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精巧 市場連動生産ストーリー(8)

世界一のアパレル企業、ZARAも学んだトヨタ生産システム

こんにちは、近江です。

これまでご紹介して来たトヨタ生産システムを取り入れた企業は、日本以外、海外にもたくさんあります。

自動車業界以外では、グーグル、ナイキ、ボーイングなどがトヨタ生産システムをベースとし、ほぼ同義語として使われている「リーン」を取り入れて成長を続けています。

アパレル企業にもそんな事例はないかと、旧知のファッション流通コンサルタントである齊藤孝浩氏に問い合わせたところ、同氏が2014年に著し、ベストセラーとなったアパレル関連のビジネス書「ユニクロ対ZARA」(日本経済新聞出版社)のZARA(ザラ)がトヨタから学び、オペレーションに活かしているということでした。そこで、詳しく話を聞きたいと申し出たところ、快諾してくれました。

◆ZARAの強みの影にTSSあり

ZARAはリスクが高いと言われるトレンド商品を、シーズン中に市場の需要にあわせてQR(クイックレスポンス)方式でつくり、的中率を高め、世界一のアパレルチェーンに昇りつめた企業として知られています。1975年にスペインで創業後、多店舗展開を始めた80年代に、経営陣が日本を訪れ、トヨタ生産システムを学び、自社の現場にどう活かすことができるかをその場で議論して、持ち帰った経緯があるそうです。

齊藤氏の話の中で、「目から鱗が落ちた」ことはたくさんありますが、そのひとつが、ZARAがトレンドファッションをスピーディに生産して、店頭に並べることができるのは、企業の規模が大きいからできたこと、ではなく、「創業当時、同社にはお金がなかったから、そうせざるを得なかった」という逸話を聞かされた時でした。

◆お金がなかったからこそ今がある、ZARAの創業秘話

齊藤氏によれば、ZARAの創業者であるアマンシオ・オルテガ氏は、創業前(1970年代)は、生地問屋の製品卸部門で働いていました。
アパレル企業を設立して独立、百貨店やアパレル向けのアパレル製造業からビジネスを始めたそうですが、バイヤーから様々な理由でキャンセル在庫を抱えさせられ、倒産の危機にさらされたこともあったそうです。

そこでオルテガ氏は、市場調査からファッショントレンドに沿った売れ筋商品をつくる自信があったため、卸ではなく、直接消費者に販売しようと、直営店を開業することを決断します。

その際、十分な資金がなかったオルテガ氏は、生地問屋で働いていた人脈を活かして、まず、トレンド商品が作れそうな生地を生地問屋から掛けで購入。「掛け買い」なので、代金の支払いはしばらく先になります。

生地

次に自社のデザイナーと相談して、その素材を活かせる商品デザインを考え、委託縫製工場に生地を持ち込み、すぐに製品化してもらい、出来上がった製品は、自らトラックで自社店舗に持ち込み、店頭に並べ、販売をスタートしました。

百貨店よりも、こなれた価格で直売したトレンド商品は、口コミで客が客を呼び、飛ぶように売れ、すぐに現金化できたそうです。顧客に直接販売する手ごたえを得た同氏は、その売上金を持って、すぐに生地屋に掛け買いした生地の代金を支払いに行き、その場で、次に製品化したい生地をやはり掛けで譲ってもらい、その足で、縫製工場に新しい生地を持ち込んでは、すぐに製品化し、店頭で販売するということを繰り返していたそうです。

◆規模ではない、「制約」こそが企業を強くする

確かにこのやりかたなら、元手資金がなくても、製品をつくり、間もなく換金した売上金を生地代や縫製工賃や家賃の支払いに回すことが出来ます。

齊藤氏によれば、ZARAが地元スペイン国内で展開していたころは、オルテガ氏のこの人海戦術の繰り返しによるキャッシュフロー創出術で、多店舗展開を進めたとのことです。

そして、オルテガ氏が自ら実践した「ファッションが好きな女性のために、トレンド商品をいち早く、手の届く価格で、必要な分だけ作成し、すぐに現金化する。シーズン中、それを繰り返す」という人海戦術を現在の同社につながる国際展開にも通用するように、ビジネスモデル化したのは、その後、ZARAに参画したシステムや物流の専門家たちだったとのことです。

企業が大きくなった後に、「あれは規模が大きいからできること」と指摘される方は少なくありません。

しかし、ZARAの創業時の話を聞いて、あらためて、企業の規模や歴史に関わらず、自らが置かれている「制約」を認識した上で、逆に自分たちを追い込み、みんなで知恵を絞って工夫をすることで、開ける活路があることを確信しました。

◆市場の需要にあわせて変化に対応する、トヨタ生産システム(TSS)という共通項

日本のアパレルの成功例として、ユニクロの事例も教えていただきました。

ユニクロはTSSを取り入れている会社ではなく、トレンドファッションをつくるZARAとベーシック商品をつくるユニクロが消費者に提供している価値は全く別ですが、ものづくりについては、TSS的な共通点があるということでした。

それは、在庫リスクが高いアパレル製品のリスクマネジメントをする上で、両社とも、「制約(ボトルネック)」となる素材、資材はあらかじめ用意をしておくものの、製品化にあたっては、全量をつくり込ます、まずは、店頭での販売に必要な分だけつくって販売をスタートし、エンドユーザーの反応を見て、用意しておいた素材を活用して、つくり足して行く、という発想です。

但し、違っているのは、ベーシック商品を扱うユニクロは、商品特性上、比較的販売期間が長いため、売り逃しを嫌って、多めにつくります。そして、販売スタート後の需要を見極めて、同じ商品でもカラーサイズ別(SKU別)の売れ行きのバラつきによる在庫のアンバランスを調整するように追加生産を行うそうです。

工場生産

例えば、販売をスタートして、白や黒は予定以上に売れ、赤が思い通りに売れなかった場合、予想以上に売れ、足りなくなりそうな色やサイズだけを追加生産していくことで、同じ期間売場が維持できるように、カラーサイズ別の販売スピードは違っても、できるだけ同時期に販売終了ができるように工夫をしているそうです。

一方、トレンド商品を扱うZARAの場合は、トレンド商品の寿命(販売期間)は短いという商品特性上、素材は同じでも、同じデザインの商品はめったにつくらないそうです。どんな人気商品でも、いつ飽きられて、過剰在庫を抱えてしまうかがわからない為、店頭に訪れ、試着した顧客の反応から各店の販売員が感じとった情報をベースに、同じ素材を使った、市場トレンドに合った改良商品を新たにデザインし、新商品として作って行くことに注力をしているそうです。

世界的な規模で展開するZARAやユニクロでも、市場連動生産を行っていることを知り、また、規模が大きいからではなく、必要性から行われていることに、当社が手掛ける市場連動生産との共通点を感じました。

次回は、「売れ残り在庫ゼロ、キャッシュフロー重視で実現するアパレル市場連動生産のススメ」についてです。


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