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ダイアモンド・アプローチとの出合い

この記事は日本トランスパーソナル学会のニュースレター(2011年11月号)に掲載された文章の転載です。

 2004年の春、語学留学、そして、大学院留学のために、ぼくはサンフランシスコへと渡った。それからの数年は予想していた以上に難しい時期だった。言葉もままならず、異文化の中で孤独を体験し、日本で培ってきたはずの自信は儚くも崩れ去った。ダイアモンド・アプローチ(DA)の先生に出会ったのは、まだまだぼくが異文化の中で苦悩し続けていた頃、2006年の初夏だった。信頼していた大学院の教授と会って相談に乗ってもらっていたところ、「この人に会ってみたらどう?」と連絡先をもらって会ってみたその人がDAの先生だったというわけである。それから何となくその先生にほぼ毎週会うようになり、翌年の春に参加してみたリトリート・グループでの深い体験が揺るぎない決め手となって、DAを自分の主要な”道”として生きるようになった。DAに出合えたことは、ぼくにとって言葉で言い尽くせないほどに幸運な出来事だった。数え切れないほどのインクワイアリー(後述)を通じて、ぼくは以前からは考えられないほどに自由になった。そして、何よりも自分自身の本質・エッセンス(注1)に気づき、よりその本質を自分自身として生きられるようになってきている。


 ダイアモンド・アプローチは、創始者であるA.H. アルマース(Almaas) による書籍が現在までに15冊を数えているほどの大きな教えであることに加え、先生になるために最低14年以上を要する道(それを経ても先生になれる保証はない)であるので、それが何かを包括的に説明するのは難しい。さらに、DAの道の深さは、それを体験して”生きる”ことによってはじめて理解することができる教えである。これらのことを踏まえた上で、その教えの一部を紹介してみたい。


 ダイアモンド・アプローチは、古代からの様々なスピリチュアルな教え(スーフィズム、仏教、キリスト教など)と精神力動学、対象関係論や分離個体化理論をはじめとする近代心理学(最近では、トラウマ理論、愛着理論、ソマティック心理学などの考えも取り込まれはじめている)が統合された、今も継続的に発展し続ける、現代だからこそ登場しえた教えである。それらの統合された心理学的志向が、実践者が必然的に遭遇する自我構造の理解に正確性、明確さ、客観性をもたらし、スピリチュアリティ的志向が自我を超えた部分、つまり我々の本質・エッセンスに光を当てることになる。


 ダイアモンド・アプローチの教えは、心理学とスピリチュアリティが理論的には別々のものでありながら、人間の意識の領域においてはその二つを切り離すことが出来ないものとして捉えている。従って、心理的な成長がスピリチュアルな成長の一部として捉えられている。このことによって、我々の本当のポテンシャルへの障害と捉えられがちな自我構造やそこから生じる無知や苦しみそのものが、そのポテンシャルへの入り口として体験されることになる。従って、そのプラクティスは自我の超越を志向したものではなく、今ここで起きていることを探究し、それを体験的に理解していくことに重きが置かれる。それによって、自我を否定するのではなく、受け入れて、理解しようとする態度が生まれるわけである。


 このDAの主要なプラクティスはセルフ・インクワイアリー(self-inquiry) と呼ばれている。このプラクティスにおいてまず求められるのは、考えやセンセーション、感情、行動などを含む自分の即時の経験に注意を払うことである。最初は、過去の経験にインクワイアリーの焦点が向かうかもしれないが、「今」の自分に気づき続けることで、プラクティスは現在の経験の真実へと深まってゆくことになる。その過程で、自分の本質にたどりつくための障害(自我アイデンティティーや防衛機構など)への理解が深まり、その障害そのものが解体し、その障害が隠していた空虚な心理空間を深い痛みと共に経験するかもしれない。そのインクワイアリーが深く、誠実であれば、さらにエッセンスへと導かれることになる。このエッセンスを統合することで、私たちは多くの人にとって知られていない深みと充足感と共に生きられるようになる。


 ダイアモンド・アプローチは日本にはまだ正式に入ってきていないが(注2)、アメリカ、ヨーロッパを中心に広がりを見せている。日本にこの教えが入ってくるのもそう遠い未来ではないのかもしれない。


注1
エッセンスは、実際に”触れる”ことができ、確かに存在しているプレゼンスであり、私たちの本質である。エッセンスは超越的な本質(True Nature)から分化したものであり、様々な側面がある。例えば、力(Strength) のエッセンスは、活力や広がりの体験に特徴付けられ、勇気とアクションの源でもある。他のエッセンスと同様、力のエッセンスは常に存在しているが、これが自我の防衛機構などによって制限されると、怒りなどの形でのみしか感じることが出来ない。

注2
ダイアモンド・ロゴス(Diamond Logos)は日本に入ってきている。ダイアモンド・ロゴスは、1979年から1986年までDA及びその教えを学ぶためのRidhwan Schoolの発展に貢献したアルマースの友人であるFaisal Muquaddamが独立し、DAを基礎としながらも独自に発展させている教え。

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