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日本語本翻訳システムが欲しい

日曜日の朝、僕はD官山のスタバでコーヒーを飲みながら創作ノートのページに文字を埋めていた。
ペンで文字を書くなんて、現代社会においては古めかしいスタイルであるが、僕にはこれがあっている。
考えていることを上手にまとめられる気がするのだ。
このようにしてノートに向かい、ペンを走らせてもう何年たつのだろうか。
それこそ学生時代から小説めいた作品を書き上げてはSNS上で発表している。
これで収入が得られれば理想なのだが、そう現実は甘くない。
だが、こうやって僕の手で文字を生み出し、ノートのページを埋めていく。
その行為に、たのしみを感じるのだから、これはこれでいいのだろう。
僕が今ここで、どのような内容を、どのよう文字でノートに書いているかなんて、気にする人は誰もいない。
だから周りに人が沢山いても、創作活動に集中できる。
日曜の朝は、この場所でいつも、自己満足の世界に浸るのだ。
 
ふとペンが止まる。
耳に心地よいジャズが流れ込んでくる。
それと共に、隣のテーブルに座るシニアの男女の会話も入ってきた。
夫婦ではないようだ。
創作家同士?
それとも、どちらかが編集者なのだろうか。
二人とも、土地柄だろうかシャレた、と言っても嫌味のないクールさを感じさせるファッションに身を包んでいる。
どんな関係なのだろう。
頭の隅で考えながら、それとなく会話を聞き入ってしまう。
 
男性が話している。
「最近の若い人たちの言葉、わからんわなぁ。新しい単語がどんどん生まれて、なんか追いつけないような感じがするね。」
少し憂いを含んだ表情で話す。
私も同感だった。
街中を歩けば、新しい単語や表現が溢れかえっている。
少し気を抜くと、まったく理解できない言葉が飛び交っているのだ。
それらの言葉を理解してコミュニケーションをとることは、英語を学んで意思疎通するよりも難しい。
 
女性も答える。
「最近の若い人たち、スマホにイヤホン着けて大声で話して歩いているでしょ。大声で独り言喋っているようで、あれ、ちょっとギョッとしちゃうけど、実はそれ、どこの国の人がどこの国の言葉で話しているのか、わからないのよ。もちろん、見た目から判断することもできないことがあるし、でも、なんとなく大半は日本人なのよね。」
その通りだ。
最近の街を歩く人々はスマホにイヤホンをつけ、大声で会話をしている姿を頻繁に見かける。
しかし、その言葉が日本語なのか、それとも外国の言葉なのか、見た目からは判断できないのだ。
 
「すごいのはさ」
男性だ。
「若い人たちは新しい日本語と、普通の日本語を使い分けているんじゃないかと思うんだ。あのイヤホンで聞こえるのは、まさに新しい日本語なんじゃないかな。」
私は男性の仮説に興味津々だ。
 
女性が答える。
「なるほど、そうかもしれないわ。若者たちは時代の変化に合わせて、新しい言葉や表現を自然に取り入れているのよね。仕事で打ち合わせをする若い子たち、私と話をするときは、ちゃんと私に伝わる日本語使うもの。それができるんだから、若い人たちの能力はすごいと思うのよ。新しい日本語と、普通の日本語を使い分けることで、コミュニケーションの幅が広がっているのよね」
 
男性は頷きながら、考え込んでいるようだった。
「でも、若い世代とのコミュニケーションを円滑にするためには、これから先僕らには、日本語から日本語への翻訳機が必要になるかもしれないね。言葉の壁を乗り越えて、意思疎通を図るためには、その支援が欠かせなくなるように感じるんだ」
 
私も男性の言葉に深く共感し、将来的には日本語から日本語への翻訳機、世代間翻訳機が登場することがあっても不思議ではないと思った。
 
「若い世代とのコミュニケーションを円滑にするために、新しい技術が進化していくことは大切だわよね。言葉の進化や変化に合わせて、私たちも柔軟に対応していかなくてはいけなくなってきているのよ」
と女性。
男性は満足そうな表情を浮かべて、静かに頷いた。
「その時が来るまで、私たちはコミュニケーションを大切にしながら、互いを理解しようと努力することが大切だね。言葉だけでなく、非言語的なサインや表情も大切な意味を持っているんだから」
 
私たちはお互いの世代間の言葉を尊重し合いながら、コミュニケーションを深めていくことが重要なのだ。未来の日本語の変化にも柔軟に対応しながら、お互いを理解し、繋がっていく道を歩んでいく必要がある。
 
とにかく今の日本において、新たな世代が生み出す言葉のスピードは驚くほど速いことは事実なのだ。
そんなことを実感していた僕であるが、
シニアの男女の言葉に、なんだか背中を押され、
この国に新たな希望と明るい未来を感じることができた。
 
そのとき、私のスマホに見せかけた通信デバイスが鳴った。
素早くイヤホンを耳に入れ、周りの邪魔にならないように外に出る。
仲間からの連絡だ。
ゆっくりと、周りを気にすることもなく私は私たちの星の言葉で会話を始めた。
今の日本、だれがどんな言葉を使って誰と会話していようと、気に留める人などいない。
様々な世代間の、様々な国の言葉があふれ返っている影響だろう。
私たち異星人も、周囲を気にする必要もなく、自由に母星語で会話ができるのだ。
こんなに他者から干渉されることもなく、自由に気ままに動き回ったり、暮したりできる星も、広い宇宙にそう沢山は存在しない。
そう、そんな気安さから
既にこの星、地球の日本には様々な星から異星人たちがやって来ている。
この僕だって、新たな創作活動をするために、気分転換の意味も込めて滞在中なのだ。
君たちはまったく気にしていないけど、
そこにいる、一見外国人に見えるカップルだって、
あそこの、せわしなく中国語っぽい言葉で会話している集団だって、
他の星からの訪問者。
違うなだんて、断言できないだろ。

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