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自己表現力を育む授業が始まっています

本校では令和2年度より「表現プログラム」を導入しています。普通科の高校では珍しい授業なのですが、学校設定科目として正規に行っています。今回は、この表現プログラムについてお話したいと思います。



自己表現するチャンスが少ない!

表現プログラムは、「自分を周りに伝える練習」と位置づけています。一言で言うと「自己表現」です。

自己表現と聞くと、もしかしたら芸術家とかアートの世界のものと感じる人もいらっしゃるかもしれません。同様に、高校生に「自己表現しよう!」と言っても、最初は何か作品を作ることなどを連想するみたいです。「自己表現って、何を表現するの?」みたいな反応は、当初はかなり多かったという印象です。

それもそのはずです。高校生は、朝から夕方まで授業でたくさんのことを学んでいて、多くのことがインプット、つまり吸収です。授業が終わったら部活の練習。家に帰ったら、ペコペコのお腹を満たし、友達とSNSをしたりYouTubeを見ていたら、もう寝る時間。自分を表現する機会、つまりアウトプットする時間なんてほとんどない!というのが実情だと思いませんか。自己表現との接点は意外とないわけです。(インスタやTikTokが数少ない自己表現の場かも…)


社会に出るということは、自己表現するということ

ですが、大人になったらそうではなくなります。むしろ、真逆になります。
まず第一に、授業がなくなるからです。受身になって何かを吸収するという時間が、突然に消え去るのです。その代わりに、社会の役に立つために何かを生み出すということが求められるようになります。それが仕事だからです。

そんなの当たり前と思われるかもしれません。では、念のためシンプルに整理しておきましょう。

・学生時代は、たくさんのことを学び(インプット)、社会に出るための準備をする。
・社会人になると、社会の役に立つために、成果を挙げる(アウトプット)必要がある。

このように、社会人になった瞬間に正反対になるわけです。人生の中で、これほど劇的に、移行期間もなく、立ち位置が変わることって、なかなかないんじゃないでしょうか。(あと、子どもができて親になったときもですね。)

このインプットからアウトプットへの切り替えが上手にできる人は、社会人としてスムースに立ち上がっていきます。きっと学生のうちにそのことを予見できていて、意識的か無意識的かわかりませんが、アウトプットするための準備ができていたのだと思います。

ですが、全ての新社会人が急にそうできるわけではありません。インプット中心の生き方から切り替えられないと、社会に出て苦労することになります。
例えばこうです。もう授業がないことは当然わかっているものの、深層心理のところで授業を受ける感覚から脱していないと、どうなるでしょうか。「まだ教えもらっていません」とか「研修はないんでしょうか」という反応になってしまいます。受身のスタンスだから、どうしても周囲に原因を求めてしまい、勝手に不満が蓄積していくパターンです。インプット中心からアウトプット中心への切り替えができず、自分から動けない。いわゆる指示待ち族です。

一方で、社会人になってうまくいく人は、「自分はこう思います」「こうしてもよいでしょうか」と言って、自然とアウトプットし始めることができる人です。これこそ、自己表現する力が発揮された状態です。

自己表現とは、アートなどの表現者の世界だけのことではなく、「自分ができることや自分の考えを周りに伝える」という、いたって日常的なことだと捉えて頂くとよいと思います。


何が自己表現力(アウトプットする力)を左右しているのか?

このような、アウトプット中心への切り替えができる・できないの違いは、どこから生まれてくるのでしょうか。これは何か特定の経験や訓練の有無で決まるのではなくて、言ってしまえば、私は育ってきた環境によるのではないかという気がしています。家族や友人とのコミュニケーションの質、所属していた学校やチームのカルチャー、本人の意識や感度の高さ、等々。

海外では日本よりも自己主張をしっかりとできる人が多いとよく言われます。大人がそうであるから教育現場にもそれが浸透していて、教育の中で、子どもたちが自然と自己主張を身につけていける土壌が出来上がっているのでしょう。

日本の教育においても、表現力は思考力と判断力とともに最重視されているわけですが、インプットすべきことが多すぎることと、大人たちがそうした教育を受けて来なかったことなどから、自己表現力(アウトプットする力)を高める教育は未成熟だというのが実情と思います。

これが、結局のところ、個々の育ってきた環境という「空気のようなもの」によって、社会に出たときの自己表現力が左右されてしまっている背景です。

そこで私たちはふと思ったわけです。そんな空気のようなものによって、社会に出たときの資質に差が生じてしまって良いものだろうか?教育として体系立てて、学校で今すぐできることはないのだろうか?と。


本校の表現プログラムとは

学校教育が社会に出るための準備であるならば、アウトプットする力をつけることは必須です。社会人になってから急に自分を周りに表現しようとしても、誰もが急にできるものではないからです。
インプットばかりに躍起になって、アウトプットする練習をさせないまま社会に送り出す教育は、実は無責任なのではないか。
この強い信念のもと、どんな進路にも、どんな職業にも共通して必要な資質を育む「表現プログラム」の導入を、私たちは決めました。

さて、自己表現には大きく分けて3つの要素があります。

1.表現するための自分がどんなものかを知ること(自己認識)
2.自己表現するためのメンタルを整えること(自己肯定感)
3.相手にうまく伝わる表現方法を身につけること(スキル)

これらは1,2,3と順番に進んでいくものではありませんので、表現プログラムの授業では、これらを同時並行的に取り組んでいきます。

また、自己表現の方法にもいろいろありますので、現在は7つのクラスから選択できるようにしています。それぞれ重なり合う部分はあるのですが、以下の3領域・8クラスです。

・身体表現:アクト(演劇)、コーラス、チアリーディング
・言語表現:ボイス(発声)、トーク、エッセイ(文章)
・視覚表現:フォト、デザイン

本校の生徒は、全員が希望のクラスを一つ選択して1年間受講します。指導は、それぞれの分野のプロフェッショナルをお招きして行っています。

アクトには現役舞台俳優、コーラスは声楽家、チアリーディングにはプロチアリーダーの先生。ボイスはボイストレーナー、トークは現役フリーアナウンサー、エッセイはライティングコーチ。フォトには写真家兼アートディレクター、デザインにはデザイナー兼アートディレクターの先生にお越し頂き、他教科とは一味も二味も違った授業が展開されています。

そして1年間の取り組みの集大成を成果として発表するのが、2月に行われるパフォーマンスフェスティバルです。それぞれの分野で磨いてきた自己表現力を、みんなの前で思いっきり披露する。こうして、自分を知り、自信をつけ、周りに知ってもらう、という自己表現活動を総まとめしています。

社会人になったときに必ず必要な資質を、高校生のうちから体系的に身につけていく。これが本校の表現プログラムです!

(H Sakamoto)


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