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A confession and new threat ①

 このストーリーに出てくる登場人物、固有名詞は全てDCコミックの作品内に出てくる物に基づいている。

✴︎登場人物

・ ブルース・ウェイン/バットマン ゴッサムシティの億万長者。 

夜は蝙蝠のスーツを着て自警団として街の犯罪と闘う。強い正義感から悪人でも命を奪わない

・アルフレッド ブルースの執事

・ロビン ブルースの助手の若者。彼と共に自警団として行動する

・ゴードン ゴッサムシティ市警本部長。バットマンと協力して、犯罪と戦う。バットマンの正体がブルースとは知らない。

・バーバラ ゴードンの娘。コンピュータの天才

・ハービー・デント ゴッサムシティの検事長

(悪役たち)
・セリーナ・カイル/キャットウーマン 黒い衣装に身を纏ったスリの天才。普段は様々な職業についている

・デスストローク もと米軍の兵士、傭兵。非合法の実験により常人を超えた力を得るが家族を失う。以後あらゆる犯罪と戦うようになる。

・ジョーカー 正体不明の犯罪者。ピエロがトレードマーク


プロローグ

 ブルース・ウェインがバットマンとして活動し始め二十年が経とうとしていた。その時彼の前に三人の新たな敵が現れた。街の支配権を得るためギャング、マフィアを手下として集め、危険な爆弾を手に入れて大量の殺戮を試みるペンギン。バットマンによって自身の犯罪が暴かれ、職を失った元ゴッサム大学精神科の教授スケアクロウ。超人的な頭脳でバットマンの正体を明かすことに執着するリドラー。激しい戦闘と多くの犠牲者を出しながらもバットマンは街を救った。ペンギンとスケアクロウは逮捕されアーカム精神病院に送られ、リドラーは命を落とした。ブルース・ウェイン/バットマンは勝利したものの肉体的、精神的に大きな傷を覆い、街から離れた田舎の屋敷に引き篭もった。話は彼が街を出て半年を経たところから始まる。


1 

 冬の氷は溶け、夏はゆっくりと世界に訪れた。朝の光が草木の隙間を通り抜け、水面の上でダンスをする。虫たちは皇帝のように振る舞う。世界が自分たちの物だと言うように。蝙蝠たちは薄暗い洞穴の中でウトウトしている。彼らの時間はまだ来ていない。

 ブルースは一人、敷地内のはずれにある池の前に佇んでいた。この街から離れた広大な屋敷は戦後の時期にある政治家の別荘として建てられたものであった。夏の間を通して開かれた数々の催し、伝説と化したパーティー、秘密の会合、いくつかの血生臭い事件、一夜限りの情事、秘密結社の集会、そして入っては出ていく無数の人々。名声と権力。富と壊れた愛。輝かしい美術品。それらすべてがそこにあり、消えていった。屋敷は八十年から九十年代にかけて繁栄を極めた。その後に訪れる冷戦の終わりと社会情勢の変化によって、次第にこの場所は使われなくなり、数年前に彼が買い取った時、屋敷はすっかりと色あせていた。彼はその後多額の費用を注ぎ込んでこの場所に手を入れたが、以前の華やかさを取り戻すことはなかった。それでも街から離れ、自然に囲まれたこの場所は、彼が必要としていたものだった。それは傷ついた男のための場所。ここでブルースは何をする必要もなかった。来客はなく、話し相手はアルフレッドと、ロビンを除けばいなかった。彼はここで自然の声を聞いた。それは絶えず空間に一定のリズムを与えている。春から蜜を求めて飛び回る蜂のブーンという音に彼は心を癒された。それは彼が長らく耳を傾けることのなかったものだった。

 半年前、雪の降る極寒の大都会、ゴッサムシティで彼は戦った。黒色のケープを着て、闇の騎士として。彼は街を壊滅から救った。多少の悪党は今でもいるだろうが、大きな敵はいなくなった。人々は救われた。新聞やニュースはヒーローの活躍を大体的に報じた。

 ブルースはそれを喜んだのか。それは違う。彼は疲れていた。戦いの直後、体には無数の傷を覆い、動くことができなかった。最後のあの一撃。三人の敵との戦いの後、彼は意識を失った。そして気がついた時は、アルフレッド達によってこの場所に運ばれていた。療養の日々はゆっくりと過ぎっていった。そして五ヶ月の時期を経て、彼はまたゆっくりとだが動けるようになった。屋敷の庭を歩き回るようになったのもこの頃からだった。もっとも庭というよりもそこは森といった方が正しいだろう。彼は毎日膨大な時間をその中で過ごした。アルフレッドやロビンもついてくることはあるが、大抵は一人だった。そう彼は一人でいることが好きなのだ。それは幼い頃両親を殺されて以降ずっとそうである。今年五十歳を迎えようとしている男は、街のヒーローで、伝説となった。今彼は、腰をかがめ、水面を漂う草に手を伸ばす。ピリッと冷たい水が、彼に生きているという実感を与える。そう彼は生きている。街の状況は分からないが(彼はもう何ヶ月もニュースや新聞を見ていない)、少なくとも冬を超え、この場所と同じように夏がやってきたはずだ。人々のあの出来事に対する記憶も少しずつ薄れてきているだろう。何せどんな大きな出来事も、日常には勝てないからだ。毎日を生きること。それは最大の治療薬だとある医者が言ったことがある。それは多くの人々にとってはあてはまるだろう。しかしまた、消えない痛み、古くなった傷跡というのも誰もが持つものだ。

 木の影からアルフレッドは、水の中に手を入れているブルースを見ていた。彼はブルースが徐々に回復していくことが嬉しかった。彼の家に勤めて長い年月が経とうとしていた。アルフレッドは、ブルースの父親の執事を務めてから以降、ずっとウェイン家を離れなかった。父親と母親が殺されて以降はブルースの父親代わりとなってブルースを支えてきた。彼は全てを見てきた。初めてブルースが、ケープを着て、街のために戦い始めた時も、そして彼が闇の騎士となってからも、いつも彼を見守ってきた。危機はたくさんあった。彼は何度も辞めるように言った。悪は次々と生まれてくる。あなたはもう街に十分尽くした。これ以上続ける必要はないと。しかし同時に街を救えるのは彼しかいないということも分かっていた。ゴッサムシティの警察、政治家たちは腐敗し、市民の生活は常に危機にさらされていた。そして現れた巨大な敵たち。ペンギン、スケアクロウ、リドラー。この戦いは避けることはできなかった。それでもとアルフレッドは考える。もしもっと前に辞めさせていたらと。昏睡状態でブルースが倒れているのを見た時、アルフレッドは何も考えられなかった。彼の両親に続き、ブルースまでもが死ぬのを見るということは、アルフレッド自身の敗北であった。彼は全ての手を尽くし彼をここへ連れてきて、看病した。その期間の間、彼は何度も自分に言い聞かせた。ブルースが回復した後は、二度とケープを着させないと。バットマンにその活動を終えさせるのは自分の役目だと。こうして今遠くからブルースを見つめている。ブルースの今の姿は疲れ果てた老人のようだった。自分の方が二十歳以上も年上なのに、ブルースはとてつもなく老いて見えた。そして傷ついていた。アルフレッドはしばらくの間木の影に佇んでいた。昼の静寂が辺りを支配していた。アルフレッドもまた夏の気配を存分に味わった。そしてこのままこれが続けばいいと思った。そうしてしばらくの間時間がゆっくりと進み、彼は昼食ができたと言うため、ブルースの方へ足を進めた。

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