最後の喫煙者
筒井康隆先生に敬意を込めて。
私は呼吸器内科医ですが、愛煙家を否定しません。私自身は気管支喘息のために喫煙をしませんが、タバコというものは特に嫌いではありません。もちろん非喫煙者に対する配慮はあった方が良いと思いますが、まるで愛煙家を悪の組織の手先のように叩く風潮には違和感を覚えます。
先日、外来でCOPD(肺気腫のうち、呼吸機能が低下して息切れ等の症状があるもの)で通院している方が恐る恐る診察室に入ってきました。
お話を伺うと「しばらく辞めていたタバコを、また吸い始めてしまった」と。他疾患の痛みや介護のストレスなどをきっかけに、吸い始めてしまったと言うのです。普通の呼吸器内科医なら、ここで嫌な顔をして患者さんを叱るかもしれませんね。しかし私には、彼女を叱る理由が見つかりませんでした。
「つらかったですね」と言い、何がどうつらかったのかお話を伺ううちに、彼女の表情は和らいでいきました。禁煙したいという希望のある方でしたから、感情は抑えれば抑えるほど強くなっていつか爆発してしまうものだという話をした上で、どうしたら本数を減らせそうか、タバコを辞めていけそうか、ということを話し合いました。
事実として、喫煙は肺気腫、肺がん、膀胱がん、その他様々な疾患のリスクになります。健康リスクを重視するなら、吸わない方が良いと思いますが、それは個人の嗜好と自由の領域です。
禁煙しなさいと命令する医者もいます。ひどいと「禁煙しなければ診療しない」などと言い出す者もあります。
医者がどれほど偉いのか。
個人の嗜好に口出し出来るほど偉いのか。
医者になると周りからチヤホヤされます。医師免許ってモテるんですよ。医者じゃなくて、免許の方が。それで勘違いしておかしくなっていく人を、私は何人も見てきました。
自分は偉いと勘違いした医者は、患者さんや医療スタッフに命令します。怒鳴る人もいますね。
高校の恩師の言葉を思い出します。
「皆さんは将来、決して『偉そうな人』になってはいけません。世の中には偉そうな人がたくさんいますが、目指すなら是非『本当に偉い人』を目指してください。本当に偉い人は偉そうにしていません。」
私としては患者ー医師関係は対等であるべきで、医療に対する需要と供給、契約関係と考えています。求められる結果に近づくための解決策を提案し、希望の医療行為を実施する。あくまでも起点は患者側であって、それに応えるのが医者です。
外来を訪れたその人は、爽やかな顔で帰っていきました。限られた時間の中でこなさなければいけない外来診療ですが、時にはかけるべき時間というものがあります。
30分〜90分も待てば、有名テーマパークのアトラクションに乗れますね。5分間のライドでも、満足度は高い。せっかく待ったのにつまらない、無駄に悲しい思いをして帰るなんてことはあってはならないのです。できることならそういう外来を目指したいと、私は考えています。
あ、すみません。
待ち時間はなるべく短くします。
拙文に最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました。願わくは、貴方の訪れる外来がテーマパークのアトラクションのように痛快なものでありますように。
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