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意向調査を3年実施していない飯舘村

「未帰還者の実態」に目を向けよ!!

 原発事故により避難指示区域に設定された地域では、定期的に「原子力被災自治体における住民意向調査」が実施されている。ただ、飯舘村では2016年を最後に同調査が行われていない。なぜ、意向調査が実施されていないのか、その背景を探った。


 復興庁がまとめている住民意向調査の報告書によると、調査目的は「福島県内の原子力災害による避難住民の早期帰還・定住に向けた環境整備、長期避難者の生活拠点の具体化等のための基礎情報収集を目的に住民意向調査を実施」とされ、調査主体は復興庁、福島県、当該の各市町村が共同で行う。調査方法は郵送(配布・回収)で、調査対象は各世帯の代表者とされている。

 主な調査項目は、各市町村によって若干異なるが、帰還の意向(年代別)、現在の居住状況、帰還を判断するために必要な情報、今後の生活における必要な支援、帰還しない理由など。

 同調査は2012年から実施されているが、調査実施市町村は毎年違う。昨年は8月から12月にかけ、7市町村で行われた。昨年11月から順次、個別(実施した市町村別)の調査結果が公表され、3月19日に「全体版」の報告書が公表された。

 各年の調査実施市町村は別掲の通り。これを見れば分かるように、飯舘村は2016年を最後に、3年間同調査が行われていない。

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 以前、復興庁の担当者に同調査のあり方を確認したところ、「毎年、各自治体に意向調査を実施するか照会し、『実施する』との回答があった場合は設問内容などを相談して決める。『実施しなくてもいい』というところは実施しない」と語っていた。

 つまり、意向調査を行っていないのは村の意向ということになる。

 その点で言うと、田村市(避難指示区域と旧緊急時避難準備区域=主に都路町)も2015年を最後に実施していない。ただ、同市の場合、避難指示区域は2014年4月に解除され、対象人口も約350人とそれほど多くはなかった。対象住民の避難実態も、同市内の避難指示区域外に生活拠点を移すケースが多く、自治体全域が避難指示区域になったところとは事情が違う。そういったこともあり、いまでは多くの人が生活再建を果たしている。

 これに対し、飯舘村は全村避難となり、2017年3月31日に帰還困難区域(長泥地区)を除いて避難指示が解除された。人口約5400人のうち、約4000人(約74%)が村に戻っておらず、当然、帰還困難区域はいまも避難指示が続いている。そういう状況にもかかわらず、帰還意思はどうなのか、帰還判断をするためにはどんな条件が必要なのか、帰還しない場合はどんな支援を求めているのか――等々を調査する機会を、避難指示解除の前年を最後に、自ら放棄しているのは解せない。

 なぜ調査を実施していないのか、村役場に見解を求めると、以下のような回答があった。

 「本村は帰還困難区域を除き、避難指示が解除されて4年目、全村避難から10年目を迎え、帰村する村民、村外に住居を構え移住を決定した村民など、長期にわたる歳月の経過とともに村民の暮らしは様々に変化してきている。ご指摘の復興庁が実施する『住民意向調査』については、全村避難から5年程度は一定の成果はあったものの、アンケートの項目内容があまり変わらず、住民への『帰村意向調査』が前提条件となっており、村民の暮らしの実態に合致していないため、実施しないこととしたところである。なお、住民の声を聴く機会としては、その都度方部別懇談会や、帰村している住民を対象とした意見交換会、各種機関団体会合時の出前説明会などを開催し、可能な限り住民の生の声を聴き村政に活かしており、アンケート調査以上の取り組みをしているところである」

 確かに、意向調査をめぐっては、数年が経った辺りから、「毎年、同じような質問で、回答する意義が感じられなくなった」、「もう戻らないことを決めたから、回答しても意味がないと思い、出していない」といった意見を耳にするようになった。

 その点で言うと、村の「最初の5年程度は一定の成果はあったが役目を終えた」といった判断は理解できなくはない。ただ、この間には避難指示解除という大きな出来事をまたいでいるわけだから、それによって住民感情にどのような変化があったか等々を調査するためにも、一回は調査を実施する必要があると感じる。毎年でなくとも、2、3年に一度程度は実施すべきだろう。

