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鍼と薬の境界/灸の話 【漢方医放浪記】

 江戸時代の医学書を紐解くと、医家(医師)の残した記録の中に、灸の記載が想像以上に多いことに気付きます。

 鍼灸学と漢方医学は異なる発展を遂げてきましたが、この差別化は江戸時代には既に確立されていたようで、鍼灸と漢方薬の境界にあったのが「灸」であったのだろうと考えます。

 江戸時代の名医・有持桂里も鍼治療が必要な場合には鍼灸師に依頼していたという話があります。それは専門分野の棲み分けだったのか、技術レベルの差があったのか、今となっては知る由もありませんが、そういう時代背景においても医家と鍼灸師の双方が診療に用いていたのが「灸」でした。

 灸の歴史は古く、有史以来長く受け継がれてきました。最古の医学書『黄帝内経』にも詳細な灸の記載がみられます。古代を生きた人類は、生まれてから死ぬまでを熱が冷めていく様子になぞらえて解釈し、人は冷えが極まると老いて死に至ると考えられていたそうです。冷えを老化や病に付随する現象と考えた古人は之を温める治療法に辿り着いたのでしょう。

 灸に用いられるもぐさの歴史も古く、今日に至るまでヨモギを主原料とした艾が灸に用いられています。なぜヨモギなのか。それが発見された当時を見ることは叶いませんが、おそらくは強い生命力を有して痩せた土地にも繁栄し得るヨモギの葉は入手しやすく、かつ人体に与える温熱刺激の程度として最適であって、香りの成分もまた人の心身を癒やすのに適していたのでしょう。現代においてもヨモギを超える素材は報告されておりません。

 さて、鍼灸とひとことにまとめられることの多い「鍼」と「灸」ですが、その理論体系は少々異なる性質のようです。私の専門領域は漢方薬を用いた薬物療法ですから、厳密なところは分かりませんが、治療に用いる兪穴ツボが異なるという話を聴きました。

 なるほど古典を紐解くと、灸法たる記述が散見されます。

 例えば七穴灸法と呼ばれる特殊な治療法は、かつて帯下病や寒疝と呼ばれた著しい「冷え」を伴う病態に極めて有効であったとされていますが、検索しても辿り着かない情報ですから、秘伝の灸術かもしれません。

 古い医学書から得られた七穴灸法を実践すると、たしかに大きな効果があることに驚きます。誤用や誤情報拡散への懸念から、メンバーシップ内の限定公開ではありますが、ここに記録を残し、結びとさせていただきます。

 七穴灸法に関する疑問・質問・感想などは、メンバーシップ内の掲示板にコメントいただけますと幸いです。もし、ご興味のある方がいらっしゃいましたら、当メンバーシップへの参加も是非ご検討くださいませ。



 拙文にお付き合い頂き誠にありがとうございました。願わくは、貴方の身体の冷えが温まり、心も穏やかに花開きますように。


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