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陰の青春

スマホを見ると、正午を過ぎていた。眠い。昨日の予定では今日は午後からは学校に行こうかなと思っていたけど、今日はもういいか。まだ眠気の残る体を起こして、窓を開けて外の空気を部屋の中に入れる。台所でお湯を沸かして白湯を飲むと少し目が覚めた気がした。スマホでメールをチェックする。凛花からメールが着ていた。
「今日も寝坊?沢田先生がため息ついてたよ?高砂のやつはやれば出来るのになーって」
やれやれ。相変わらずお節介だな。取りあえず部屋にいたくない気分だったので、起きて早々外出することにした。
 
家の近くにデパートがあるので、買い物はそこで済ませることが多い。取りあえずそこの本屋に行くことにした。いつもこの本屋で何時間も時間を潰す。大抵、文学か歴史コーナーで過ごす事が最近は多い。今日も近現代史の本を何冊か選んで、立ったまま読み込んでいた。
「あれ?陽?」
振り返ると制服姿の凛花がいた。
「なにやってたのよ、これで3日も学校来てないじゃん」
呆れたように僕を非難する。喧しい奴に見つかってしまった。
「遅くまで勉強してたんだよ。サボろうと思って休んだ訳じゃない」
「ふうん。何の勉強してたの?」
「まあ、文学とか」
「趣味じゃん」
「うるさいな」
僕は凛花を無視して手元の本を読もうとした。
「まあいいけどね。とにかく明日は絶対来なよ?先生も心配してるからね」
「はいはい」

何だか調子が崩されたので、一階の喫茶店で少し休憩することにした。フライドポテトを頼んで、ポクポクとそれを食べていた。それにしても、もう下校の時間か。学校の連中に見られたくないし、そろそろ帰るかな。

 名門と名高い国立の高校に通うことになったのは、単に家から近くて校風が自由そうだったからだ。入ってみると、意外にクラスメイト達は普通の奴が多かった。皆が皆、勉強ばかりしているわけではなかった。どの道クラスにはほぼ馴染めず、話す相手なんか誰もいなかったわけだが。保健室か図書室で過ごす事が多くて、凛花と初めて話したのも保健室でいつものように寝ている時だった。
「織田さん。また風邪だとか言って、仮病使ったでしょう?」
「三限の古文、苦手だから面倒くさくてさ」
「ちゃんと勉強しないと駄目よ?せっかくこんな良い学校に入ったんだからね?」
「でも奥でもう一人寝ているみたいじゃないですか?あの子はいいんですか?」
「あの子は、ちょっと特別な子だから。いいからさっさと戻りなさい」
「はーい」
この頃、既に僕は保健室登校みたいなことになりかけていたので、話し声も無視してベッドで眠り込んでいた。放課後になって、先生が会議かなんかで職員室に行ってしまった後、そろそろ起きるか、と机の上に積まれていたプリントでも暇つぶしに片付けようとしていたところだった。
ガラッと扉を開けて、さっきの女生徒が入ってきた。
「あれ?先生いないの?」
長い髪の小柄な女の子だった。一瞬僕と見詰め合った。僕は黙っていた。
「君、さっき奥で寝てた子だよね?先生どこにいるか知らない?」
「職員室だよ」
「そっか。ありがとう」
少女は手を振って去っていった。これが僕と凛花のファーストコンタクト。彼女は僕程ではないが、仮病を使っては保健室によく訪れていた。
「今日の現国難すぎ。私、国語は得意だと思ってたのにな。自信なくす・・・」
凛花はテーブルに突っ伏しながらそう愚痴っていた。保健室の先生はそれを聞きながら、お茶を煎れていた。
「陽。現国ならあなたさっき簡単そうに解いてたじゃない。教えてあげたら?」
テーブルで同じく、お菓子を食べている僕に先生はそう言った。
「僕は今忙しいので」
「・・・お菓子食べているだけじゃない」
凛花がこちらを睨んできた。
「っていうか、陽君って、いつも保健室で勉強してるんですよね?なのにそんなに勉強出来るんですか?
「この子、元々入試ではトップクラスの成績だったからね」
先生はため息をつきながら、こちらを見ている。僕は黙って和菓子を食べていた。ちなみに今はまだ授業中だ。
「へえ、勿体ないな」
それから凛花は現国の復習を頭を抱えながらやっていて、僕はベッドで寝転がりながらトルストイの小説を読んでいた。

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