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【福島】【闇部活】保護者が憤る部活動〝名ばかり改革〟

教育専門家が語るルール違反の原因

 本誌9月号で、部活動の活動日や活動時間に制限を設ける「部活動改革」が福島市で進んでいないことをリポートした。その後、複数の読者から「休養日を設けるというルールが守られていない」、「記事に出てくる教頭は嘘をついている」といった情報提供が寄せられた。部活動に関する保護者の憤りは相当根深いようだ。あらためて当事者を取材するとともに、こうした問題が起きる原因や背景について、教育専門家の声を参考にしながら考えてみたい。

 近年、教員の働き方改革がスタートしたのと併せて、部活動の練習時間に制限を設ける「部活動改革」が全国的に進められており、国はガイドラインを設けて徹底化を図っている。例えば中学校の場合、平日週1日、土日いずれかを休養日として、練習時間の上限を平日2時間、休日3時間と定めている。

 県内の学校でも見直しが行われているところだが、ルールの順守度合いは学校や部活動によってバラつきがあり、その対応の違いに不満を抱く保護者が少なくない。

 本誌9月号では「福島第一、第二、第三、第四中学校の4校が部活動のルールを守っていない。これでは強いのが当たり前で不公平だ」という投書が寄せられたのを受け、当該4校を直撃した。

 本誌取材に対し、各校の教頭はいずれも「ルールは順守している」と投書の指摘を否定していたが、同記事を読んだ読者から「少なくとも福島三中ではルールは守られていない。記事は事実ではない」と指摘する投書が届いた。内容は以下の通り(本誌編集部で一部リライトしている)。

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 今年の3月に子どもが福島三中を卒業しました。在学中にある運動部に所属していましたが、3年生の5月ごろから3週間ほどは、全く休みがなかったと子どもと振り返っています。

 平日1回、休日のどちらかは休ませたかったという思いが当時はありました。いま思うと、部活動中心の中学校だったように思います。運動が苦手な子どもには、どちらかというと通わせたくない中学校です。

 今年の状況が気になったので、家内を通じて、三中に通っている子がいる隣の家に確認しましたが、体質は変わっていないようです。全員が将来プロ選手になるわけではないので、そこまで部活動に重点を置かなくてもよいのではないでしょうか。

 したがって、三中の教頭先生のコメントは、状況を把握していないとしか言いようがありません。全く正確さに欠け、事実と異なっています。

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 消印は9月17日付、福島中央郵便局。おそらく差出人は、福島三中に子どもを通わせていた保護者なのだろう。

 国が部活動におけるガイドラインを策定したのは昨年3月。本誌9月号取材時の福島三中教頭の説明によると、同10月に国のガイドラインに沿った部活動の方針を決め、方針内容を保護者に周知したという。にもかかわらず、依然としてそのルールは順守されておらず、福島三中の教頭のコメントも事実と異なっている、と投書は指摘しているのだ。

 こうした投書が寄せられたことをどう受け止めるのか。福島三中の教頭に再度コメントを求めたところ、次のように答えた。

 「ご指摘があったことは真摯に受け止めます。ただ、改革は始まったばかりで、徹底できていないのが現状です。改革は過渡期であり、競技の特性や安全面の配慮などにより土日の練習が続いたり、練習時間が延びることもあります。ご理解いただければ幸いです」

 前回取材で「順守されている」と事実と異なる回答をしたことについて、開き直って言い訳した格好だ。多少のルール違反はセーフだと考えているのか、それとも教育現場に流れる「事なかれ主義」の風潮や隠ぺい体質が教頭にそう言わせたのか。いずれにしても、問題の根深さを感じさせるし、同じような状況は同校に限らず各校で起きているのかもしれない。

 部活動に関するルールが守られれば教員の労働時間は削減されるし、生徒も勉強時間が確保され、過度な練習でけがをするといったこともなくなる。にもかかわらず、なぜ学校現場でルールが守られないのか。

改革が進まない背景

 教員の長時間労働や部活動問題を専門とする名古屋大学大学院教育発達科学研究科の内田良准教授は、その理由を次のように説明する。

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 「部活動は長い間、過熱してやりすぎる状況が続いてきました。どうして過熱するかというと、教員や生徒にとって、部活動は単に『やらされている』ものではないからです。楽しい思い出ができたり、成長できる場として教育的な効果・意義が高いので、教員は部活動を重要視する。生徒も試合に勝てばうれしいし、保護者も喜ぶので団結力が高まります。それ故になかなか歯止めがかけられなくなるのです。そうした循環の中で、国が定めた時間規制に反してでも部活動をやりたがる人が出てきてしまったということでしょう」

 学校・教員側の問題だけでなく、生徒や保護者も部活動にのめり込みがちな傾向があるというわけ。

 とりわけ保護者が部活動に与える影響は強いようで、内田氏は次のように指摘する。

 「保護者の中には、試合に行って大きな声で応援するだけにとどまらず、監督を差し置いて指示を出す人もいます。子どもが部活動で頑張る姿に保護者自身が夢中になっている現状があるのです。そんな保護者からの期待が高まると、教員はより一層、部活動を頑張らなければいけないと思うようになり、練習の長時間化を助長してしまいがちです。実際、部活動の全国調査を実施したところ、『教員が保護者からの期待を大きく感じていると、部活動も長時間化する』という結果が出ました。保護者からの期待と部活動の長時間化は非常にリンクしているのです」

 一方、部活動に熱くなる教員の傾向に関して、内田氏はこのように解説する。

 「全国調査を行うまでは、キャリアの長い教員がいままでの思い出や実績を武器に、若手教員に部活をやれやれと押し付けていると思っていました。しかし調査を進めていくうちに、若手教員も自ら積極的に部活動に取り組んでいることが明らかになりました。部活動を一生懸命指導すれば、校長や同僚、保護者からの信頼度が上がり『あの先生は本当にしっかりしていて、土日も含めて自分の時間も惜しんで指導してくれて素晴らしい』と評価を受ける。そのために過剰適応してしまっている面があります」

