見出し画像

【福島県】全袋検査取りやめでJA決算危機

全袋検査取りやめでJA決算危機


 原発事故後に始まった、県産米の放射性物質濃度を測定する「全量全袋検査」が、2020年産米から一部を除きサンプルだけを調べる「抽出検査」に移行する。これを受け、県内JAの決算が大きな影響を受ける可能性が高まっている。

 県産米の全袋検査は2012年産米から始まり、2014年産までは国の基準値(1㌔当たり100ベクレル)を超える放射性セシウムが検出されていたが、2015年産以降は検出されていない。

 県は2018年3月、5年連続で基準値超がゼロだったら抽出検査に切り替えることを表明。2019年産米も基準値超は検出されなかったため、2020年産米から抽出検査に移行することを決めた。ただし、原発事故の避難指示が出された11市町村と川俣町山木屋地区では引き続き全袋検査を継続する。抽出検査の方法は1950(昭和25)年に約400あった旧市町村単位で行われる予定で、現在詳細を検討中だ。

 全袋検査を取りやめれば安全性を客観的に示す証拠がなくなるため、風評を懸念する声もあるが、ともかく、原発事故の影響を受けてきた県産米は過渡期にあると言っていい。

 こうした中、会津地方で農業を営む男性が、本誌記者に次のような疑問を投げ掛けた。

 「全袋検査が終わって抽出検査になったら、JAは売上的に大ダメージを受けるのではないか」

 そう言って、この男性はJA会津よつば(会津若松市、長谷川一雄組合長)の2018(平成30)年度決算を見せた。

 「損益計算書によると、事業利益(民間企業の営業利益に当たる)は9100万円、経常利益は3億4300万円、当期余剰金(同当期利益に当たる)は3億4400万円となっている。さらに細かく見ると『その他事業総利益』という項目があり金額は2億4600万円となっているが、これは全袋検査による利益を指している」

 全袋検査は、市町村等でつくる各地の地域農業再生協議会に生産者や集荷業者がコメを持ち込んで行われる。その際、「1袋何円」という検査料が発生するが、その検査料は東京電力が負担し、同協議会からJAに収められる。

 確かに「その他事業」の中身を見ると、内訳は別表①のようになっている。男性は何が言いたいのか。

画像1

 「経常利益が3億4300万円に対し全袋検査利益が2億4600万円ということは、7割超の利益を占める計算になる。しかし2020年産米から抽出検査に変わると、この分の利益は見込めなくなるので、同年度以降は厳しい決算になる、と」

 男性の指摘を受け、JA東西しらかわ(棚倉町、薄葉功組合長)を除く県内4JAについて2017、2018年度の経常利益に占める全袋検査利益の割合を調べると、別表②のような結果になった。JAふくしま未来(福島市、菅野孝志組合長)とJA福島さくら(郡山市、管野啓二組合長)の割合は小さいが、JA会津よつばとJA夢みなみ(須賀川市、橋本正和組合長)はかなり大きな割合を占めていることが分かる。

画像2

画像3

厳しいコメの現状


 この違いは何に起因するのか、あるJA役職員が解説してくれた。

 「コメへの依存度の高さが表れた結果でしょう。会津は〝コメ所〟なので全袋検査の量も多い。県南地方もコメづくりが盛んで、同様のことが言えます。これに対しJAふくしま未来は果樹、園芸、畜産とバランスが取れており、コメに偏っていない。原発事故後、エリア内の相馬、南相馬、飯舘でコメづくりをやめた人が多いという事情もあります。JA福島さくらも、エリア内のいわきや田村で郡山とは異なる作物を生産しています」

つまり、コメづくりが盛んな地域ほど、経常利益に占める全袋検査利益の割合が高い傾向にある、ということだ。そんなコメが置かれている状況を「相当厳しい」と語るのは、あるコメ卸業者だ。

 「背景には①消費税増税後、低所得者層がコメより安いパンにシフトした、②食品ロスをなくす意識が高まり、炊いたコメを捨てるといった無駄な消費がなくなった、③新型コロナウイルスの影響で外食が減った――等々が挙げられます。減反政策がなくなったことも、コメをだぶつかせ、価格を下げる要因になっています」

 前出・JA役職員もこう話す。

 「農家の高齢化や担い手不足、収入減など農業を取り巻く環境は厳しい。当然、JAの経営も容易でなく、本業で稼ぐのが難しい中、信用事業や共済事業で何とかその穴を埋めてきたが、近年は低金利や人口減で事業転換を迫られている。ただ県内のJAに限っては、原発事故の賠償や全袋検査利益などがあったおかげで、他都道府県のJAより延命できた面がある」(同)

 しかし、次第に賠償が減り、全袋検査利益もなくなれば、新たな収益源を確保しないと経営は立ち行かなくなる恐れがある。

 JAの監督・指導を行う県農業経済課に、全袋検査利益が見込めなくなった後の経営についてアドバイス等を行っているのか尋ねると「特段行っていない」という。

 「決算上、赤字項目があれば、それが一過性か慢性的かを見極め、慢性的なら改善を求めます。しかし、県内JAは現状どこも黒字です。県としては、黒字のJAに指導することはない」(同課担当者)

 しかし、抽出検査に移行すれば全袋検査利益がなくなるのは確実なのだから、注意喚起くらいは行うのが当然だろう。

 「コメを中心に扱うJAは全国どこも事業転換に苦労していると聞いている。そうした中で、県内の(全袋検査利益の割合が高い2)JAが先を見越した対策を行ってきたかどうかが今後問われる」(同)

 JA会津よつばとJA夢みなみの担当者は次のようにコメントした。

 「全袋検査をめぐっては臨時雇用や一般職員を手伝いに回した経費、施設費や光熱費など〝見えない経費〟も実はかかっている。確かに2020年度決算から全袋検査利益は見込めなくなるが、逆に〝見えない経費〟もかからないので、差し引きすると見た目の金額より決算上の影響は小さいと思います。とはいえ、新たな事業展開を迫られているのは事実なので、5月の総代会で2020年度の事業計画を説明したい」(JA会津よつば総合企画部)

 「2020年度からは全袋検査利益が見込めないので、総代会ではこれを抜いた形の新たな事業計画を示したい。ただ、全袋検査に関する費用は、計上されていない経費(JA会津よつばの担当者が言う〝見えない経費〟)もあり、それがどれくらいかかっているかは分かりづらい面もあります」(JA夢みなみ管理課)

 両JAとも〝見えない経費〟がかかっていると言うが、少なくとも決算が好転することはないわけで、全袋検査利益に代わる収益源を確立できるかどうかが2020年度事業計画の注目点になるだろう。


Twitter(是非フォローお願いします)
https://twitter.com/seikeitohoku

facebook(是非フォローお願いします)
https://www.facebook.com/seikeitohoku

Youtube
https://www.youtube.com/channel/UC_kuXuKLjjKz4PYIYuUAxnA?view_as=subscriber

HP
http://www.seikeitohoku.com



よろしければサポートお願いします!!