【小説】黒く塗れ(6/13)
「あれ、どうしたのその傷?」
1週間の休暇を終えて出勤した日、朝一番で213099が僕のところに来て言った。1週間の無断欠勤の罰としてしばらくの間仕事を与えないと言う。その代わりに何もせずに椅子に座っているようにと。僕は無断ではなくて、規定に従って届けを出したと抗議したがとりあってはくれない。213099は僕の言う事を少しも聞かず、ただ座っていろと強く言い、最後に「いいか、わかったな」と念を押して行ってしまった。
僕は事務室に確認しに行ったけれども休暇届けは出ていない事になっていた。誰かが僕を陥れるために届けを握りつぶしたのかもしれないが、そこに無い以上、誰に何をどう言っても無駄で、僕は事務室で立ち尽くすしかなかった。すると事務員は、邪魔だから早く持ち場に戻れと大きな声で僕をそこから追い出した。
しばらくは、出勤はしなければならないが出勤しても椅子に座っているだけになる。そして指定された場所は会社の全員が出勤や休憩の時に通る通路の脇だった。だから皆が僕を見てそこを通る。通りがかりに何をやっているのかとか、どうしたのかと聞いて行く。僕はちゃんと答えられずに下を向いたまま座っているしかない。ひそひそと何か言いながら通る者がおり、クスクスと笑いながらの者もいる。トイレや食事に行くのは認められていたけれど、歩いていると後ろから来た者たちが邪魔だと言わんばかりに押したり小突いたりする。走って来て背中にぶつかって行く者もいる。そうして僕は1日のうちに何回も転んでしまった。
「それは酷いわ! 本当に酷い。」
そう言ってくれても彼女には何もできないし、僕にだって何もできはしない。今できる事は耐える事だけだ。
「101862、でもあなたは何も悪いことしてないんだし、きっといつかは良いことあるわよ。頑張って!」
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