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ホラーとはなんなのか。不安と恐怖の関係とは?恐怖と笑いは紙一重?平山夢明「恐怖の構造」

昨日のnoteを書いていてホラーに救いを求める私の精神状態が心配になった私に、ちょうどよさそうな本があったので読んでみた。面白くてあっという間に読了。

本の概要

幻冬舎新書。平成30年発行。

作家平山夢明が考える恐怖の構造について話し言葉で書かれていて、精神科医春日武彦との対談もついている。学術的な研究についても触れられてられいるが、主に個人の経験や数々の名作映画、漫画や小説、自身の著作物などを例に取り、構造を解説している。

飲み屋に行ってこんなおっさんが近くに座っていたら、その日のお酒はめちゃくちゃ楽しいだろうなという感じの本。

恐怖と笑いの関係が面白い

平山夢明は五時に夢中に出演しているのを見ても面白いおじさんというイメージだけれど、トークショーなどでも怖い話をしていると笑いが湧くらしく、この本を読んでいた私も途中で何度か笑ってしまった。

物語がホラーになるか笑いになるかは単純に火力の問題なんです

この持論がとても興味深い。怖い話も突き抜けてしまうと笑いに変わってしまうのだというのだけれど、そこまで突き抜け切れるには狂気を持ち合わせていなければ無理だし、それをエンタメの枠に落とし込めるだけの技術やコントロール力は正気を持ち合わせていなければできない。これが持って生まれた才能なのかなんなのか。このおじさんは簡単そうに面白そうに結構難しい事を言っている気がする。

例えば野性爆弾のくっきーのネタは怖くてゾワゾワするんだけど笑える。私は新喜劇のすちこにも狂気を感じるんだけど、昔すちこにハマってYouTubeを観あさっていた時にすちこの中の人、すっちーが昔やっていたスチ軍曹というネタを見た時には怖いのほうが勝ってしまいそのネタではまるで笑えなかった。くっきーも、もっと若い頃には見ていて怖いの方が強かったけど、近年はくっきーもすちこも、子供の人気者みたいだし私も面白いと思う。

この怖いと面白いの塩梅って時代性やちょっとした仕掛けでどちらにも転がるデリケートなものなのだと思う。くっきーは変なメイクとたるんだお腹を強調し、すっちーは軍曹のコスプレからおばさんのコスプレに着替える事によって笑えるキャラクターを手に入れる事に成功したのでは、つまり火力をむしろ下げる事によって面白さを増したと私は思っているのだが、平山夢明の作品の場合は確かにバーストした方が笑えるのである。個人差?

そもそも子供向けかそうでないか、居るフィールドがお笑いかホラーかでも違うのかも知れない。

不安が生む恐怖

この本では不確かなものへの恐怖について割と繰り返し触れられている。コロナ禍以前に出された本だが、今まさに起きているウィズコロナアフターコロナへの社会不安と重なるところもあり興味深かった。

不安だからこそ何度も確認してしまい自分で自分の不安を煽ってしまう。不確かなものへの不安は確かなものが欲しいという願望をうみ、その欲望は人をデマや陰謀論に飛びつかせたり、疑心暗鬼にさせ他者を非難したりする。

ある程度のスピード感があれば置き去りに出来るような感情もスピードが落ちると置いて行けなくなって、普段はよく見えないものをじっくり見てしまい不安になる、みたいな話もあったり。普段やっていた事が出来なくなったり可処分時間が増えると余計な事まで考えてしまう。人間ってそんなものなのかも知れないと思えば少し気が楽になる。

平時というのはつくづく平和だったんだなと思いつつ、リアルホラーだかコメディだかサスペンスみたいな経験も悪くないかもと思ったり。

サスペンスといえば

私はホラーとサスペンスとスリラーの違いがよくわからず、そんな作品の中にも笑っちゃうシーンがあるのも不思議だったのだけれど、物語の構造を解説したこの本を読んだらだいぶ頭の整理になった。

その手の映画のレビューをアマプラで見ると、どぎつい描写に腹を立てたり気持ち悪いと言って低評価を付けている人達が少なからず存在するが、怖いとかキモいとか文句言いながらも何で最後まで見てレビューまで書いちゃうのか不思議だった。でもこの本を読んだら何となくわかる気がしてきた。

なんか気になってそういうの見ちゃうけど腹立つ!みたいな人は、この本を読めば自分の心理がわかるかも知れません。

私は映画の解説が気になって、それそんな映画だっけ?も一回見てみようかなとか思ったのがちらほら。恐怖の構造や色んなみかた、文化の味わい方も色々あって、楽しいと思う。


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