブルースの姿を見て、ロビンは何も言えなかった。あの戦いの中で実際に何があったのか。そしてもし次に戦う場面ができた時、ロビンは自分一人でそれに立ち向かうことができるのか。彼は馬にまたがって敷地内を走りながら自分の進むべき道をひたすら考え続けた。自分は新たに、闇の騎士、ゴッサムシティの守護神となる覚悟があるのかと。

 車から降りたゴードンは、その荘厳な屋敷の佇まいに圧倒された。確かにそれはかつての栄華をとどめているとは言えなかったが、そこにはある種の強さというものがあった。隣に立った娘のバーバラも同じことを考えているようだった。「ねえ、ここ凄いわね」バーバラは無邪気にそう言う。ゴードンは旧友のブルースやアルフレッドに会いに久しぶりに街を出てきたのだった。彼らはこの前の街の混乱の後、街を離れたとのことだった。バットマンが姿を消したため、街にいるのが怖くなったのだと噂する人々もいた。彼らは自分の財産を失うのが怖いんだと市民は言っていた。実際に戦いの後、バットマンは何も言わず街から姿を消し、そのため街の金持ちたちの多くが守護者の居なくなったゴッサムシティから出ていった。しかし数ヶ月前、ハービー・デントが新たに検事になり、街の警察システムが一新されてからは、また街に戻り始める者達もいた。ゴードンはいまいちデントのことが好きになれなかったが、その成果を認めてもいた。街の秩序は徐々に回復しつつあり、犯罪率は激減した。もはやここでは犯罪はできねえやと言う声も聞かれた。人々の間ではかつてのペンギン達の記憶は薄れ始めていた。それでもとゴードンは思う。今でも奴らの大半は、アーカム精神病院にいる。気を抜くことはできないのだ。それに新たな悪の芽はどこにでもある。例えそれが目に見えなくても。

 ゴードンとバットマンはずっと共に戦ってきた。数年前からは名前の分からないもう一人の若い子分のヒーローも時期連れて、三人で悪と戦ってきた。よく彼の同僚がゴードンに尋ねた。バットマンの正体を知っているのかと。その度彼は答えた。バットマンは人ではなく、概念なのだと。その正体は知る必要はないと。相手はつまらなそうに頷きながらも、時折バットマンの正体について聞いてきた。もちろんゴードンも気にならないことはなかったが、彼には自分の身を投げ打ってまで街を救おうとする人間がいるということはなかなか信じがたいことだった。ハービー・デントが来るまでは街は腐敗に溢れていた。そんな中において自分よりも強い正義感を持つものがいるのだろうか。彼はたまに想像したことがある。例えば友人のブルース・ウェインがバットマンだとしたら。彼はその資格があるように思える。慈善事業に投資を惜しまないし、金の亡者でもない。しかし実際戦うとなるとどうだろう。体格はいいだろうが彼が人を殴る姿など全く想像できなかった。それに夜は派手なパーティを開いていたりする。結局ブルースはお金持ちな良い人にすぎないのだった。だったら一体誰がバットマンなのだろうか。その疑問は彼の心の奥深くにずっとある。

 屋敷から出てきたのは若い男だった。乗馬様のブーツとズボンを履き、爽やかな笑顔を見せながら彼は歩いてきた。

「ようこそ、ゴードン警部長」二人は握手した。
「えーっと、君は?」
「紹介遅れましたね。僕はロビンと言います。少し前からここでブルース様の手伝いをしています」と言うことはブルースは何か新しいことでも考えているのだろうか。いずれにしても彼は、目の前の笑顔を浮かべるロビンと言う若者に親近感を持った。
「それでこちらは?」ロビンはそう言ってバーバラの方を見た。
「彼女は私の娘でバーバラという。今は大学の休みに入ったばかりだから、田舎の空気を吸うのも良いかな思って連れてきたんだ」
「始めましてロビン。素敵なお家ね」バーバラは悪戯っぽくロビンい微笑んだ。
「うん。良い家だねね。まあここはブルースさんの家だけど」
「それで」ゴードンは言う。「ブルースとアルフレッドは元気かな?」

 ロビンは一瞬何か言おうとしたがすぐに口を閉じた。ゴードンはそれを少し不振に思った。ロビンは少し目を逸らしながら答えた。

「それが、ブルース様はあまり健康がよろしくないのです。その何か病気になったみたいで。もちろんこの前の出来事も関係があるでしょうが。彼は街の出来事に大きなショックを受けたんです」

 ゴードンはそれを聞きながら考えていた。確かにブルースにはショックだっただろう。会社の従業員が何人も殺されたし、本社のビルはペンギンとリドラー達の攻撃の標的となって、崩壊に近い状態になったことは散々ニュースで報じられてきた。またゴッサムシティの自宅も標的にされ、たくさんの財産が奪われたと聞いている。それもあって街を出たのだろう。ただ健康面でも問題が起きたとなると心配で仕方がない。

「それは本当に気の毒ですね。友としてずっとここを訪れることができず申し訳ない。何せこちらも色々とあって」
「分かりますよ。今は変化の時です。幸いブルースさんのそばにはアルフレッドも僕もいますし。ぜひ色々街のことを聞かせてください」そう言いながらこの気さくな若者は彼らを家の中へ案内した。「もう少ししたら、ブルースさんとアルフレッドが散歩から帰ってきます。最近はブルースさんも調子が良くなって、よく外で過ごされるんですよ」

 そうして三人は大きな屋敷の居間に入っていった。

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