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小編 「泡。」①

 たばこを吸うその人の、肩に向かって柔らかな黒い髪はまっすぐ伸びきるかと思うと、肩に着地寸前にぷわぷわっ、と少しウェーブ掛かる。こちらを少しからかうような、その少しいじわるな髪を、二人掛けのソファに座りながら指を通すのが好きだった。

 初めて見たのは、しながわ水族館の「クラゲたちの世界」て名のクラゲの展示スペースでだった。閉館寸前の16時55分、まだそこに立ってミズクラゲを眺めている。ポピュラーでしかないそのクラゲの何が良くて観てるのか。なんだか不思議な人だなと思った。不気味だと思わなかったのは、綺麗な顔立ちと、手の甲まである黒のロンTから伸びた長い白い指にある、いくつかの華奢な金の指輪が品よく映ったからかもしれない。
 小指にある金色から弄っていた指を離すと、青がゆれる唇へと指は移る。その仕草に目を奪われていると、まっすぐ伸びた黒髪が揺れ、目が合う。

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