【小説】黒く塗れ(12/13)
ある日、僕が紫色を塗っているところに10人位の人がやってきた。そして僕を取り囲んで大きな声で罵るように言った。お前はそんな色を塗って我々民族の伝統を汚している、そんな色を塗る事には意味が無いと。僕はそんな事は無いと反論したが聞き入れられず、彼らはずっと大声で怒鳴り続けていた。そして、僕の紫色の塗料を零して捨ててしまい、白を塗るようにと白の塗料を僕に押し付けた。僕のブラシには紫色が着いていたから彼らが強制的に僕の手を持ってブラシを白い塗料に浸けた時、その白い塗料は白ではなくなった。それを見た彼らはさらに僕を罵った。そして僕を引っ張ってどこかに連れて行った。
「それで、どうなったの?」
僕は彼らの事務所というところで散々大きな声で罵られ、そして明日からは白を塗ると誓えと言われた。そしてその証拠に宣言書と書かれた紙にサインをしろと迫った。僕は何度も断ったけたけれども、そうしているといつまでもそこを出られないと考えて仕方なくサインしてしまった。彼らはそこで僕をやっと解放した。事務所を出る時に明日からも見に行くからな、と1つ付け加えて言った。
「それじゃ、明日からはそこに行かない方が良いわね。」
彼女がそう言った時、彼女の表情は何か少し喜んだような、そんなふうに見えた。次の日、僕はアミのところへは行かず、彼女に付き添われて仕事の紹介所にいた。仕事は簡単に決まった。その夜、彼女はいつもより少し豪華な手料理を用意してくれた。
「良かったわね。これで私たち、元に戻れるのね。明日からはまた一から出直し。さあ、食べましょう。」
僕はあふれる涙を止める事ができなかった。
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