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臓器スリーアウト、人生交代説

 不穏な表題から不謹慎な話を展開します。

 十数年の臨床経験の中で病を通して多くの人生と死に関わってきた医者の、ひとつの仮説です。
 

生命活動の維持に必要な臓器が
3つ使えなくなったら、
潔く今世に別れを告げて散るべし。

三臓器仮説

 これに尽きます。

 何故か。

 苦しいからです。助からないからです。現代医療の限界です。望まない侵襲的医療によって終わらない苦痛の業火に焼かれていく様は地獄と同義です。こんなはずではなかったと嘆く無責任な家族は患者本人から目を背け、意思疎通の手段を失った当人を苦しみから解放する術は、日本の法律が罪と規定しています。因って誰にも蛮行を止めることは叶わず、善意の医療が生命を蹂躙します。

 それが、延命治療というものです。

 臓器不全にも可逆的なものはありますから、三臓器仮説にも例外はあります。例えば治療し得る敗血症による多臓器不全や、外傷による出血性ショックに伴う瀕死の状態など。命は平等ではありません。限られた医療資源を適切に分配するためには、常にトリアージの視点が必要です。

 例えば、慢性腎不全と肝硬変と骨髄異形成症候群による増血障害があるようなアルコール依存症の人が誤嚥性肺炎になったら、それは寿命です。

 例えば、拡張型心筋症による慢性心不全で循環作動薬の持続静注を中止できない人が虚血性腸炎で何も食べられなくなったときに偶発的に肺癌が発見されたら、それは寿命です。

 例えば、認知症で意思疎通ができず糖尿病性腎症による慢性腎不全に維持透析導入も困難な人がCOVID-19で重症化したら、それは寿命です。

 挙げればキリのないほどに、天寿に見える人々に対して無慈悲なる延命治療が為されていく光景を、私は幾度も経験してきました。



 立法と行政と司法の腐敗によって、日本国の医療は崩壊の一途を辿っています。高齢者に対する過剰医療が国を滅ぼすのだというシンプルな構造に、誰も彼も口を閉ざします。法解釈や現場任せでどうにかなる問題ではありません。これは国家の取り組むべき事案であって、革新的な舵取りを実行するリーダーがなければ、現代文明の終焉は近いでしょう。


 死を忌避する世界には生命もありません。

 どうか、生ける屍に救済を。



 拙文に最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございました。願わくは、貴方の生きる此の時が、白く儚く咲きますように。




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