見出し画像

「奴隷ラムシル」連載化構想 その9 人の意識と共感と

 主人公の行動の動機というのはけっこう重要ではないでしょうか? ここでまず考えるのは書いている本人、つまり自分の例です。自分はなぜこういう行動をとるのか、なぜあんな事はしないのかというという事です。私という人間は今こうしてこの家のこの部屋の中でこんな事ができていますので、とりあえず犯罪者ではないわけです。車を運転して少しスピードを出し過ぎたりはたまにありますが、その程度です。

 さて、私はなぜそんな程度でこうして生きていられるのでしょうか? ニュースを(Twitterでも)読みますと、この社会には理不尽な事が多くあります。その理不尽には、一般的なものもありますが、社会制度によって起きている理不尽も数多くあり、その存在が明らかになっているにも関わらず是正されないものもあります。例えば、性、民族、宗教、国籍その他のカテゴリーに入っていればよくわかるでしょう。ですが、たまたま私はそこに属さないので「ああ、この国は自由の国、民主主義の国だなあ」とのほほんとしていられます。つまり、あまり多くの、そして大きな不満は持っていません。逆に言うと、そうでない方々への共感が薄いと言えます。

 主人公ラムシルもそうです。ある程度お金を持っていて、仕事もあり、良い部屋に住んでいます。お金の面で不満はあるにせよ、人生まずまずだと感じています。

 そして彼は、こうも考えます。「この国の自由と規律を守るためならば、ある少数者カテゴリーへの監視や規制も社会コストとして認められるはずだ。誰かが不満をぶち撒けてそれに論理性も証拠や理由も無く共感したり拡散してしまえば社会は成り立たなくなってしまうからだ。」マジョリティの論理、強者の論理と言えます。ですから主人公は通常そうした事を考えて生きてはいません。私と同じです。その代わりにやりたい事をやり、仕事をし、欲しい物を買います。それが主人公の生活の全てです。いちいちマイノリティに共感はしないのです。

 さて、それでも物語には転機があった方が面白くなります。私には転機が無くとも、主人公には必要です。その転機はどんなものでしょうか? 「そうじゃない」事を知った時にそれが転機です。こんなのはヒントになるでしょうか?

 それは、「全部ウソだった!」です。最初はお金のために「この程度なら良いだろう」で始まり、「ウソだった」で次の段階へ・・・ それまでマイノリティへの規制に対して肯定的に考えていましたが、その同じ権力が実は自分にも及んでいた事を知ると意識が逆転してしまうという事です。騙されていた、操作されていたと思い込む事によってです。

 結果として、主人公を陰謀論者にまでする必要性は感じていませんが、少し行き過ぎる行動や、揺れ動く心理はあっても良いと考えています。心のヒストリーとしてはその方が面白いですから。

この記事が参加している募集

#宇宙SF

5,989件

#SF小説が好き

3,083件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?