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【玄葉光一郎】国政インタビュー

 新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、安倍内閣の対策は後手に回っている感が否めない。この問題が浮上する前は「桜を見る会」問題や閣僚の相次ぐ辞任など、長期政権の弊害を感じさせる事態も相次いだ。福島3区選出の玄葉光一郎衆院議員(55、9期、無所属)に安倍内閣の姿勢はどのように見えているのか、話を聞いた。


 ――新型コロナウイルスの感染拡大による影響が深刻な状況に陥っています。

  「今国会の予算委員会で質問に立ち、安倍首相に対し『危機管理の原則は、初動の段階で最悪の事態を想定した対策を行うこと』と申し上げつつ具体的な提案をしてきました。その後、安倍首相から『建設的な提案に感謝します』と直接あいさつされる機会がありましたが、本人も初期対応のまずさは認識していたのかもしれません。

 感染拡大防止で重要なのは、まずは水際対策です。当初は湖北省、次いで浙江省に入国制限の規制をかけましたが、習近平・国家主席の訪日が正式に延期されるまで中国全土に広げなかったことは明らかに失敗だったと考えます。初動の段階で中国全土を入国制限の対象にすれば、模範的な水際対策で注目された台湾やシンガポール並みの感染者数で済んだ可能性があり、感染者がジワジワと増加するような現在の事態は避けられたのではないでしょうか。

 危機意識の希薄さから検査体制の拡充が遅れたことも感染拡大に大きな影響を及ぼしています。当初の検査対象は湖北省に渡航歴がある方のみで、本来検査すれば陽性だった方を放置したことで感染拡大に至ったり、あるいは基礎疾患を持った方が重症化するなど、検査体制が後手に回った結果、感染リスクを高めてしまったと感じています。現在、検査対象は基本的に、重症者と陽性反応が出た感染者との濃厚接触者に限られますが、約6000人の検査体制が構築されている一方で、実際は1日平均1000人程度しか検査していないのが実態です。

 今後は何よりピーク時の医療提供体制を早々に構築することが大切です。そのうえで、医療体制が崩壊しない範囲で不安を感じている方も含め検査できる環境を整えることが肝要だと考えます。検査対象を広げることで軽症の感染者を発見し、実質的にピークを少し前倒しすることで早期の終息を図るべきではないでしょうか」

 ――今後、どのような経済対策をどの程度の規模で講じるべきとお考えですか。

 「最大の経済対策は、終息が見通せる段階まで持っていくことに尽きると思います。これまでの歴史を見ても、スペイン風邪をはじめ、SARS、MARSといったパンデミックはすべて終息したことは紛れもない事実であり、終息後は経済がV字回復する可能性すらあります。これらの点を踏まえたうえで今回の『コロナ不況』により本格的な景気後退局面になるか・ならないかの見極めが大きなポイントだと思います。

 一方で、この度の政府による自粛要請で直接・間接を問わず影響を受けた法人・個人に対しては一定程度補償することが必要だと考えます。自粛要請以降、旅館・ホテルではキャンセルが相次ぎ、中には休業を強いられるなど経営的に深刻な状況に陥っているケースが多々あります。現在、救済措置として無利子・無担保の融資を打ち出していますが、結局は借金であって、抜本的な経済対策にはなり得ません。例えば、東電福島第一原発事故における損害賠償の経験を踏まえ、逸失利益に対し一定の補償をする制度も検討すべきではないかと考えます。

 国民に対しては、ベーシックインカム的な思い切った現金給付が必要だと思います。消費税減税も選択肢の一つであることは承知していますが、いったん減税した後、税率を元に戻すのは容易なことではありません。政府債務は約1100兆円を超え、ОECD諸国の中でも最悪の財政水準となる中、将来世代への負担の先送りは避けなければなりません。これらを踏まえ、現行の消費税を維持し税収を確保したうえで、消費税分相当額を財源にして、それを国民に現金給付することが賢明だと思います。

 消費税1年分の5%分なら、約11兆円で国民1人当たり約11万円、同10%分なら、約22兆円で同約22万円を現金給付することができます。これを、消費性向の高い低所得者層や中所得者層に傾斜配分すれば、経済対策の効果を一層上げることも期待できます。問題は、どのタイミングで現金給付するかが大事になると考えます」

 ――安倍内閣においては森友問題をはじめ『桜を見る会』問題、IR問題、閣僚辞任などの重大疑惑が浮上していますが、安倍長期政権の弊害と問題点についてうかがいます。

 「安倍内閣の一連の疑惑は民主主義の根本を揺るがすものと言っても過言ではありません。最近、森友問題における財務省の公文書改ざん事件で自殺した職員の手記が公になりましたが、安倍首相と麻生財務相は間接的とはいえ責任があることは明白です。

 今、最も懸念しているのは黒川弘務東京高検検事長の定年延長問題です。官邸が戦後初めて検事総長人事に介入することを許せば、日本の民主主義は破綻すると断言します。官邸にとって都合の良い人物を恣意的に検察トップに充てる行為は、三権分立を脅かすいわば民主主義への冒涜以外の何ものでもありません。この問題に対しては断固として立ち向かう覚悟です」

 ――昨年10月に襲来した台風19号は選挙区である福島3区にも甚大な被害をもたらしました。

 「選挙区内では2000軒以上が床上浸水に見舞われ、この間、1軒1軒くまなく歩きながら現状把握に努めてきました。

 具体的には、中小事業者についてはグループ補助金が適用され、農業従事者については新たに農業機械を購入する場合は費用の9割以上、ビニールハウスを再建する場合は同約7割を助成することとなり、考え得る最大限の対策は講じることができたと思います。

 今後の課題は二つあり、一つは用水路などの復旧が3月までに間に合わず、作付けができない地域への対策です。こうした場合、水を必要としない蕎麦、麦、大豆を6月から12月まで栽培していただければ10㌃当たり2万~3万5000円の収入が得られるので、今年に限り転作することで営農継続を図る手法が考えられます。

 もう一つは気候変動型災害に対応できる防災体制の構築です。現在、台風19号の教訓を踏まえ、阿武隈川上流に3カ所の遊水池を整備する方針が示されていますが、これら治水対策と並行して、何度も浸水被害に見舞われている集落は国の責任で高台移転させることも検討すべきであり、既に国会でも提案しています。

 気候変動型災害における防災対策は、規模の大きさから従来型の現状復旧や改良復旧では不十分と言わざるを得ません。防災対策としての集落移転を新しいまちづくりとして捉えるなど、発想の転換が今後は求められると思います」


 げんば・こういちろう 1964年生まれ。安積高校、上智大学法学部卒。民主党政権時に外務大臣、国家戦略担当大臣、内閣府特命担当大臣、同党政策調査会長などを歴任。現在9期目。

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