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拙い文ではございますが、懸命に紡いでます。孵るのを優しく温かくお見守りくださると幸いです。
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小編 『泡』④

小編 『泡』④

 なにが悪かったんだろう。わからない。どこに行きたかったんだろう。わからない。どうなりたかったんだろう。…わからない。恋人は去った。
 家に荷物を取りに来た日、「今だって──」「電話──」「──ったから」と別れる理由を滔々と話していた、はず。わからない。わからない。わからない。
 わからないは、どうでもいい。と一緒だ。
 …どうでもよかったのかな。わからない。

 今日は最高気温39度の超猛暑日ら

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小編 「泡。」①

小編 「泡。」①

 たばこを吸うその人の、肩に向かって柔らかな黒い髪はまっすぐ伸びきるかと思うと、肩に着地寸前にぷわぷわっ、と少しウェーブ掛かる。こちらを少しからかうような、その少しいじわるな髪を、二人掛けのソファに座りながら指を通すのが好きだった。

 初めて見たのは、しながわ水族館の「クラゲたちの世界」て名のクラゲの展示スペースでだった。閉館寸前の16時55分、まだそこに立ってミズクラゲを眺めている。ポピュラー

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小編 『泡。』②

小編 『泡。』②

 あ、と目をそらす。そっと視線を向けると、もういなかった。
 変に思われただろうか。どうにもならないことをぼーっと考えてると、別のコーナーで魚を眺めていた恋人が遅れて横に並ぶ。
 「帰ろっか」と言う微笑みに、
 「そうしよっか」と返す。

 次に会ったのは、ペタペタとサンダルを鳴らしコンビニから帰ってる途中だった。スイカバーをシャクシャクと食べながらLINEを返していると、溶けた緑の部分が足の指に

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小編 『泡。』③

小編 『泡。』③

 「わ!……あ」前を見ると半袖の黒いシャツについた赤い粒が目に入る。
 「ごめんなさい」拭くものを探そうとするが、何も持ってないことに気づく。
 もたもたしていると、すっと長い手が背中側に伸びてきて指先で赤を拭うと、
 「あ。これくらい平気ですよ」と声が聴こえる。
 水の中の空気だ、と思った。水の中の空気のように、しとやかに包む柔らかな声。
 「いや、でもあの、Tシャ」
 ツ。その声の主が振り返る

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