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まず自分に鍼を打つ。

 医者とは不思議な職業で、ほとんどの場合、患者さんに処方する薬を自分で飲んだこともなければ、執刀する手術を自分にしたこともありません。生来健康で病というものを経験したことのない医者もたくさんいます。

 例えば一流のソムリエならば、客に薦めるワインを自分で飲んだことがないとは考えにくいでしょう。調理師が自分の料理を食べたことがない、なんてことも考えにくいことです。

 それが気掛かりで、私は今までにほとんど全ての漢方エキス製剤をテイスティングしてきました。生薬そのものや煎じ薬は機会あらば必ず味見をしています。美味なものもあれば、飲めやしないような風味の代物もあります。興味深いのは自分の体調によって味覚が変化するという事実です。

 さて、古来東洋医学では、その治療術として大きく3通りの方法がありました。薬と手術と気功です。薬は生薬の組合せを基礎とする中医薬や漢方薬であり、手術は鍼灸治療がこれに相当します。気功には硬気功と軟気功があって、前者は武術に応用され、後者は医学に応用されてきました。

 東洋医学領域における私のメインウェポンは漢方薬ですが、それだけでは解決できない病態も多く経験します。
 硬気功は弓道を修める中で概ね習得しました。軟気功は日々修練を積み、内気功は日常的に行っておりますが、外気功は消耗するので診療に取り入れるのは困難です。
 すると現実的には、次に研鑽すべき医術は鍼灸でしょう。

 打ちましょう、自分に鍼を。
 感じましょう、治療の効果。

 現代のトキを目指す身として経絡秘孔を利用した治療は必須です。人体の秘孔の位置は指先で触れれば分かりますが、場所だけ分かっても意味がありません。中断していた北斗神拳の修行を再開するときが来たということです。

 さっそく上半身の凝りや胃腸の疲れを改善すべく、自分に鍼を打ちます。場所によっては置き鍼もよいでしょう。響きを感じます。よし。

 効果と安全性を実感し、妻にも鍼を打ちました。
 漢方薬との相乗効果で上々の成果です。

 
 そんな卯月の夜。
 経絡図を眺めながら執筆を始めました。


 拙文に最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました。願わくは貴方の気血が滞りなく巡り、健康な朝を迎えられますように。



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渡邊惺仁
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