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♯3「お盆」の本当の意味、知ってる?

「幽霊っているの?」「運の正体とは?」などと思ったことは誰しもあるはず。そんな“目に見えないもの”にまつわる素朴な疑問や、仏教に関する知識を、SNS等で人気の僧侶、仁部(にべ)兄弟がゆるく解説。ふたりの掛け合いが楽しいインターネットラジオ「お寺ジオ」の配信内容をベースに、加筆・再構成してお届けします。

お盆は「ご先祖さまが帰ってくる」と日本中が思っている、特別な期間

●兄・前誠 埼玉県にある上原寺(じょうげんじ)の副住職兄弟ふたりで、お坊さんならではのディープな話題をお届けしていきます。私が兄の仁部前誠(ぜんじょう)です。

○弟・前叶 弟の前叶(ぜんきょう)です。よろしくお願いします。8月になりましたが、皆さんはどういうお盆を過ごされるでしょうか。

●前誠 2年前、コロナ禍で初めてのお盆のとき、私が率直に感じたのは、そういう時でも「お盆はちゃんとやろう」という人が多かったということ。

○前叶 不思議なもので、誰もその光景を見たことはないのに「お盆だけはご先祖さまが帰ってくる」と思って、日本中がお盆の数日間を過ごしている。それって、すごいことだよね。

●前誠 すごいことだよなあ。

○前叶 ご先祖さまもそうだけど、キュウリとナスが一年で一番輝く期間でもあるからね(笑)。

●前誠 そうだね(笑)。「じゃあそもそもお盆とは?」を簡単に説明すると、私が奉職している日蓮宗宗務院(日蓮宗の行政機関)のリーフレットに、こんな風に書かれています。

「お盆といえば、迎え火や送り火を焚きます。ご先祖さまをねんごろにご供養する期間です。由来としては、目連尊者(もくれんそんじゃ:お釈迦さまのお弟子さん)が亡き母を救うため、僧侶の修行期間が終わる時期、7月15日にご供養することによって、母親が餓鬼界の苦しみから逃れることができた」

餓鬼界の苦しみとは、欲望が満たされない苦しみのことです。

「ご先祖さまの精霊をお迎えするため、精霊棚(しょうりょうだな)を設けます。遠くから来るお客様をもてなすように、果実やお菓子、ご馳走をお供えします。僧侶が各家を訪れ、精霊棚の前でお経を唱える『棚経』(たなぎょう)を行う寺院もあります」

○前叶 期間としては7月13日~16日。地域によって月遅れや10日遅れなど、様々あります。

●前誠 お盆休みというと8月のイメージだけど、そもそもは7月だった。

○前叶 古代のお坊さんはもともと、各地を歩き回って修行していたのだけど、その7月の頃は雨季で出歩かない。理由は単純で、泥水の上を歩くと、そこに潜んでいる虫を殺生してしまうから。

●前誠 不要な殺生をしてしまう。

○前叶 そうそう。それで「雨季」に3カ月くらい、1カ所に定住して、経典の学習や瞑想などの修行を積んだりする。このことを雨安居(うあんご)というけど、この雨安居の期間に積まれる功徳(くどく)がとてつもないと言われているんだよね。

●前誠 ほう。

○前叶 雨安居を経た後、そのお坊さんたちは外に出てくるわけだけど、そのありがたい功徳を積んでいるお坊さんへご飯や衣など布施のご供養をすることで、その功徳を振り向けてもらえる。それが亡き人を救っていく。
ざっくり言えばそういう仕組みになっています。

縁ある人すべてへの供養が、功徳につながる

●前誠 お盆については、こんな質問もありました。
「いつもお盆には棚経で、お坊さんに自宅まで来てもらっているのですが、だとすると、お寺には行かなくてもいいのでしょうか?」

○前叶 お坊さんが家に来てくれるのだから、あらためてお盆にお寺に行かなくてもいいのではと。おっしゃる通りです(笑)。

●前誠 「棚経に来てもらう」というのは、どういうことなのかな。

○前叶 ざっくりいうと、お坊さんがお盆に檀家のご自宅へ伺って、お経をあげることが「棚経」。その家の誰々さんとか一家一門、六親九族全部のご先祖さまへのご供養だよね。
じゃあそれとは別に、お寺に何をしに行くのか。それぞれ、自分の家族親族のご供養に行くわけだけど、ひいてはそこに縁のある、同席している皆のご先祖さまの分まで供養しますよということ。
反対からいうと、自分の家族・親族に固執してしまうのは、発想が「餓鬼」と一緒なんだよね。

●前誠 なるほど。

○前叶 先述の目連尊者は、お母さんを助けようとしたし、一方のお母さんも「我が子を」と思っていた。そんな風に、個々に固執してしまうのは「餓鬼」に直結してしまう。
だからこそ、お寺に来ていただいた際には、自分の親族だけでなくて、そこに縁のあるすべてに対して供養していく。その功徳が回っていくことを「回向」(えこう)と言うわけなんです。
ちなみに、日本人がそれぞれ45代くらい遡ると、誰かしらとつながりのある親族になれるという話があります。

●前誠 人類みな兄弟説(笑)。自分の縁やルーツを見直す、という意味では、たまには立ち止まって、ご先祖さまと向き合ったり、振り返ってみる時間も大切だと思います。
心の状態がフラットになるというか。また明日から頑張ろうという風になる。それが先祖供養で大事なところだと思うんです。

○前叶 そうだね。

●前誠 お盆は「お皿を分ける」と書きますね。ぜひ、「みんなで一緒に“分かち合う”という気持ちを養う期間」として、お盆をお過ごしください。

○前叶 合掌。

仁部 前誠(にべ・ぜんじょう)
1988年埼玉県生まれ。立正大学仏教学部宗学科卒業。妙見山上原寺副住職。2012年より日蓮宗宗務院に奉職。2016年、日蓮宗加行所初行成満。2020年よりRadiotalkにて、弟の前叶氏とともに「midnight temple radio お寺ジオ」を配信。僧侶としてのモットーは、「法華経の話はほとんどしませんが、すべては法華経の話です」。 最近では、『あなたは尊い 残念な世界を肯定する8つの物語』(漫画・やじまけんじ/監修・佐渡島庸平×日蓮宗/徳間書店)制作プロジェクトに参加した。
https://twitter.com/nibe_zenjo

仁部 前叶(にべ・ぜんきょう)
1991年埼玉県生まれ。立正大学仏教学部宗学科卒業。妙見山上原寺副住職。さいたま浦和地区保護司。2015年、日蓮宗加行所初行成満。2020年、仏教死生観研究会「死の体験旅行」講師を務める。同年、上原寺別院「祈誓結社」を設立。”ほとけ様との架け橋“であることを目指し、命の強さと有り難さについて伝えるべく活動している。
https://twitter.com/6SYAKU_HOUSHI