調査実施陳情を不採択

 実際、ある村民(帰村済み)は次のように話した。

 「避難指示解除され、賠償などは一段落したものの、山林は汚染されたまま。私のように戻ってきた村民にしても、かつてのように山菜・キノコなどの山の恵みを受けることはできず、スーパーでお金を出して買わなければなりません。戻らない人も、それぞれ悩みを抱えていると思います。そういった意味で、原発事故は終わっていないどころか、どんどん顕在化しているのです。そのように、住民がいまどのような苦悩を抱え、何を求めているのかを知るためにも住民意向調査は行うべきだし、実施に当たっては、質問内容など、従来のものとは違った工夫が必要だと思います」

 実はこの問題をめぐっては2018年6月議会に「住民意向調査の実施を要望する陳情書」が出された。2017年に意向調査が実施されなかったため、2018年は実施してほしい、といった趣旨である。

 ただ、同陳情は採択されなかった。不採択の理由は「ほかの市町村でも解除後は住民意向調査を行っていないところが多い」、「村にとって現時点ではあまり意味をなさない質問もあり、従前の調査を踏襲することへの疑問がある」、「アンケートの回収率が半数以下で16歳以上の若者からの意見集約手段としてのアンケートに疑問を感じる」というものだったようだ。

 以来、2018年、2019年と3年間、意向調査が実施されていないのは前述の通り。

 ただ、前頁別掲で示したように、同村と同時期に避難解除された川俣町(山木屋地区)、富岡町、浪江町は2017年、2018年、2019年と解除後も意向調査を実施している。それよりも先に解除(2015年9月5日)になった楢葉町でも、ここ2年は実施していないが、2012年から解除後2年間(2017年まで)は意向調査を行っている。議会は何をもって「ほかの市町村でも解除後は住民意向調査を行っていないところが多い」としたのか理解に苦しむ。

 質問内容・方法にしても、復興庁と協議して、住民の実態をより探れる形式にするよう知恵を絞ればいいわけで、「村にとって現時点ではあまり意味をなさない質問」、「従前の調査を踏襲することへの疑問」というのはただの怠慢に過ぎない。

帰還一辺倒の菅野村長

 陳情を出した村民に話を聞くと、次のように述べた。

 「村民が安心して生活できるように、村が良くなるようにと思って陳情を出しましたが、不採択となったのは残念でした。住民意向調査は必要な施策だと思うし、村民の代表である議員に期待している面もあるので、引き続き要望していきます」

 一方で、この間、本誌で再三報じているように、菅野典雄村長は帰還政策一辺倒で、戻らない人・戻れない人にはあまり目を向けて来なかった。今回の件(意向調査未実施)もその延長線上にあるように感じられる。すなわち、戻らない人・戻れない人の声や実態に目を背けているのではないか、と。

 実際、そう感じている村民も少なくない。結果、「いまさら村長に何を言っても無駄」といった諦めの雰囲気さえ感じられる。

 本誌取材に対して、村は「住民の声を聴く機会として、方部別懇談会、帰村している住民を対象とした意見交換会、各種機関団体会合時の出前説明会などを開催し、意向調査に代わる取り組みをしている」旨の回答をしている。

 ただ、ある村民は「本当に住民の生の声を聞く気があるなら、福島市でも継続的、もしくは定期的に懇談会を開くべき」と明かす。

 というのは、同村の人口は約5400人で、村内居住者は約1400人。約4000人が同村に住民票を置きながら、村外で生活していることになる。実はその半数以上、具体的には約2400人が福島市にいるのだ(村発表=5月1日現在=の避難状況より)。つまり、同村民の最大の居住地は福島市にあるわけ。

 先の村民はそうした事情から「本当に住民の生の声を聞く気があるなら、福島市内で懇談会をやればいい」との見解を示したのである。

 「村長(村)が本気で聞く気があり、それを受け止めてくれるのであれば、(福島市やその近隣にいる)村民は集まり、思いの丈をぶつけるはず」(同)

 つまり、本当に住民の声を聞き、反映させようという気があるのなら、住民意向調査を放棄することなく、さらには同村民の最大の居住地である福島市でも懇談会を開くべきということだ。それをしようとしないのは、やはり村民(特に戻らない人)の声に耳をふさいでいるとしか思えない。


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