見出し画像

春の風 《詩》

「春の風」

其れは
間に合わせで作られた世界の中で

全ての辻褄合わせとは

かけ離れた場所にある

唯一の真実の様に煌めいていた


決して強い輝きではなく 

見逃してしまいそうな

弱く消えそうな光

限りなく透明に近い生命の輝き

窓の外の冬に似た静寂と

月を待つ夜に似た漆黒が混ざり合う

見捨てられた街に佇み

昼と夜の狭間に腰掛けていた

顔を持たない人々が通り過ぎてゆく

奇妙で
鬱屈した匂いを持つ不規則な風

僕は其の消えそうな光に

静かに手を伸ばした 

指先が小さく触れた


君は少しウェイブした髪に
触れながら僕を見ていた

瞳が微笑んだ 

確かに君は少し笑った

脚を組み替える時に
ロングスカートが揺れた


花柄のスカートの先から時々覗く

君のくるぶしと爪先に見惚れていた


何処か遠くの方で風の音が聞こえる

きっと春の風だと 

君は小さく囁いた

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?