見出し画像

【小説】黒く塗れ(4/13)

 僕の成績が徐々に上がってきた事で、グループの中が少し騒がしくなってきたようだった。741005と同じように考えて適当にやってきた者たちはちょっとだけ慌てているように見えたし、982731やその取り巻きの中心にいた連中は不思議がった。そしてある時、ナンバー2の625749が僕の様子を窺いにやってきた。

 彼女は聞きたがった。

 「へえ、面白くなってきたわね。それで?」

 625749は僕の仕事ぶりをしばらく見てから、僕のやり方が間違っていると雷のような大声で批判した。このグループに入って最初にしたトレーニングの時の方法に従っていないと言うのだ。そして自己流でやってスピードが上がっても塗った品質は要求されたものと違ってしまうし、それに何よりグループの方針に反しているからいくら早くてきてもそんな作業には意味が無いのだと言った。僕は混乱した。教えてくれた238120の名前を出すわけにはいかなかったので僕は黙って聞いた。でも、僕は625749の言っている事が理解できなかった。なぜなら、僕のやり方は625749が言うやり方に反したものじゃなかったからだ。625749の言うやり方の中では何も言われていない事があって、僕はその何も言われていないところをより良くやっているだけなのだ。けれど、その部分について、625749は他の者のやり方と違っているからいけないと言う。

 「それで、101862は何て言い返したの?」

 僕は言い返す事ができなかった。ここで反論してしまうと後で仕返しされるのは目に見えているのだから。僕は上手くやり過ごす事にした。けれど、僕にはこの後に別の試練が待っていた。僕の横にトレーナーとして213099が付けられて、これから数日の間指導を受けなくてはならなくなったのだ。

 213099は僕が腕を上げる角度がおかしいと言い、ブラシの先を塗料に浸す量が違うと言い、ブラシを壁に当てるやり方がおかしいと言い、ブラシの動かす速度が遅いなどと言ってその都度注意した。そして注意するだけではなくて持っている細い棒で僕をピシピシと叩いた。それが1日中続いた。僕が叩くのは止めてくれと言うと982731か625749を呼んで来た。彼らは僕を取り囲んでグループのやり方に従えないのかと激しく怒るのだった。

 「えー!、それは酷いわよ。集団でいじめ、と言うよりシゴキね。社長に直接言った方が良いわよ、絶対に。」

 結局、反論したり止めて欲しいなどと言えば言うほどに指導のやり方は激しくなっていった。そして期間もどんどん長くされてしまった。けれども、彼女の言うように社長に言うのが良いとは、僕には考えられなかった。なぜなら、982731が社長から深い信頼を得ているのを知っていたし、社長に僕の事を問題ある者として報告していたのも知っているからだ。僕が何か言っても、どうせおまえができないからだと思われるに決まっている。ずっと前の事だけれど、ある者がやはりいじめに遭った事を社長に直訴した事があった。けれど、その後にいじめが問題にされる事もなかったし、言った方がすぐに辞めていなくなっていた。今にして思えば、ああ、こういう事だったのかと、僕にはわかる。

 「そうなの。困ったわね。それじゃどうする事もできないわね。」

 そう、どうする事もできないのだ。耐える事以外は。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?