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『ま夏。八月十九日。入院準備中』

せっせと、八月二十一日の入院の準備を進めている。
昨年の経験から、いるものといらないものの正しい選別ができる。折しもまったく同じ季節なのだ。ま夏だ。

長ズボンはいらない。病院内は暑かった。レンタルのタオル、部屋着セットもいらない、持参してゆけばいい。ハーフパンツと七分袖のシャツがいちばん過ごしやすい。ま夏はとにかく速乾性重視でいいだろう。髪は坊主頭。靴はいらない。靴下もいらない。踵付きのサンダルでいい、入院中にも色々検査がある、金属のついた服は着替えなければならない、ファスナーも駄目だ。

テレビは見ない、パソコンで事足りる。歯磨き粉、歯ブラシ、フロス、うがい薬。そして、昨年にはなかった常用している薬、これには許可がいる。私は許可された。パキシル、エチゾラム、プラムペキソール、リボトリール、ブロチゾラムの五錠だ。不安神経症とむずむず脚症候群と睡眠薬を服用する。USB付電源タップ。耳栓。イヤホン。スマホ。クレジットカード。マイナカード。髭剃り。リフレッシュシート。

Wi-Fiもとんでいる、暇つぶしはパソコンでいいだろう。スマホでラジコも聴ける。そして、老眼鏡。バッグは、バイクの荷台用のリュックサックと肩掛けの布カバンでいいだろう。一週間なのでコインランドリーの世話にはならない陣容で固めた。当初予定されていた肝臓手術であれば、一回はコインランドリーを使っていただろう。潰せるものは、ジップロックでぎゅうううっと小さくして持ってゆく。

パンツは余計に持ってゆこう。私の尻を、もう、私は信じきれない。深刻な尻不信に陥っている。もともと、尻は弱いほうだった。抗がん剤治療によってさらに弱くなった。赤ん坊よりは強いが、園児には負ける。抗がん剤治療を休止してから一月経ったというのに、ふとした瞬間に、漏らす。ソファーから立ち上がった瞬間に、くしゃみをしたときに、まだまだ大丈夫だろうと高を括って次のCMまでと思っていた際に、筋トレしている最中にも漏らすのだ。女性のがん患者ではなかなか言えないので、四十九歳の中年男が代表して言おう。

がんにならないのがいちばんだ。でも日本人の二人に一人ががんになる時代だ。自分に合った整腸剤を見つけておくと損はないだろう。とうぜん、私は整腸剤も持参してゆく。もともと、『腹弱』の方は抗がん剤治療で『腹下り』になりやすいと思うのだ。覚悟を決めて抗がん剤治療を受けてもらいたい。

歩いて15分の距離だ。忘れものがあったら病院を抜け出していつでも我が家に帰れる。


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