 要するに、教員も生徒も保護者も部活動に熱中しやすい土壌があるため、国がどれだけガイドラインを定めてルールを整備しても、改革がなかなか進まない、と。

 このような現状を現場の教員はどう見ているのか。若手と中堅のハザマと言える30代半ばの体育教員に意見を求めたところ、こんな考えを明かした。

 「一概には言えないが、20~40代前半の教員は部活動に対しドライに捉えている人が多い印象です。労働時間短縮の方針が示されてからは、粛々と仕事を進め、早く帰るよう心掛けているように見える。そもそもうちの中学は他の中学に比べ生徒も少ないし、強い部もないので教員・生徒・保護者とも部活動に熱くなることはありません。熱中度には地域性も影響していると思います。郊外部で高卒の保護者が多い地域では子どもへの学習意識が低く、むしろ『部活動は一生懸命やるもんだ』と考える保護者が多かったりする。自分の子どもが活躍すると応援もどんどん過熱していきます。福島市や郡山市など都市部の学校はこれと真逆で、子どもへの学習意識が高い保護者が多いため、部活動が長いと『塾に行く時間が取れない』と不満を持たれたりするのです」

 教員や学校、地域によって、部活動に対する考え方は大きく変わるということだろう。教員によっては、思いがけず強い部の顧問になり、やむなく休日返上で指導している、という事情もありそうだ。

求められる地域クラブ整備

 もちろん、子どもの意思が強ければ部活動のルールが破られることはないのだろうが、現実は熱心な教員や他の部員の同調圧力に屈してしまうケースが多いのだろう。

 本県の公立小・中学校はよほどの理由がない限り、自由に通学先を選択することはできない。各学校に学区が設定されており、基本的には入りたい学校があればその学区内に居住しなければならない(選択できる地域もあるが)。すなわち部活動に関しても、「あの学校は強いから入りたい」、「この学校の部活動はそれほど熱くないから自分でもついていけそうだ」などと選ぶことができない。そうしたことも部活動問題の背景の一つにある。

  「部活動を学校から切り離すべきだ」と指摘するのは福島県教職員組合の角田政志氏だ。

 「本来、部活動には非行防止という役割がありました。生徒を早く帰らせて放課後にトラブルを起こすぐらいなら、学校内で管理した方がいいという側面があったのです。しかし、現在は荒れた学校も減り、その大義名分も薄れています。当組合としては、教員の長時間労働の是正を方針としているので、部活動の短縮だけでなく、丸々教員の仕事から切り離すべきと考えています。部活動を総合型地域スポーツクラブに移行し、教員以外の行政機関が管理すればいいのです。すぐにとはいかないでしょうが、子どもから高齢者までの生涯スポーツの受け皿として進めてほしい」

 県内のあるサッカー協会関係者も同様の意見を述べる。

 「ヨーロッパでは地域住民が自発的にスポーツクラブをつくり、優秀なコーチを招き、子どもたちを育成していくスタイルが一般的です。日本のJリーグはそうしたスタイルを真似ていますが、現状はまだまだ学校の部活動の影響力が強く、育成は教員の指導力に左右されがちです。選手育成という意味では『脱部活動』を図り、地域スポーツクラブをより推進すべきだと思います」

 図らずも、両氏とも部活動の代わりにスポーツクラブを整備すべきだと訴えているのだ。もっとも文部科学省の実態調査では、全国のスポーツクラブが会員・財源・指導者の確保に苦慮しているというデータが示されており、活動種目も限られているので、そう簡単にはいかなそうだが、部活動改革を進めるうえでの一つの方向性と言えるのではないか。

 新しい取り組みに挑むスポーツクラブも登場している。

わだいいわきFC写真:いわきFCパーク

 11月にJFL昇格を果たしたサッカーチーム・いわきFCの運営法人である一般社団法人いわきスポーツクラブでは、従来の競技スポーツ組織だけでなく、さまざまなニーズに対応した「ライフスタイルスポーツクラブ」の整備に向けて体制を整えつつある。具体的には、プロを目指して本気でやりたい人、趣味でやりたい人など競技意識に合わせた選択肢を提供している。

 自治体だけでなく学校、企業など地域全体で協力し、生涯スポーツ組織を構築することで、部活動改革が進まない現状を変えられるのではないだろうか。

問われる本気度

 最後に指摘しておかなければならないのは、学力向上と部活動の関係だ。本誌では常々、教育現場の意識の低さが県内の学力低迷を招いていると指摘してきた。そもそも、部活動短縮も教員の多忙化解消の一環であり、生徒のために行われた改革ではない。

 前出の現役体育教員は「個人的には、部活動の時間が減ったからといって生徒が勉強するとは限らないと思う。部活動短縮と学力向上を本気でリンクさせるためには、放課後に学校内で勉強する仕組みを構築するなど抜本的な改革が必要だ」と指摘する。こうした視点からの議論ももっと行われるべきだ。

 首都圏には中学受験するための塾が多数あり、小学生からしのぎを削っている。クラスも成績順で分かれており、毎月の試験結果でクラス替えが行われるシビアな世界だ。保護者は高額の月謝を支払って塾に通わせている。そんな生徒らと大学受験で競わなければならないのだから、福島県の生徒は最初から相当なハンディを背負っていると言える。

 われわれ大人の使命は、子どもたちが「将来に希望の持てる道」を自らの手で切り開いていけるようサポートすることだ。部活動改革もそうした視点で取り組んでいくことが求められる。県教委・各市町村教委の本気度が問われる。


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